今まで演じたことのない役に挑戦してみたかった

――主演のオファーを受けた時は、どんなお気持ちでしたか?

能條愛未(以下、能條) 主演の責任や重みを知っているだけに二つ返事で「やります!」とは言えず悩みました。でも、「オタクの役を私が演じたらどんな感じになるんだろう」という好奇心もあって、勇気を出して受けてみることにしました。

――「りさ子のガチ恋♡俳優沼」を観たことはありましたか?

能條 再演のDVDを観ました。「ガチ恋♡俳優沼」というタイトルから「女の子が純粋にひとりの俳優さんを応援するラブストーリーかな?」とイメージしていましたが、実際はかなり違いました(笑)。オタク女子もストーリーもかなりリアルで、包み隠さず描かれているというか、応援しているアーティストがいる人にとっては“自分にも思い当たる節があるかもしれない”って思わせるようなドキドキ感のあるストーリーでした。後半にかけてりさ子が“一線を越えていく”姿は「どうやって演じようか」と想像力が掻き立てられました。

――りさ子に共感する部分はありましたか?

能條 少なかったです。でも、一人の俳優さんを本気で好きになって、自分に自信はないけれども、「もしかしたら振り向いてもらえるかもしれない」と思うりさ子の気持ちは自然と理解できました。私自身、自信がなくてマイナス思考なところがあるので、そこを膨らませてお芝居するようにしました。

――演じる上で工夫したことを教えてください。

能條 オタク女子ならではの独特な感じの雰囲気や仕草、話し方などは、ネットの情報を見たりしながら「こういう感じかな」と研究するようにしました。そこに自分のオリジナルの設定もプラスしたりして稽古場で試行錯誤しながら作っていきました。

――演出家の方と話し合いながらされて役作りをされていたのでしょうか?

能條 最初は台本を覚えて、セリフのしゃべり方や動き方をガチガチに作り込んで現場に臨んでいたのですが「そこまでオーバーにしなくていいよ。もっと自然な感じで」と言われました。でも演技に熱が入っちゃうとオタクスイッチが入ってしまい、ついつい早口になってしまいます(笑)。

――能條さんは人から注目を受ける立場ですが、りさ子を演じるのは新鮮でしたか?

能條 新鮮さは感じました。普通の地味なOLで、あまり光が当たらない人生を生きているりさ子が舞台俳優・翔太くんの推し活に希望を見い出し、自分の思いをぶつけようと必死でもがいている。俳優とオタクは立場は違うけど、関係性は決して一方通行ではないし、りさ子の言葉に心がキュッとなったり、共感できる部分もありました。演じていくうちにりさ子の心に寄り添えるようになったし、ファンの方々との関係性も考えさせられました。

――主演として心掛けたことはありましたか?

能條 人見知りもするし、プレッシャーに弱いので、なるべく主演ということを考えずに、フラットな立場でいるようにしています。