しんどいのは自分だけじゃないと思ってほしい

――児童相談所の光と影を描いた映画『ほどけそうな、息』で、新卒で児童相談所に入職して2年目の児童福祉司、カスミを演じていらっしゃいます。脚本を読んだ印象はいかがでしたか?

小野花梨(以下、小野) 私自身、虐待で子どもが亡くなるようなニュースを目にするたびに、心を痛めていました。今回、役者というお仕事で内情を知り、社会に向けたお手伝いができるのは喜ばしいことですし、しっかり演じなければと思いました。児童相談所のお仕事は、子どもを保護したり対話したりするのがメインだと思っていたんですが、脚本を読むと、たとえば家族がアルコール中毒の方の場合は病院に一緒に行くなど、家族の精神面のケアや保護を重点的にされていることが分かり、勉強になりました。

――ご自身で児童相談所のお仕事について調べましたか?

小野 監督が実際に職員の方を取材されたものをまとめたぶ厚い資料を読み込んで、自分の中に落とし込んでいきました。児童相談所で働く職員の方の生活などが事細かに書かれていて、職員は急に走らなければいけないことがあるから、絶対にスニーカーを履くし、両手が空いた状態にしておくために、バックではなく必ずリュックにする、などの具体的な対処法の他にも、職員の方がどんな思いでこの仕事をしているかも書かれていました。離職率が相当高くて、10年も勤めたら大ベテランになるそうです。若くして辞めちゃう人がとても多いお仕事なんですね。

――役作りで特に意識した点を教えてください。

小野 駆け出しの新人職員というのが肝だなと思いました。ベテランになるにつれて、よくも悪くも慣れてきます。新人だからこその新鮮な気持ちや葛藤を描けたら、作品がよりいきいきすると思ったので、一つつに喜怒哀楽すべての感情が動かされるというか、そういった新鮮味を持って演じようと思いました。

――小野さんご自身は、カスミのように仕事に追われてプライベートをおろそかにしてしまった経験はありますか?

小野 あります。簡単なことでいうと、家が汚くなります(笑)。飼っている2匹の猫と触れ合う時間がどんどん減っていって、寂しい思いをさせてると思うことでどんどん自己嫌悪に陥っていくとか。だからカスミの気持ちもよく分かります。

――今回は中編映画で上映時間は40~50分です。長編映画とは違う感覚だったのではないでしょうか?

小野 相当違います。私は長編映画と、ショートフィルムの経験が多い分、最初は戸惑いました。起承転結を普通の2時間超の映画と同じように表現すると収まりきらないし、あまりにも少なくすると物足りなくなる。そういったバランスや、喜怒哀楽のボリューム感はすごく難しいなと思いながら演じていました。

――ネグレクトされている疑いで一時保護されている女の子、ヒナを演じた佐藤璃音さんの印象はいかがでしたか?

小野 とてもかわいくて素直でいい子で、お母さんと何度も台本を読む練習してきたんだろうなと思いました。でも、いろいろな傷を負っている子という設定ですから「もうちょっと声のトーンを落としてみたらどうかな」「私の目を見ないで違うところを見ながらこの言葉を言ってみたらどうかな」などと、お話をしながら進めていったら一生懸命対応してくれて、心の中の不安定な部分がきちんと出ていて、よかったなと思いました。

――小澤雅人監督は社会的なテーマをよく取り上げることで知られていますが、演出面ではいかがでしたか?

小野 とても温厚な方で、演者側の意見をとてもよく聞いてくださいました。「動線はどうしよう、セリフはどうしよう」と柔軟に現場で対応してくださったのですごく居心地が良かったです。

――印象に残っているシーンを教えてください。

小野 月船さららさんが演じる、アルコール中毒になって育児放棄をしてしまうお母さんと対峙するシーンです。月船さんは、強い瞳の中に悲しい孤独感がある雰囲気というか、すごく鋭利なものがあるのに、それがすごくスカスカに見えるという、絶妙なバランスで説得力のあるお芝居をされていました。監督は、加害者は被害者でもあるという言い方をされていましたが、それを本当に体現されていたと思います。とても勉強させていただきました。

――ティーンの読者に向けて、映画の見どころをアピールしてください。

小野 カスミだけでなく社会に入って1~2年目ってみんなとてもしんどいと思うんです。しんどいのは自分だけじゃない、という安心感で救われることも多いと思うので、そういう見方をしていただけたらうれしいですね。普段はフューチャーされないうえ、誤解から批判を浴びることも多い児童相談所職員の内情を、こうやってフィクションの中で描けることに、私自身、このお仕事をしている意味を見出せました。普段見ることができない世界を覗くような感覚から、救いや気づきがあれば幸せだなと思います。