〝ふるさと〟というものが印象的に描かれている

――『向田理髪店』は現代の社会問題を含みながらも温かいお話ですが、白洲さんは、このお話を読んだ時、どのような感想を抱きましたか?

白洲迅(以下、白洲) とても面白いなと思いました。舞台になっている過疎化した田舎は、今、日本が抱える大きな問題のひとつだと思います。そこに家族の愛が描かれていて、色々な事件が起こるんですね。ただのヒューマンドラマではなくて、ちょっとハラハラするような展開もあります。そして、ところどころにユーモアも散りばめられていて笑えるシーンがあるのも魅力的です。

――白洲さんは東京で会社を辞めて故郷に帰ってくる和昌というキャラクターを演じています。

白洲 東京から実家に帰ってきて、「会社辞めた、床屋を継ぐ」と宣言するシーンの前に、地元に帰って実家まで歩くシーンは、自分の中でとても印象に残っています。監督自身が〝ふるさと〟というものを印象的に描きたかったのかなって。台本読むだけではなかなか想像しにくかったのですが、福岡県の大牟田市というところで撮影させてもらって、ロケーションを見た時に、「そういうことなんだ」と思いました。ただ歩いているシーンではありますけど、気持ちとしては「厳しくてうるさい親父に仕事を辞めたって言わないといけない」というなかなか複雑な思いがあったと思います。

――すぐに理髪店に入れず、様子を伺う感じがまたその後のセリフに響いていました。役作りは監督と話し合いながらされていたのでしょうか?

白洲 森岡監督からは、特に「こうしてほしい」みたいなことはあまりなくて、僕らも意見を出し合いながら、撮っていきました。

――白洲さんの思う和昌像を演じられたのですね。

白洲 台本からの印象と、現場での皆さんとの掛け合いをしながら役を作っていきました。冒頭の帰郷のシーンは撮影の中でも終盤に撮って、ある程度皆さんとの関係性ができているので、本当に帰りづらくなるから、気まずい雰囲気を自然に出せたというか。僕としてはそれがすごくありがたかったです。