元々ASMRは好きでよく聴いていました

――「ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生」は、ASMR(※聴覚への刺激による反応・感覚)と、立体的に音声を収録できるダミーヘッドマイクがカギとなる新感覚のオリジナルテレビアニメです。オファーを受けた時の感想をお聞かせください。

大西沙織(以下、大西) 元々ASMRは大好きで聴いていましたが、アニメーションとコラボした時にどういった感じになるかが未知数だったので、ドキドキワクワクしました。ASMRをアニメーションに落とし込むだけではなくて、ダミーヘッドマイクに魂が宿るというテーマもすごく斬新ですね。

――大西さんご自身はどんなASMRがお好きですか。

大西 最初にハマったのはスライムなんですが、癒されますね。あとは木と木を擦り合わせた音とか、聴いている人をメイクアップしているみたいに聴こえるASMRとかもあるんです。今回のアニメにも咀嚼音が出てきますが、リスとかの小動物系がトウモロコシを食べているASMRも好きです。トウモロコシのザクザクとした硬い音に水気が合わさってとてもいいんです。咀嚼のスピードが人間より圧倒的に速くて細いので、人の音からは得られないヒーリングのような効果があるというか……。ちょっと変わったものとかも含めて、かなり聴いているほうだと思います。

――ちょっと変わったものというと、どんなASMRですか?

大西 固形の口紅を板で潰してこねていくASMRがあるんですが、これはすごくツボでしたね。猫の喉のゴロゴロする音をマイクで集音したものとか、本当にみんな多種多様なASMRを上げていて、ずっと聴いていても飽きないです。

――今回、「ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生」で大西さんが演じている浅草ゆりはどんな役ですか?

大西 ゆりちゃんはASMR部に所属している女の子で、「ASMR甲子園」に向けて青春を全部注ぎ込んでいるような女の子です。ASMRへの執着がすごくて、私から見ると不思議というか、ある意味「狂気」というか(笑)。でもそこを除けば、普通に可愛らしい女の子ですし、何かに熱中できるのはとても素敵なことですよね。アニメではASMR甲子園については深くは描かれていませんが、「ASMR界の新しい道を切り開くんだ」とゆりちゃんが、あまり馴染みのないASMRにもチャレンジします。どこまで追及したいんだろうと、ちょっと怖いです(笑)。

――葛西良信監督は今作以外にも「180秒で君の耳を幸せにできるか?」(TOKYO MX、2021年放送)など、ASMRをテーマにした作品を監督されていますね。監督からASMRへのこだわりを聞いたりしましたか?

大西 監督から語られたことはなかったですが、自分自身がプライベートでASMRを聴いていて良かったなって思いました。私はこういう音作りが好きだったので、参考にしながら、演技に落とし込むことができました。

――1話180秒、全12話の独創的なストーリーですが、脚本を読んでどう思われましたか。

大西 ほとんどの話は、「俺クン」から始まるんですよ。アニメーションの台本をいただくまでは、「ダミーヘッドマイクに転生して魂が入ってしまった俺クンがベースで、12本の物語が描かれていくのかな」と思いきや、2話の時点ですでに別のものに転生していたりします。「ダミーヘッドだけじゃないんだ! それ以外のものが体感できるASMRもあるのかも」という新しい発見もあり、不思議な感覚でした。

――女子高生らしいリアルな会話で、かなりテンポも早いですね。

大西 ご時勢的にも一斉収録ができず、掛け合いの相手を想像しながら進めるしかなかったので、それはちょっと大変だったかもしれません。でも俺クンベースのところにちょっと乗っかっていく感じだったので、安心感はありましたね。脚本での言葉選びもあまり見たことがない感じで、面白いなと思いました。

――今回のアニメにもいろんなASMRが出てきますが、特に気になるものがあれば教えてください。

大西 炸鶏排(ザージーパイ)を食べているところです。プライベートでも人が食べ物を食べるASMRが好きなので、ゆりちゃんがザクザクした触感の炸鶏排をバクッと食べてもぐもぐしてるものを、アニメーションがついた状態でぜひ観ていただきたいです。

――実際の収録でも、ダミーヘッドマイクを使われたのでしょうか。

大西 そうですね。ダミーヘッドマイクの使用自体は初めてではないんですが、アニメーションのアフレコの現場で使ったのは初めてでした。今回の収録では、普通のマイクとダミーヘッドマイクを両方使ったのが新鮮でしたね。最初にいつものアニメの収録と同じように全てのセリフを録ってから、ピンポイントでダミーヘッドマイクにする箇所だけ収録しました。LRで左右に振れて聴くのはダミーヘッドマイクじゃないとできないので、それが聴きどころかなと思います。

――演技やセリフについて、監督や音響監督からどんな指示がありましたか?

大西 演技に関してはそれほどありませんでしたが、ダミーヘッドに対して演技をする部分では何度か指示がありましたね。私たちは音を聴かずにやっているので、スタッフの方がダミーヘッドマイクで拾った音を聴いてくださって、指示をいただき、微調整していきました。

――ASMRの魅力はどのようなところにあると思いますか?

大西 食べている時の音とか、空気を通して耳に入ると少し不快感があるような音も、ASMR作品になるとイヤじゃないんですよね。逆にヒーリングになったりする。日々転がっている音を探求すると、こんなにいいものになるというのが面白いなと思います。