完成度の高い原作をどうアニメ映画化するか

――『ぼくらのよあけ』原作のコミックを読まれた時の印象はいかがでしたか?

佐藤 大(以下、佐藤) 僕は団地好きが集まる「団地団」というトークユニットを組んでいるのですが、そのメンバーで、今回の作品でも協力していただいている大山(顕)さんから「こんなすごいマンガがあるよ」と聞いて初めて知りました。読んでみると団地の描写が素晴らしくて「原作者の方を団地団トークイベントのゲストに呼ぼう!」と盛り上がるくらい、面白い作品でした。一見、少年のひと夏の冒険の物語なのですが、団地、SF、AI、色々なアイデアが詰まっていて、多重的で素敵だなと。

――常に団地ものには目を光らせていらっしゃるのですね。最近、団地をテーマにした作品が多いですよね。

佐藤 今期も「よふかしのうた」と「異世界おじさん」があって、映画『雨を告げる漂流団地』があって、すごく多いですよね。世代的なもの、団地で育った人達が作品を作る年齢になったっていうのが大きいのではないかと考えています。

――偶然とはいえ、重なっていて面白いですね。本作の脚本を手がけるようになった経緯を教えてください。

佐藤 僕がその団地団のメンバーであることも、遠因ではあるのかなと思います。これを企画したプロデューサー、監督、制作スタジオがほぼ決まった段階で、「脚本家として参加しませんか?」とオファーを受けました。もちろんやります!というか、やる選択しかなかったので、僕のところにお話が来て本当に嬉しかったです。別の方がやっていたら悔しいくらい大好きな作品なので。

――願ったり叶ったりのオファーというか。

佐藤 そうですね。それからは、原作者の今井哲也(以下、今井)さんと出版元の講談社を説得するためのプロットを書くことになりました。今井さんはその後、団地団を通して知り合いになっていたのですが、その時は緊張感をもって、お互い原作者と、脚本家の立場として、講談社でお話をさせて頂きました。

――関係性を一回仕切り直したみたいな感じだったんですね。

佐藤 打ち合わせの場では知り合いかどうかは関係なく、お仕事として良い作品を作るために、関係値をフラットして話し合うことが大切だと考えていますので。

――コミックを映画の脚本にするのに、心掛けたことはありますか?

佐藤 原作を120分前後の映像にするには1つ1つのエピソードが長いと考えました。もし原作をそのまま膨らませた形にするのであれば、テレビシリーズとか、VODオリジナル作品によくある全6回シリーズなどがベストな情報量だと思います。でも、今回は劇場作品として、総尺120分の中で、原作の要素をどのように構成するか、ということを考えました。単純にキャラクターを減らすとか、エピソードを入れる・入れない、という方法もありますが、『ぼくらのよあけ』はエピソードが多重的に影響し合って、一つ抜くとジェンガみたいに崩れてしまう作品なんです。それだけ原作の完成度が高いので、キャラをひとりも削らず、この雰囲気のまま120分の映画として成立できるようにするのが一番大変でしたし、そこが一番大切なところだと思いました。

――単純に縮めればいいというものではなく、物語の大事な基礎となる部分を残しながら、尺を合わせていくのですね。

佐藤 原作を読まれている方は、「なんでこのシーンがないんだ」とか、「なんでこのセリフ変わっちゃうんだ」と思うかもしれないですが、少年がひと夏の冒険をしながら、人ならざる者たちとの出会いと別れを経験する。この雰囲気を大切にすれば、「ぼくらのよあけ」になるだろうという想いがありました。今井さんともそういったことを話し合いながら作れたので、すごく心強かったです。今井さんのほうから「ここ切っちゃっていいです」とか、「セリフを変えましょう」と言うのに対し、逆に僕や監督のほうが「これは原作の大事なセリフだと思うんで残しましょう」と今井さんに言ったりしたこともありました。そんな感じで、今井さんから積極的に会議に参加していただけたので脚本作業は楽しかったです。