住野よるのことが嫌いなキャラクターを書こうと思った

――茜寧という複雑なキャラクター作りはどのように進んでいったのでしょうか?

住野 最初に決めた設定で茜寧は「住野よるのことが大嫌いな子」でした。僕は『君の膵臓をたべたい』(以下、『膵臓』)をはじめ『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』でも、ありのままの自分を出したほうがいいよ、自分の本当の心に従って選択すべき、ということを言っています。それを「うるせえよ」って思う子を書こうと。だから、茜寧は僕のことだけでなく、僕の好きなバンドのこともめちゃくちゃ嫌いだろなと思っているんです。だけど、そういう子のことをちゃんと考えてみたいし、僕のことを嫌いな子の幸せも願えたらいいなという理想があります。たとえば、小説のことを褒めている小説ばっかり書くのは、業界を褒めているだけ、という感覚があるんです。それと同じで、僕のことを好きになってくれそうな子だけを書くのはちょっとずるい、フェアじゃないと思うんです。

――自分のことを嫌いなキャラクターをひたすら考えるというのも精神的な負担が大きいように思います。

住野 そんなことは全くありませんでした。茜寧のほかにも、僕が今回書いていて一番楽しかったのは有名人に粘着してネットで悪口を言っている竜彬というキャラクターなんです。彼は一体どういう脳の回路で生きているんだろう、と。完全に理解はできないまでも、そんな子の内面を真剣に考えるのは有意義で、自分の中でも発見がいろいろありました。

――住野さんがご自身を投影されたキャラクターはいますか?

住野 読んでくださった方から「すべてのキャラクターを合わせたら住野よるになる」と言われましたが、自分のことが好きで正直に生きている逢がいる以上そんなことはありません(笑)。茜寧はすぐ「死にたくなった」と言いますが、僕も自分のことを嫌いだと思っている人間だから「消えたい」と思ったりすることは多々ありますが。

――物語のキーとなる作中作『少女のマーチ』の作者であるキャラクターも住野さんを彷彿としました。

住野 そう思われると思います。冒頭の彼女のインタビュー部分では、僕がこの7年間でたくさん言ってもらった「デビュー作から大ヒットを飛ばし、人気作家の仲間入りを果たした」ということを彼女も言われてますし。でも彼女という小説家に対する自己投影はあんまりないんです。むしろ同業者でライバルなのでちょっと嫌いなぐらいで(笑)。むしろ彼女の読者たちのほう、茜寧が『少女のマーチ』をどう思っているか、小説をどう見ているかという部分に自分の投影があります。

――改めて、これから『腹を割ったら血が出るだけさ』を読む方に見どころを教えてください。

住野 僕が今まで書いた小説史上で一番カッコいい奴が多い物語だと思います。特に、アイドルの樹里亜と朔奈が本当にかっこいい。朔奈が発する台詞はフィクションに思われるものが多いですが、実際にモデルとなった高井つき奈さんが言っている言葉だったりします。だから、これは本の中の出来事だけど、本当にかっこいい大人がいるんだ、というところが見どころだと思います。あとは茜寧のように『腹を割ったら血が出るだけさ』という物語を自分のことだと思ってくれる子が表れて、そこからまた無限ループに入っていったらいいなと思います(笑)。