ゼロから作品を作る大変さと面白さが体験できた

――撮影しながらそういったものを計算していくのは難易度が高そうです。

水川 職人さんのなせる業だなと思いました。「音声さんはこういう理由で、音をここで足すんだ」「照明はこうするんだ」ということは、役者としてその場に立っていると分からないものです。でも今回監督を務めさせてもらって、現場でいただいたいろんな提案を膨らませていくと、「なるほど、こう見えるんだ」と知ることができたので、貴重な体験でした。みんなのアイディアが詰まっているし、プロの職人芸というか、光る技を随所に感じていただける作品になっていると思います。

――光をうまく活用したシーンが印象的でした。

水川 最初は、前半と後半で色を変えようと思っていましたが、突飛なものになると思って諦めました。でも照明担当の方が私の思いやその意図を酌み取ってくれて、前半は少し暗い照明にしたりしてくれました。

――音楽の使い方も緻密に計算されていますね。最初は打楽器だけだった音が微妙に変化していきます。

水川 台本を読んでいただいた上で、作品が出来上がってから、登場人物の「おとこ」の心情・情景に合わせて音を乗せていただいたので、最初から最後まで途切れない1つの音楽なんです。作品を通して、ずっと音が鳴り続けている、素敵な一曲に仕上げてくださいました。

――繰り返す日々の中、些細なきっかけで変わっていく男の姿が描かれていますが、主演に窪田正孝さんを起用されています。

水川 初めての監督作ということで、分からないことが多いし、演出自体も未知なので信頼できる人じゃないと厳しいのかなと思って、彼にお願いしました。

――先ほど普段演じているだけでは分からない部分も見えてきたと仰っていました。今後の俳優活動に活きる部分がありそうですね。

水川 関わり方がいい意味で変わるかな、と思いました。役者はある程度地盤が組まれた状態でオファーをいただくことが多いので、ゼロから関わる機会はあまりないんです。今回は、ゼロから作品を作っていく過程の大変さと面白さを両方経験できました。役者は「この役をどうしようか」って役作りに没頭しがちだけれど、より大きな視野を持って、作品にどう関わったらいいのかが分かった気がします。本当に貴重な経験でした。

――今回の経験がきっかけとなって、今後はスタッフのお仕事にも興味が出てきたのではないでしょうか?

水川 私は普段からスタッフの方の動きを見るのが好きなタイプなので、コミュニケーションもわりと取ったりしながら現場では楽しんでいるんですが、今後は役を演じる上での気持ちが変わるかなという予感がします。