「BMSG」は新しい定義を自分で作って提示していくための場

――昨年、自身のマネジメント⁄レーベル「BMSG」を設立されました。何かきっかけはあったのでしょうか?

SKY–HI 最近、アーティストやタレントの独立が増えていますが、この先の人生を考えたとき、どういう風に生きたら一番楽しいのか考えると、既存のシステムからの脱却が最優先だと思いました。それには個人事務所的な独立の仕方が一番だなとも。当然、経済的なメリットもあります。ただ、それ以上に自分がやる意義、そして何に真の歓びを感じるかを考えたときに、自分と同じような境遇で苦しんでいる十代や二十代の人たちと一緒に何かをやれて、みんなで良い方向に向かっていくための「BMSG」の必要性を感じました。才能があっても世に出ることのできない若い人たちをバックアップすることが、自分にとっても、日本の音楽業界にとっても必要だと思ったんですよね。それでボーイズグループオーディション「THE FIRST」も立ち上げました。

――実際、独立されて活動の自由度も高くなったんですか?

SKY–HI もともと自由がないという状況ではありませんでした。ただ自由は責任とイコールですから、責任を同伴させることによって、自由がより明確になったという変化はありました。

――レーベル第一弾アーティストとしてNovel Core(ノベルコア)を抜擢した理由を教えてください。

SKY–HI レーベル立ち上げのタイミングでは、オーディションの開催はマストで進めていたのですが、同時に無名であれ有名であれ、自分と境遇の近い人を発掘、もしくは契約したいと思っていました。正直、今は日本の大手事務所と契約するメリットってそんなになくて、ラッパーで有名だったり、数字的に成功したりしている人たちは、基本的にインディペンデントでやっちゃうのがすべてにおいていいと思います。でもコアに関しては違うように感じていて。インディペンデントではなく芸能のやり方に活路があるタイプではあり、一方で方向を間違えると芸能的な消費のされ方で終わったり、旧来のアンダーグラウンド志向に消費されちゃったりすることを危惧しました。自分が経験したことを活かせば、コアを助けられると思ったんですよね。

――「THE FIRST」でアンダーグラウンドとオーバーグラウンドの狭間で苦労することが多かったと仰っていましたが、その辺の状況は今も変わってないんですか?

SKY–HI 変わってないですし、変わらないと思っています。なので自分で新しい環境をつくってしまうしかないですよね。今あるものに当てはめようとすると、自分が当てはまらないのは明確なので、新しい定義を自分でつくって提示していく。それをやっていかないと一生変わらないだろうなと。

――それは日本だけの状況なのでしょうか?

SKY–HI 日本が特に強いと感じます。韓国は10年ぐらい前からクリエイティブファーストの意識が強くなって、そこから脱却できてきています。

――韓国の音楽業界が一つのお手本になっているということでしょうか?

SKY–HI お手本まではいかないですけど、嫉妬の対象ではありました。もちろん韓国に問題点がないわけではないし、すべてが上手くいってるわけではないのを認識した上で、根本に音楽を作る人間のクリエイティビティが重視されているなと感じます。なぜ韓国がそういう状況になったかというと、現役のアーティストでも二十代後半ぐらいから育成だったり、芸能事務所の立ち上げだったりを始めているんです。そういう意味だと韓国の音楽業界は自分にとってプロトタイプに近い気はします。

――「THE FIRST」は現時点(※4月20日)で最新話の3回目まで配信されていますが、本当に参加者のレベルが高くて驚きましたし、オーディションの主催がSKY-HIさんだからこそ、これだけの逸材が集まったんだろうなと感じました。

SKY–HI ありがとうございます。これまでも自分の発言に共感してくれたり、面白がってくれたりする人は少なくなかったですけど、オーディション募集のステイトメントに、ものすごく共鳴する参加者がいるはずだという確信に近いものがありました。なぜなら自分が逆の立場だったら、そういうことを明言してくれる芸能事務所であったり、プロデューサーであったり、社長がいたら、すごく魅力的だから。現役感が前面に出ている自分だからこそ、それは感覚値として分かることでした。

