ピュアでシンプルな少年の思いを大切にした
――『ぼくらのよあけ』は、伝統あるSF 賞・星雲賞の候補にもなった、SF ジュブナイル漫画が原作となっているアニメ映画です。今回は声優として、宇宙とロボットが大好きな主人公・沢渡悠真を演じていらっしゃいますが、脚本を読んだ印象はいかがでしたか?
杉咲花(以下、杉咲) 宇宙船が出てきたり、宇宙とのつながりを感じさせるとても夢のあるテーマであると同時に、悠真や人工知能搭載家庭用ロボットのナナコ(悠木碧)が、自分が信じるもののために、ただただ突き進み続けるという姿が実はすごく身近で現実的に感じて。観てくださる方にとっては、ワクワクしながらも、どこか自分のことのように感じられるところが魅力的な作品だと思いました。
――SF設定だけに、台本だけで世界観をはじめ、すべてを理解するのは簡単ではないと感じました。
杉咲 台本上の文字のみを追いかけていると、この物語のなかでは一体どんなことが起こっているのだろうと自分の想像力の限界もあり、難しかったです。映像を観られるアフレコの日を楽しみにしていました。
――『思い出のマーニー』(14)、『メアリと魔女の花』(17)、『サイダーのように言葉が湧き上がる』(21)など、最近は声優としてのお仕事も多いですが、俳優のお仕事とは意識は変わってくるものでしょうか?
杉咲 あまり変わらないかもしれません。プロの声優ではない私にオファーをくださった理由を考えてたどり着いた自分なりの答えは、人物の心情をできる限り想像して実感を得ながら演じるという、今までやらせてもらってきたことだったので、精一杯やりきろうという気持ちでした。
――実写作品とは違って、声だけでの演技になります。どのように役柄を掘り下げましたか?
杉咲 監督から「声のトーンをなるべく下げてほしい」と演出をいただいたので、悠真の芯の強さや溢れる生命力が伝わるひとつの手段と解釈して、心がけていました。
――監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?
杉咲 「テクニックではなく、気持ちで演じていただくことが大事だと思っています」という言葉をいただいたことが、とても印象に残っています。緊張していた自分にとって救いになりました。
――悠真を演じる上で大切にしていたこと。また、悠木さんが演じるナナコとの心の距離間で意識したことはありますか?
杉咲 「宇宙のことが気になる」という、とてもシンプルでピュアな思いを大切にすることです。元気いっぱいではつらつとしている様子を、静かな空間の中で表現するのは難しく、飛び跳ねる、走る、動くということを実際にはできない状況で、どれだけ心の中でエネルギーを蓄えながらできるかということが課題でした。悠木さんとは実際に収録をご一緒させていただいたのですが、想像以上に互いの密度を感じられるほうへはみ出していけるような、とてもキュートで温かみのあるナナコの声を聴いていると、悠真として心が動く瞬間がたくさんあって。だからこそ何かを意識するというよりも、悠木さんのお芝居に素直に反応していけばいいんだという気持ちにさせてもらいました。
――アフレコは慣れましたか?
杉咲 慣れないですね。少し油断してしまうと、キューが出た時に「キューが出た!」とびっくりしてセリフ出しが遅れてしまったり。普段は感じることのない緊張感がありました。