自分の中に「物差し」を持って、目標に進もう

――ご自身のターニングポイントになったと感じた瞬間、次の段階に進んだと思えた作品などはありますか?

石田 大学在籍中に作った『フミコの告白』は、ひとつのステップになったと感じました。そもそも習作を重ねて練習するとか、とりあえず素振りから始めるみたいなタイプではなかったんです。もう最初から「当たって砕けろ」というか、こういうものを作れたらいいなというビジョンがあって、それをもとにある程度の計画を立てて、作りながら覚えていくみたいなやり方をしていました。当時はもちろん商業作品っぽい作画なんて全然やったことがなかったし、できるかどうかも分からなかった。ただ、それまで観てきた先人の作品の質とか、そこから得られた”感動値”みたいなものがとても巨大なものだったので、それをひとつの物差しにして、自分のなかの判断軸にしていたんです。つまり、観た人の感動を得るために越えなきゃならない一定のラインとして。そこに到達できればいいし、そのラインを越えられていなかった場合は、納得がいくまで何回もやり直す。その境界を越えた作品になれば、少なくとも学生作品の中では抜き出せて、世に出してもそんなに悪くないように感じられるのかな、と思って。当然、当時はそういう明確な意識はありませんでしたが、そういう物差しがあったのでギリギリ出来ていたんだろうなとは思います。

――ぶっつけ本番で作ったとは思えない、衝撃的なデビュー作でした。本当に、アニメーションを志す者なら絶対に観ておいたほうがいい作品だと思います。

石田 本当ですか!?今の若い人があの作品を観て、どんなふうに受け止めるのか、僕も知りたいですけどね。僕が思うのは、自分で何かを作ろうと思う時、技術そのものよりも「物差し」を持てるかどうかが重要だと思います。つまり「ここまでは達成するべき」という判断基準になる、自分の中の視点ですね。僕にとって、それは今も同じなんです。『ペンギン・ハイウェイ』も『雨を告げる漂流団地』も、商業長編で、製作規模も大きくて、目指すクオリティも全然違うんですけど、基本的な考え方は『フミコの告白』と同じ。ここまで行ったらOK、これより下回るとNG、という判断軸を常に持ちながら作っていくところは一緒です。大きく違うのは、自分の仕事の精度をコツコツ高めていく自主制作とは違って、スタッフさんの仕事に対して判断・指示を出していく「監督」という立場になったことですね。全部が全部100%のクオリティで仕上げられるわけじゃないし、スケジュールの都合や、自分たちの技量の限界もあるので、妥協せざるをえない部分もある。その判断軸は『フミコ』の時以上に、細分化されています。たとえば、完璧な画を目指したいというアーティストとしては納得いかないかもしれないけど、物語重視の一般のお客さんはそこまで気にならないはず、みたいな基準も設けるわけです。それは作品をスケジュールどおりに組み立てるためには絶対に必要なこと。そのラインの設定値と判断は、どの作品においても、自分の物差しとしてすぐに出せるよう設けてあります。ただ…強いて言うと画の物差しには自信があっても、話作りの物差しはまだ未知の領域が一杯で測りきれないですね(笑)

――アニメーション監督というお仕事を続けるうえで大切にしていること、やりがいを感じるのはどんな時でしょうか?

石田 今の話の流れで言うと、自分の物差しを遥かに超えてくるクオリティのものに出会った時と、そうではない水準のものが上がってきた時、その両方に対してそれぞれにやりがいはあるんです。前者の場合は、自分には到底かなわないパワーで、作品を予想以上に持ち上げてくれたサプライズと感謝の気持ちがあります。自分ひとりで淡々と頑張るしかない自主制作と違って、いろんなスペシャリストの方たちと仕事ができる商業作品には全然違う喜びがありますね。後者の「これはちょっと持ち上げないといけないぞ」という場合も、大変だけど楽しみな仕事でもあるんです。「ここをこうして、こう描いてほしい」という改善のための指示を、どれだけ的確かつ明確に出せるかどうか。それが演出家の腕の見せどころですから。その結果、修正したカットが俄然よくなっていた時は、やりがいを感じますね。アニメーション作りはそういう作業の連続です。

――仕上がりがすべて完璧に満足いく出来でも、それはそれで監督としてやりがいがない?

石田 そうですね。全部が全部、スペシャリストの素晴らしい仕事ばかりだと、自分の出番がなくなっちゃいますから(笑)。かといって、あんまり練度が低すぎる現場状況では破綻してしまう。どちらかが偏ることのないよう、バランスを保つことは大事だと思います。そのうえで、やっぱり大事なのは人との共生の仕方ですね。こういう大きな作品を作る時は、自分のなかに明確なビジョンを持つことも大事だけど、それを「100%達成せねばならんのだ!」と乱暴に振りかざしているだけでは作品は出来上がらない。スタッフと共生できなければ、単純に人が集まらなくなる。ちゃんと認めるべきところは認めて、褒めるところは褒めて、ダメだと思うところは相手の気持ちも尊重しつつですがしっかり指摘する。できる限りですが納得してもらえるように伝える。そうしてバランスを保ち、共生していくことができないと、大きな作品は作れない。監督として、それはとても大事なことだと思っています。どこまで本当に出来ているかは謎ですが(笑)。

Information

『雨を告げる漂流団地』
Netflix全世界独占配信中&大ヒット上映中

声の出演:田村睦心 瀬戸麻沙美 村瀬歩 山下大輝 小林由美子 水瀬いのり 花澤香菜
監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ 石田祐康
キャラクターデザイン:永江彰浩
キャラクターデザイン補佐:加藤ふみ
美術監督:稲葉邦彦
色彩設計:広瀬いづみ
CGディレクター:竹鼻まゆ
撮影監督:町田啓
編集:木南涼太
音楽:阿部海太郎
音響監督:木村絵理子
企画プロデュース:山本幸治
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
配給:ツインエンジン ギグリーボックス
製作:コロリド・ツインエンジンパートナーズ

🄫コロリド・ツインエンジンパートナーズ

公式サイト

石田祐康

アニメーション監督

1988年7月3日生まれ。高校時代からアニメーション制作を始め、京都精華大学マンガ学部アニメーション科に入学。大学在籍中の2009年、自主制作短編『フミコの告白』を発表。YouTubeなどの動画サイトで公開され、一躍注目を集める。大学卒業後、杉井ギサブロー監督作品『グスコーブドリの伝記』にスタッフとして参加。その後、アニメーション制作会社スタジオコロリドに所属。2013年、短編『陽なたのアオシグレ』を監督。2018年、森見登美彦原作の『ペンギン・ハイウェイ』で長編監督デビューを果たす。

Interviewer:Atsushi Okamoto