新幹線で原作を読んで涙が止まらなかった

――この夏、話題の映画『今夜、世界からこの恋が消えても』で、眠ると一日にあったことを忘れる病気「前向性健忘」を患ったヒロイン・日野真織を演じました。初めて原作小説を読んだとき、どんな印象を受けましたか?

福本 新幹線に乗っているときに読んだのですが、号泣して、涙が止まらなくなりました。何度読み返しても、結末が分かっていても涙してしまう……。誰が悪い訳でもないし、今まで読んだことのないような本当に切ないストーリーでした。

――どのような役作りを意識しましたか?

福本 真織は事故に遭ってから記憶障害になってしまうんですけど、それまではアクティブな女の子だったと思います。それを前提として、まずは「記憶障害とは?」というところから三木監督に教えていただきました。実際に記憶障害の方のドキュメンタリーを見たのですが、その方は7秒で記憶を失ってしまうため、常にメモを取られているんです。そして、相手のことをよく見てらっしゃる。その瞬間にどれだけの情報量を得られるか、一瞬一瞬を逃すまいとされている姿を見て、観察する視線をまず意識しようと。その上で普段、真織は記憶障害ということを周りに隠して生きているので、外では普通を装っているけど、「どこかちょっと違和感があるものを作りたいね」と監督とお話ししました。

――三木監督とは、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)以来のお仕事ですね。

福本 『ふり、ふら』が私にとって初めての大きい役柄だったので、そのときもいろいろ相談に乗っていただき、励ましていただいたんですが、今回も壁にぶち当たってしまい……。悩んでいたら、優しく励ましてくれましたし、常に力になっていただきました。

――壁というのは、記憶障害をどう表現するかという点でしょうか?

福本 そうですね。演じながらも、ずっと手探りの状態というか、そこがずっと不安でした。物語が進むにつれて、透くんと真織がどんどん仲良くなっていくように見えるけれど、真織は記憶をリセットされている。でも、透くんに惹かれていくので、新鮮な気持ちを毎回保たなければいけない。だから、撮影後半になればなるほど難しかったですね。

――真織を演じている福本さん本人の記憶は上書きされている訳ですからね。

福本 私自身の記憶は消せないから、私の中で積み重なっていくものがある中で、でも真織はまた0からという、そのギャップがどんどん開いていっちゃって、それをどうするかというのが課題でした。