「今」を切り取ってあらゆる可能性を想像する

――『#真相をお話します』ではマッチングアプリやリモート飲み会、YouTubeなど、現代的なモチーフがたくさん描かれています。私たちの身近なツールを扱う上でどんなことを意識されましたか?

結城 実際に自分が使ってみたり、使っている人の話を聞いたり、なるべくリアルな声を集めるようにしました。マッチングアプリなんかは、実際に使って結婚した友人もいるので、それがどういう風に使われていて、そこにどんな人間模様があるのかを着実に仕入れるように心がけていました。

――作中でモチーフとなるツールは、どれも近年で急速に私たちの生活に浸透したもので、使い方ひとつで結果が変わってくるものが多いと感じました。

結城 自分の経験では、まだ危険を感じるようなことはありませんが、危険性を孕んではいると日々感じています。こういうことする奴がいるかもしれないな、と想像しているので、僕が小説に書いたようなことも、可能性はゼロじゃないという意識は常に持っています。

――常に想像力を働かせるんですね。

結城 最近だと、相席居酒屋で起こるミステリーを想像したりしました。たとえば、相席居酒屋で立てこもり事件が起こって、犯人はそこに来ているグループの中にもともと紛れ込んでいる。その彼らがとある要求をして――みたいな。我ながらよくそんなことばかり考えるなとは思いますが(笑)。

――私たちの身近にあるものも結城さんの手にかかればミステリーになるのですね!

結城 YouTubeなんかは、自分がやっている訳ではないですが、私生活の切り売りのような部分が加速していったら、どんなことがあり得るのかということはいつも考えています。それこそ、子育て生配信などをやっている人もいますので、そこに視聴者投票を混ぜ始めたら参加型の子育てができちゃうな、と思ったのが新刊に収録されている「#拡散希望」の出発点だったりします。日々触れているものを、より過激にしたり、異常な扱い方をしたらどうなるんだろうか、と。

――「#拡散希望」はSNSをはじめとした各界で話題となって、「日本推理作家協会賞短編部門」を受賞されました。大きな反響を受けていかがでしたか?

結城 想像以上でした。毎回、これは面白いだろうと思って世に出してはいるのですが、人生で2本目に書いた短編だったので、「こんな賞をいただいちゃって良いんだろうか?」と戸惑いもしました。日本推理作家協会賞は全く想定していなかったので、ノミネートの連絡をいただいて、受賞と聞いた時は「とんでもないことになってしまった!」という感覚でした。

――「#拡散希望」はYouTubeをモチーフにしたまさに現代のミステリーです。

結城 「今」を切り取る話は、やっぱり皆さん関心があって、反響があるんだなという発見がありました。かといって、近々のものばかりだと話がチープになって、時代とともに古臭くもなってしまうので、今後全てをこういうテーマでいくことは考えていませんが、ビビッドな反応をもらえるという面では学びになりました。こういう路線も自分の中の軸として持って、折に触れて扱っていきたいな、と。

――今後新たに書いてみたいテーマはありますか?

結城 次に書く予定の短編のネタと被ってしまうのですが、Uber Eatsを扱ったものを書こうと思っています。Uber Eatsの置き配に手紙がついていて、それを写真に撮ってSNSにアップしたら、その手紙と紐付けてアカウントと住人が繋がってしまうという。こういう話も十分起こりうるものだと思います。

――長編作品を次々に発表されている結城さんの、小説を最後まで書き上げる秘訣はなんでしょう?

結城 やはり期限が決まっているどこかの賞に出すのだと定めることは必要かと思います。自分の場合は最初も、卒業文集に載せてみんなに見せるんだという思いがあったので、ある意味締め切りがありました。それで途中で詰まってもなんとか続きをひねり出して完成させるところまでモチベーションを保ち続けられました。期限が全くなくて「書いてみて」と言われたら、書き上げることはできなかったと思います。誰かの目に触れさせることを意識して、そのためにはいつまでに仕上げなければならないという、工程管理みたいなものがある状態に追い込む必要があるんじゃないかと。あとは気力でなんとかしましょう(笑)。

――最後にこれから進路の選択を控えているティーン読者にメッセージをお願いいたします。

結城 自分の中で勝手に線引きをしてほしくない、というのが一つあります。僕で言うなら、バトル・ロワイアルの小説を卒業文集に載せたことが、人生の分岐点だと思っています。当時、全く葛藤がなかった訳ではないんです。自分が書いた小説を載せるのはちょっと気恥ずかしいし、内容が内容なだけに怒られるんじゃないか、というようなことが頭をよぎりました。でも最後には腹をくくって、「やったれ!」と言ってやった結果、小さな成功体験が得られた。だから自分はこの道に進んだのだと思っています。なので、自分の中で「こんなことをやるのはちょっと恥ずかしいんじゃないか、怒られるんじゃないか」と線を引いて、本来なら挑んで何かが変わったかもしれない世界に踏み込まないのはもったいない。今、自分が何かをやってみたいと思っているなら、勝手に線引きをしないで、思い切ってその世界に飛び込んでみる。結果うまくいかなくても、それはそれでまた変えれば良いのが、若さの強い部分です。迷っているなら、とりあえず挑戦してみることをおすすめしたいです。

Information

『#真相をお話します』
好評発売中!

著者:結城真一郎
出版社:新潮社
価格:1,550円(税別)

子どもが4人しかいない島で、僕らは「YouTuber」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとたちがよそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)。日本の〈いま〉とミステリが禁断の融合!緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。日本推理作家協会賞受賞作を含む、痺れる五篇。

公式サイト

結城真一郎

作家

1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞しデビュー。2020年『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録された。2021年に「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、三作目の長編作品である『救国ゲーム』を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。

Photographer:Toshimasa Takeda,Interviewer:Yukina Ohtani