二足のわらじが逃げ道になっていた。卒業を機に音楽で生きていくと決めた

――デモテープを送ったことがきっかけでデビューが決まったそうですね。

矢井田 オーディションをたくさん受ける度胸がなかったので、音楽のオーディションの雑誌から、身長、体重が応募要項にないオーディションを選びました(笑)。「音楽に関係なくない?」と思ったからなんですが、そうしたら一か所しか応募できなくて。今でもデモテープを「届いてくれ~」って思いながらポストに入れた瞬間を覚えています。

――デビューはオーディションから1~2年後のことですよね。

矢井田 初めてワンマンライブをした時はすごく楽しかったです。直前まで怖かったし、力が入りすぎて声の出し方やペース配分なども全然できてなくて、40点ぐらいの出来でしたけど。でも終わった後、当時のプロデューサーの方から、「新しいおもちゃを手にした子どもみたいだな」って言われたのを覚えています。ライブの楽しさをライブに教えてもらったなと思いましたね。ボイトレなど、特別なレッスンをすることもなかったから、身近なミュージシャンの方全員が先生で、いろいろ教えていただきました。いい意味ですごく視野が狭かったというか、自分の身の回りで起きていることが、その後どうなっていくか、ということまで考えられていなかった。「身近な人の期待に応えたい」と、必死だったんだと思います。

――デビューから早い段階でブレイクされ、目まぐるしい日々を送られていたのではないかと思います。

矢井田 世間で自分がどのように映ってるかを考える暇もないくらい忙しくて。月~金は大阪で大学生活、土日は東京で仕事という日々で、洗濯機の中にいるような感じでした。たまに「売れてるってどんな気持ち?」と聞かれても、「なんでそんなん私に聞くのかな」って思うくらい、その答えを全く持ってないことに気づいたくらいです。ただ、友達も変わらず接してくれたこともあって、それほどとらわれてはいなかったですね。

――多忙な大学生活を送られていたのですね。卒業が近づいてくると、人生の選択を迫られる場面が増えてくることも多いと思います。

矢井田 みんなが就職活動をするなかで、私は「音楽で生きていく」って決心した時期でした。学業と音楽という二足のわらじは、両方の逃げ道にもなっていた気はしていたけれど、一つに絞るとなると結構ドキドキした覚えはあります。大学卒業を境に上京しましたが、当時はツアーも年に2回していたこともあったし、レコーディングで1ヶ月単位でロンドンで過ごすことも多かったので、自分はどこに住んでいるのかなという感じでした。

――そんな矢井田さんも、プライベートでは一人のお子さんの母親でもあります。家族を持ったことで、物事の捉え方などに変化はありましたか?

矢井田 以前は音楽、仕事、生活、友達、遊び……、全部がバラバラでした。でも母親になる頃には全部が円で繋がっていて、より自然な形でというか、音楽を通して、社会と繋がったり、喜怒哀楽を表現していることに気づきました。新幹線から各駅停車に乗り換えた感じで活動できるようになったような気がします。ただそれは母になったからなのか、年を重ねたからなのかはわからないです。

――ご自身の音楽をお子さんに聴かせたりすることはありますか?

矢井田 「今から歌うから聴いて~」っていうことはないですけど、ギター、電子ドラム、パーカッション、ピアノとかが転がっている家のリビングで練習したり曲を書いたりしているので、自然と聴いてるというか、聴かされてるというか(笑)。放っておくと子どもはドラムも叩けば、ピアノも弾くし、ギターにも自由に触っていて、身近にあるものとして捉えていると思います。

――今回の収録曲は子どものコーラスが効果的に使われていますね。

矢井田 子ども達が新しいことを学んでいる時の眼差しや姿勢を見ているのが大好きなんです。キラキラした眩しいオーラを感じるので、それをまんま曲にできたらいいんじゃないかなって思って作りました。だから、そんなに行き詰まることもなく、サビもパッとできたし、子ども達の声を入れたら、よりいい輪郭が出るんじゃないかなと思ったんです。

――最後に進路選択を控えているティーンにメッセージをお願いします。

矢井田 進路か、懐かしいなあ。それぞれ環境も違うし、何とも言えないですけど……子どもって「自分はこうしたいけど、親や親戚はこうしたほうが喜ぶかな」って、意外と気を遣いますよね。でもその必要はないと思います。今はまだ自分の実力が足りなくても、これから追いつくんだぐらいの気持ちで、自分の直感を信じる選択肢もアリなんじゃないかな。

Information

12th Album『オールライト』 
2022年9月7日(水)リリース

■初回限定盤(2DISCS:CD+DVD) COZP-1934〜5  4,000円+税|特典DVD(5年ぶりの全国弾き語りツアーライブ映像、ツアードキュメンタリー収録)付
■通常盤(CD)COCP-41813  3,000円+税

収録曲(初回限定盤/通常盤共通)
1.さらりさら ~井村屋「あずきバー」2022年CMソング~
2.オールライト
3.花のような君に 〜創建「ルナシティ青葉はつが野」TVCMソング~ 
4.ずっとそばで見守っているよ ~井村屋「あずきバー」2021年CMソング~
5.オンナジコトノクリカエシ
6.shadow/alone
7.Everybody needs a smile 〜「ECCジュニア」TVCMソング〜
8.LOVESiCK
9.駒沢公園 ~TBS系列「ひるおび」9月エンディングテーマ~
10.speechless

■BONUS DVD (初回限定盤のみ)
「矢井田 瞳弾き語りツアー2022 〜Guitar to Uta〜」Documentary & Live
1.Documentary
2.虹のドライブ
3.かまってちゃん。
4.ずっとそばで見守っているよ
5.Look Back Again
6.My Sweet Darlin’
*2-6 Live at 渋谷CLUB QUATTRO(2022.6.4)

NEWアルバムリリース記念ライブ「⽮井⽥ 瞳release tour 2022『オールライト』」
10⽉7⽇(⾦)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋⾕公会堂)
10⽉22⽇(⼟)⼤阪・メルパルクホール

公式サイト

矢井田 瞳

シンガーソングライター

1978年7月28日生まれ。大阪府出身。「ヤイコ」の愛称で知られる。19歳でギターを始め、2000年5月、シングル「Howling」でデビュー、同年7月にシングル「B’coz I Love You」でメジャーデビューを果たす。2ndシングル「My Sweet Darlin’」の大ヒットを受け、サビのフレーズから“ダリダリ旋風”を巻き起こした。同年10月リリースの1stアルバム『daiya-monde』は、アルバムランキング初登場1位を獲得、ミリオンセラーに。国内活動と並行して、UKレーベルからもリリース、UKツアーを成功に収めた。現在も新曲のリリースや全国ツアーの開催、イベント出演等、精力的に活動を行っている。

Photographer:Tomoaki Isahai,Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Yui Nomiyama, Hair&Make:Rie Aoyama