5年ぶりの弾き語りツアーで確信したライブ愛

――9月7日に12thアルバム『オールライト』がリリースされます。制作期間がコロナ禍と重なりましたが、当時の心境はいかがでしたか?

矢井田 瞳(以下、矢井田) コロナ禍に入った頃は先の見えない不安で、どんよりした気持ちでしたが、ステイホーム自体は、音楽の練習をしたり、曲を書いたり、わりと家でできることが多くて、それほど苦ではありませんでした。そうは言っても、「この世界にどんな言葉を投げたらいいんだろう」って曲ができても歌詞が書けない時期はありました。ただ、そんな時でも「今できるベストの曲を書いていこう」とスイッチを切り替えられました。そういう意味ではこの2年間に感じたリアルな声が収められていると思います。

――明るい曲から始まり、途中でロック調やフォーキーの曲もあったりして、起伏に富んでいるし、バリエーションも豊かだと思いました。

矢井田 「さらりさら」は、こんな時代だからこそ、耳触りが心地いいサウンド、前向きな言葉を意識して集めた曲になっています。時間的な制約がない約2年間、「次に書く曲は今上がっている曲にない曲調で書こう」とか、ゆっくり考えながら作れたことも大きいです。普段は曲順も、前の曲の終わり際というか余韻、の後に来てほしい音を基準にすることも多いですが、今回はわりとすぐに決まりました。

――表題曲の「オールライト」に込めた想いをお聞かせください。

矢井田 日本語で「大丈夫だよ」という意味の「オールライト」、すごく魅力的な言葉だなと思っています。人から言われても、自分に言い聞かせてもいい言葉だし、大丈夫じゃない時に「大丈夫、大丈夫」って思えるために使うこともできる。この言葉に触れた人の数と同じ「オールライト」があるって素敵だし、今の時代にもストンとハマってくれそうだなと。アルバムのタイトルとこの楽曲のタイトルのオールライトはイコールじゃなくてもいい、とも思っています。

――歌詞からは強い自己肯定感を感じますが、ご自身はいかがですか?

矢井田 若い頃も今も低いほうです。それによって見える素晴らしい景色も多いけれど、あまりとらわれないほうが楽しい景色が見えるし、色々チャレンジして失敗したほうが楽しいことがたくさんある、と、歳を重ねて学べたように思います。

――ティーンにおすすめの曲を一つ挙げるなら、どの曲だと思いますか?

矢井田 テスト勉強中なら、サウンド的にも勢いがある「オンナジコトノクリカエシ」がいいかも。この曲を書いたのは夜中だったのですが、気持ち的にも、いい意味での「やさぐれ感」があったんです。冒頭のエレキな感じとドラムのパターンというサウンドも、「一気に吐き出しちゃおう」という気持ちで書きました。ティーンの頃って目標に向かって走って、それを乗り越えても似たようなハードルが何度もやって来がちです。「ここで悩んで、ここで解決したのに、またここで悩んでいるよ」っていう螺旋階段状態(笑)。同じように見えていても少しずつ上がっていってほしいなという願いを込めて書きました。

――ちなみに、アルバムのリリースに先駆けて配信された「駒沢公園」は、実際に駒沢公園で作られたのでしょうか?

矢井田 はい。一昨年前のお正月、駒沢公園に子どもたちが手描きで描いた凧など、たくさんのカイトが飛んでいるのを家族で見にいったんですが、飛んでいるカイトと娘の成長がリンクしたんです。子どもたちには可能性に蓋をせず、カイトみたいに羽ばたいてほしい、という願いを込めた曲です。

――歌詞には今のご時世も反映されているような印象を受けました。

矢井田 それは、たまたまです。娘が小さかった頃は「これ何色」「青だよ」というように、答えがある質問が多かったんですが、12歳になった今では、哲学的というか社会問題を思わせる質問も増えてきました。「恋と愛って何が違うのかな」「何で戦争するんだろう、終わんないんだろうね」などと言われてドキッとしたことで、こういう曲が書けたんだと思います。

――4月から始まった5年ぶりの弾き語りツアー「矢井田 瞳 弾き語りツアー2022 〜Guitar to Uta〜」も7月18日の北海道でフィナーレを迎えました。振り返ってみていかがですか?

矢井田 全国ツアーも全くできなかったし、ライブも無観客や配信での開催になって、ちょっとだけ寂しさを感じていたので、ギター一本背負っていろいろな街に行って、ステージで歌って、それを聴いてくれるお客さんと楽しい空間を作っていくライブ自体が本当に愛おしかったです。「そうそう、これこれ、これがライブ!」って思ったし、コールアンドレスポンスはできなくても手拍子や、手を挙げてもらったりして繋がった感じが作れました。マスクをしていても、「今日、私は全てをヤイコに送る!」みたいな眼力がすごく伝わってきました。