すぐに思い浮かんだ犯沢さん役の蒼井翔太

――「犯人の犯沢さん」のオファーを受けた時はどう思われましたか?

大地丙太郎(以下、大地) 「ギャグ作品なので、是非大地さんにお願いしたいです!」というオファーだったので、手放しで喜びました。「名探偵コナン」に携わるのは本作が初めてなので、『犯人の犯沢さん』を読んだ後、『名探偵コナン』を読み始めました。10巻ぐらいまで読んだところで、「コナン」の世界を把握しました。歴史が長いので、全て把握できたかどうか分かりませんが、その上でもう一回『犯人の犯沢さん』を読んだんです。『名探偵コナン』のほうは「本家」と呼んでいるんですが、犯沢さんで使われているネタと本家の元ネタのすり合わせをしました。

――ちなみに、監督が気になった『名探偵コナン』のキャラクターは誰ですか?

大地 安室ですね。カッコいいですよね。古谷(徹)さんが凄すぎて。同じアムロでも、ガンダムのアムロとは全然違う。相当感動しました。池田秀一さんなどレジェンド的な声優をたくさん使っていらして、豪華なアニメだなあと。

――『犯人の犯沢さん』にはどの様な面白さを感じましたか?

大地 犯沢さんの設定自体、ものすごくシュールだと思っているんです。犯人が犯罪を起こすってどんな話だと思ったら、地道な日常生活を送るハートフルな話で。その中で「今度こそ犯人になるぞ」という強い想いがあるギャップだと思うんですよね。

――そんな世界観をアニメにする時に心がけたことは何ですか?

大地 原作がある場合、原作を読み解く作業になります。最初に原作を読んで全体像をつかんでから、コンテに一つ一つを描き起こしていくことで、1コマにいろんな情報が隠されていることが分かったりする。そこで、作品の深いところを発見しながら楽しみながら作業していました。僕は紙のコンテの後に「Vコンテ」というムービーに尺の全てを決める作業をするんです。自分で一度、犯沢さんや周りのキャラクターを演じたり、セリフを言ったりすることで分かってきます。作品を理解する意味では、体験したほうが分かりやすいので。箇条書きにテキストにできるようなものじゃなくて、感覚を掴む感じです。ツッコミのタイミングなど、犯沢さんが考えている奥の部分が分かるようになります。

――人気声優の蒼井翔太さんを犯沢さんに起用したことも話題になっています。

大地 僕がお願いしました。通ったのでうれしいです。犯沢さんの正体が謎ですよね。『名探偵コナン』の犯人は最初正体がわからないから、全員黒タイツ男なわけです。正体がばれた時に体型が全然違うのが面白い。おばあちゃんだったりとか(笑)。原作者のかんば(まゆこ)先生と最初の打ち合わせで、「犯沢さんって、もしかしたら女性かもしれないんですよ」って言われて「あ、確かに」と。男性役でも女性役でも演じられる声優は、知る限りでは蒼井さんだなと、すぐに思い浮かびました。しっかりと仕事をするのは、初めてだったんですけど、僕の「明治東亰恋伽」っていうアニメで、滝廉太郎の役でワンシーンだけ出てもらったことがありました。少年・滝廉太郎が上野公園で鳩に餌をやりながら「鳩ぽっぽ」の作詞を模索するシーンでの演技がすごく面白かったんです。「鳩ぽっぽ」ができるまでに「違うな、違うな」とか言いながら演じているのがかわいいし面白かったので、「彼はギャグいけるな。一回組んでみたいな」と、ずっと思っていました。

――実際にお仕事されてみていかがでしたか?

大地 とてつもなくすごいですね。思った以上に頑張ってくれています。本編では9割彼がしゃべっているので、かなりの重労働だったと思いますが、色々な演技を見せてくれて、僕らスタッフも笑いながら収録を聞いていました。彼は再現がうまいんですよ。僕が作るVコンテには全部僕がセリフ入れをしているんですけども、「明治東亰恋伽」の滝廉太郎の時も、僕が歌っている「鳩ぽっぽ」の歌を、僕はアドリブででたらめに歌っていたけど、完コピしてきた。「完コピじゃなくていいんだよ」と伝えたら、即座にプランを変えてきたんですね。その切り替え、アレンジの早さがすごく犯沢さんには向いていると思いました。

――臨機応変に演じられる力があったわけですね。

大地 「犯沢さんは男かもしれない、女かもしれない。キャラクターがカットごとに変わっても全然いいキャラじゃないかなと思うし、その時の感覚で演じて欲しい」という話もしたら、その通りに演じてくれました。感情はもちろん「今度こそ犯人になる」みたいなモノローグから、お母ちゃんに甘えるところの落差とか、コロコロと変わるし、怖いやつかと思ったら誰かに怯えるところとか、どんどん切り替えて演じてくれます。さすがにプロだなと思いました。