この世界に希望が持てるものを書きたい

――住野さんご自身の小説に対するまなざしに変化はありましたか?

住野 小説家になって、ただ読んで受け取っていればいい、という気持ちがどんどんなくなっていきます。読みながら「こういう表現の仕方があるのか」と思ったりもしますし、同業者が書いているものだから、小説家としての立場といったものが気になってきたりもします。実際に会ったことのある人が書いていたりすると、どこかで評価が違ってきます。小説に対する純粋さがどんどん削られていくような気がするんです。

――純粋なエンターテイメントとして受け取れなくなってしまうということですか?

住野 小説家にならなければ、そんなことを思うことはなかったと思います。小説という媒体に余計な情報が増えすぎてしまう。それでも、読者の方から嬉しいお手紙をもらったときや、ずっと好きだったバンド「THE BACK HORN」さんにお仕事のご依頼ができたときは、小説家になって良かったと思います。以前は、自分の好きなアーティストがファンに感謝を伝える曲を歌っていたりするのを「どのくらい本当なのかな?」と思ったりしたけど、小説家になってからは「あれは1ミリも嘘じゃないんだな」って。

――読者の存在がモチベーションに繋がるんですね。

住野 そうですね。あとは、自分が作った登場人物に救われることもあります。毎日、特に何が起こる訳でもなく、ぼんやりとしている中で「この登場人物はかっこいいな」と自分が書いたキャラクターに対して思うんですよ。すごく落ち込んでいるときでも、「あいつらもこの世界で頑張って生きてるんだよな」と支えられる。それは、小説を書いていてよかったと思う瞬間ですね。

――すでに次回作も書き終えていると聞いて驚きました。

住野 『腹を割ったら』を書き終えてから、新たに書き始めていたら思いのほか早くできました。次は『膵臓』や『か「」く「」し「」ご「」と「』のような甘酸っぱいシーンを好きでいてくれている読者さんに「お待たせしました!」という気持ちです。

――次々と新しい作品を生み出されていらっしゃる住野さんですが、今後さらに挑戦してみたいテーマやジャンルはありますか?

住野 やったことのないジャンル、たとえばホラー、スリラーやサスペンスなども書いてみたいです。あとはこの間、夜中に「この世界にもっと希望が持てるものを書きたいな」と思ったんです。僕は、この世界はゆっくり滅びていっていると感じています。でも、自分がもっとこの世界に希望を持てるものを発見するようなものが書きたいです。

――最後に、これから進路選択を控えるティーン読者にメッセージをお願いします。

住野 この世界で生きていく上で、自分の心のありかたと、そう思っている人が多数派か少数派かというのは、全く関係のない話だと思うんです。けれども人は多数派だと安心するし、少数派だと怖い。でもそれは本質的に、自分が何をやりたいか、何になりたいかとも全く関係がありません。だから10代の方たちも、そして僕も、多数決に脅かされないように自分の生きる道を決められたらいいなと思います。何かになろうとすることは、そもそも少数派になろうとすることです。僕はそのほうが有意義だと思っているし、多数派になって少数派を排除することに楽しさを感じません。みんなが、それぞれ目指したい方向へ歩けたらいいなと思います。

Information

『腹を割ったら血が出るだけさ』
好評発売中!

著者:住野よる
出版社:双葉社
価格:1,650円(税別)

高校生の茜寧は、友達や恋人に囲まれ充実した日々を送っている。しかしそれは、「愛されたい」という感情に縛られ、偽りの自分を演じ続けるという苦しい毎日だった。ある日、茜寧は愛読する小説の登場人物、〈あい〉にそっくりな人と街で出逢い――。 いくつもの人生が交差して響き合う、極上の青春群像劇。

公式サイト

住野よる

作家

高校時代より執筆活動を開始。2014年に小説投稿サイト「小説家になろう」に『君の膵臓をたべたい』を投稿。話題となり双葉社より書籍化された同作は2016年「本屋大賞」2位、Yahoo!検索大賞“小説部門賞”など数多くの受賞。著書に『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』、『か「」く「」し「」ご「」と「』、『青くて痛くて脆い』などがある。

Photographer:Toshimasa Takeda,Interviewer:Yukina Ohtani