――最初の面接から参加者一人ひとりに具体的なアドバイスをしているSKY-HIさんの姿が印象的でした。

SKY–HI この記事が出る頃の配信では、もっと内面の話も出てくるんですが、初期の段階では彼らに対してのリクエストやアドバイスは、技術的なことに特化しています。なぜなら会って1、2回の人に、内面の話をされても刺さらないだろうし、自分もそこに責任を持てないから。技術的な部分は1分あれば分かるし、人間性とパフォーマンスはわりと直結しているので、そこを自分の中の基準にしました。5月末には合宿編の配信も始まるので、そこで初めて内面性の部分にまで明確なアドバイスやリクエストをしています。

――地方オーディションはリモートでの審査となりましたが、それでも参加者に寄り添って丁寧に接しているのが、ひしひしと伝わってきました。

SKY–HI 次の審査に進めるかどうかは一旦置いて、応募して、会場まで足を運んでくれていることがシンプルにありがたかったです。人によっては数か月をオーディションの準備に費やしているし、ノリで参加したとしても数日はオーディションのために時間を取ってくれているわけで、多かれ少なかれ彼らの人生に影響していると思います。実際、競合のオーディションを蹴って来てくれた子もいました。そういうことを考えると、パフォーマンスを見せてもらう側としてできる限りのコミュニケーションを取りたかったですし、技術的なフィードバックもやりたかった。放送は編集でめちゃめちゃ短くなっていますけど、参加者それぞれと20~30分ぐらい話しています。

――13歳から15歳の参加者のレベルが高く、番組内で「ゴールデンエイジ」と呼ばれていますが、SKY-HIさんの頃と違いはありますか?

SKY–HI 圧倒的に違いますね。得ていた情報が違うからだと思いますが、特にK-POPネイティブは強いです。小学校入学前からK-POPを見て聴いて育ったら、クオリティ優先が当たり前で、音楽との距離も近くなります。しかも日本はダンススクールをはじめ各種インフラが整っていますし、人口も韓国の3倍近くある。物理的に考えて絶対にすごい才能がいるだろうなと思っていましたけど、本当にいましたね。

――そういう意味では16歳以上の子たちも、小さいときからK-POPが身近にありますね。

SKY–HI あくまで個人的な意見ですが、日本の若い子がミドルティーン以降から急激に才能が輝かなくなるのって、カラオケの影響が大きいと思います。14歳ぐらいまではカラオケに毒されていないので、音楽とメロディーがトントンなんですよね。でもミドルティーンになると、声が良かったり歌が上手かったりしても、メロディーのみにテンションがいっちゃって、音楽を聴いていない子が増えてくる。だから13歳の子と16歳の子に同じアドバイスをしても全然違います。若いうちは何でも吸収するから「スポンジみたい」と例えられますけど、年を取ってもスポンジな人はスポンジのままです。スポンジじゃなくなる要因があるとしたら、旧来の芸能やカラオケの弊害によって、曲がった努力をしたり、錆び付いた感性を刷り込まれたりするからじゃないかなと思います。

――オーディションでも、歌は文句なしに上手いけど、音楽に乗れていない子に、アドバイスをされていました。

SKY–HI 大事な順番として、音楽があるから歌があります。歌うために音楽が存在したことはありません。音楽を使って自分をアピールすることと、自分の技術を使って音楽を表現するのは、パッと見だと変わらないように感じるかもしれないけど、本質としては真逆です。日本の芸能や音楽に染まってきた人の音楽的リテラシーを考えると、前者でいいと思うし、そういうアピールができる子は上手く聞こえると思います。でも、それは本質的な音楽の喜びとは違うから、どこかで成長が止まったり、本人のモチベーションが止まったりしてしまうのかなと。自分も一緒に仕事をする相手としてモチベーションを保てないと思ったので、違うなと感じたら、伝えられる限りは伝えるようにしました。