自分を受け入れて、認めてくれる人たちが、周りには確かにいる
――随所に長回しを効果的に配した独特のカメラワークが、アイコの気持ちを巧みに捉えているように感じました。
松井 実際に長回しで撮影している時は全く意識していなくて、「完成したらどうなるんだろう」くらいの感覚だったんですが、寄りのシーンは過去の人生にないぐらいカメラに寄られていました(笑)。ラストシーンでカメラがアイコに寄るシーンも、カメラのフレームが頬にあたるくらいの近さでしたからね。その近さに驚きつつも、アイコの目をちゃんと映すことで、言葉に頼らなくても、カメラワークで彼女の想いを表現できる方法が面白かったです。撮っている時は全体が分からないことも多かったので、1本の作品になって、腑に落ちることも多かったです。
――ラストのダンスシーンは松井さんのアドリブの動きが多かったのでしょうか。
松井 基本的なステップだけ教えてもらって、そこから楽しく自由にやってくださいという感じでした。
――まさに言葉よりも、ダンスによってアイコの気持ちが能弁に伝わると感じました。
松井 後で自分が演じていた時の表情を見ていると、どんどん開けていく感覚があったような気がします。私自身はちょっと恥ずかしがりなので、踊ったりするのは抵抗があるタイプなんですけど、実際にやってみると、どんどん楽しくなっていって、ああいうシーンになりました。
――映画の大きなキーワードに「コンプレックス」があると思います。コンプレックスに対して松井さんはどう考えていらっしゃいますか?
松井 『よだかの片想い』を読んだ時に、コンプレックスは自分が抱えるものというより、人に指摘されて初めて気づくものなんだと発見しました。アイコも同級生に「顔のアザが変」と言われて、「自分の体の一部が人と違うのが変なんだ」と初めて気づかされてしまう。私自身の過去を思い返しても、コンプレックスは人から指摘されたことで、気になったことのほうが圧倒的に多いと思うので、ちょっとした呪いみたいなものなのかなと。でも考え方を変えると、コンプレックスはチャームポイントにもなりえるなと感じています。
――松井さん自身、コンプレックスをチャームポイントだと感じた経験はあったのでしょうか?
松井 今はそんなこともないんですけど、以前は自分の左目がすごく嫌いでした。というのも今よりも奥二重だったので、「キツく見える」と人から言われたことがあり、それからずっと前髪で隠していました。でもお芝居をする時に、「左右の目の表情が違うのが素敵だね」と言ってもらえて、「一つの顔なのに、二つの顔を見せられるのってお得だな」と思って。考え方を少し変えれば、自分にとってプラスにもなりえるんだなと、今は前向きに考えられるようになっています。
――改めて映画の見どころを教えてください。
松井 アイコの初恋の物語でありながら、自分が周りの人に受け入れられ、助けてもらっていたということに彼女が気づいていく物語でもあります。それはどの人にも当てはまることで、自分の殻の中に閉じこもって、「私の周りには誰もいないんだ。一人ぼっちななんだ」と思っていても、ちょっと見方を変えると、そんな自分をしっかり受け入れてくれて、認めてくれる人たちが、周りには確かにいるんですよね。そんなことを、この映画を観た人にも感じてもらえたらうれしいです。