何千年も淘汰されない古典。面白くない訳がない

――今年、小野さんは映画『ハケンアニメ』にも出演されていますが、原作となった小説を高校時代に図書館ですでに読まれていたそうですね。

小野 小説が大好きで、小学校、中学校、高校と小説を読むために学校に行っていた気がします。図書室の本を何十冊と借りて、読みながら帰るという生活を送っていました。

――高校時代に読んだ本で印象に残っていたり、今の高校生にもおススメしたい本はありますか?

小野 難しいですね。映画もそうですが、一生かけても読み切れないくらいの本がこの世にはありますから。ただ、話題になっている本って絶対面白いんです。だから昔から、時間がない時は賞を獲った本、たくさんの人に評価された本を読むようにしています。『ハケンアニメ』は、本屋大賞を受賞した、高校生の時に読みました。ちなみに、(ピースの)又吉(直樹)さんの『火花』が芥川賞を受賞したのが、高校生の時だったんですが、自分の境遇ともリンクしているような気がして、一瞬で読み切ったのを思い出します。

――最近はどのような小説を読まれていますか?

小野 最近は「おしゃべりな古典教室」(NHKラジオ第2)に出演させていただいていることもあって、古典にも興味が出てきました。『徒然草』などを読んでます。

――古典は、とっつきにくそうな印象がありますが。

小野 と思うじゃないですか。でも全然難しくないんです。学校で勉強した文法や読み方が先行するから難しいと思い込みがちだけど、もともとは小説、物語です。それに何千年と評価され続けた小説だから、面白くない訳がないんですよ。面白くなかったら、とうの昔に淘汰されているでしょうし。『竹取物語』だって、当時は「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」という最初の文を暗記させられたものですが、今読んだら本当に面白いストーリーです。今のティーンの子たちにも、是非おススメしたいですね。当時は私も苦手だったのですが、作品を楽しむという視点で読むと面白いと思います。苦手意識を持たず、ちょっと楽しんでお勉強していただければな、と思います。

――学校を卒業したことで、俳優の仕事をしていくうえで、意識の変化はありましたか?

小野 今思えば、ちょっとした恐怖心はありました。資格を取ったり、手順を踏めば女優さんになれるわけではありませんし、自分が1カ月後、1年後、何をしているかも全く分からない。何の保険もない訳です。でも、実は保険があるお仕事って、それほどなかったりしますよね。そう考えるようになってからは、すっと楽になったのを覚えています。別に、この仕事だけが特別なんじゃない、夢を追う、好きなことをする以上、不安があるのはみな同じだと思うようになってから、恐怖心はなくなりました。あとは、経験がものを言う部分もあると思うんですね。色々経験することで耐性がつくというか、こういうこともあるよね、と思えることで、だんだんおおらかになれる部分もあると思います。

――ここ数年のご活躍はめざましいですが、次はこんな仕事をしたい、というように、常に目標を立てるほうですか?

小野 常に行き当たりばったり。いただけるお仕事で150点ぐらい取れるように目指して、実際にできるようにする、それだけです。演じてみたい役というのも、それほど考えることもなく来てしまいました。ただ、いつかはそういう目標みたいなものを作る生き方をしなければいけないかも、とは思っています。

――最後に進路選択を控えているティーンにメッセージをお願いします。

小野 偉そうなことは言えませんが、私は学生時代、複数の選択肢があったら、自分が大人になった時に、過去の自分を物語の主人公として小説を書くことを想像していました。自分をどういう人間で描きたいか、自分を主人公にしたノンフィクションを書いたらどうなるか、という方法で自分の選択肢を決めるんです。たとえ現実的な道を選んでも、「これでいいんだ」という気持ちがあれば、「これでいいと思ったんだ」という小説を書く訳ですから、それでいい。どういう自分になりたいかを俯瞰する物語の最中にいると、着地点も分からないし、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかもわからないからすごく難しいですが、物語をハッピーエンドにするかバッドエンドにするかは、自分次第です。ハッピーエンドにするという前提で、自分を俯瞰して目の前の選択肢を選んでいくというのはいかがでしょうか。

Information

『ほどけそうな、息』9月3日(土)~ポレポレ東中野にて上映

監督:小澤雅人
脚本:小澤雅人 齋藤萌
出演:小野花梨 月船さらら 行平あい佳 水石亜飛夢 飯島珠奈 橘ゆかり 古山憲太郎 佐藤璃音 須川啓太 川口紗弥加 赤間麻里子 高川裕也 斉藤陽一郎
撮影協力:東京都福祉保健局少子社会対策部
制作プロダクション・配給:マグネタイズ
製作:Foster Care Promotion Projectマグネタイズ
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
©2022「ほどけそうな、息」製作委員会

児童相談所に勤務し2年目のカスミ(小野花梨)。赤ちゃんを母親の元から引き離して一時保護したり、親たちに理不尽に怒鳴られたりする日々。疑問を感じながらも、上司や同僚のサポートもあってなんとか踏ん張っていた。そんなカスミは一時保護された9歳の女の子、ヒナ(佐藤璃音)のケースを受け持つ。ヒナの父、トオル(古山憲太郎)は仕事で留守にしがちで、母のシノブ(月船さらら)はお酒の問題を抱えていてネグレクトが疑われたが、二人とも反省している様子だった。しかしある日、カスミはつい感情的になり、シノブの信頼を失ってしまう。果たしてカスミはシノブの信頼を再び得られるのか。ヒナは両親のもとに帰ることができるのか・・・

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小野花梨

俳優

1998年7月6日生まれ。東京都出身。「嫌われ松子の一生」(06/TBS)で子役としてデビュー。21年NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK)で、主人公の親友役を演じ注目を集める。近年の出演作に、「親バカ青春白書」(18年/日本テレビ)「恋なんて、本気でやってどうするの?」(22/関西テレビ)、映画『プリテンダーズ』(21)、映画『ハケンアニメ!』(22)など。22年舞台「パラダイス」、9月25日〜10月3日森ノ宮ピロティホール、10月7日〜11月3日東京シアターコクーンに出演する。

Photographer:Yasukazu Nishimura,Interviewer:Takahiro Iguchi