25歳までは失敗ばかり。でもその経験が後に活きてきた

―高校卒業後は映像系の学校ではなく、英語の専門学校に入学したそうですね。

上田 3年生のときに演劇で成績を残したので、大学からスカウトがきました。ただ当時の僕は生意気だったので、「世界に行こう」と思ったんです(笑)。まずは英語の勉強をしようと思って、英語の専門学校に進学しました。でも馴染めなくて2か月で中退して、そこからはフリーターでした。

―実際、海外には行かれたんですか?

上田 結婚してハネムーンでハワイに行くまで、一回も海外に行ったことがなかったです(笑)。英語も全く話せないです。

―フリーター時代はどんな活動をしていたんですか?

上田 映画監督を目指して20歳で上京しました。でも具体的に何をしていいか分からず、24歳までフラフラしていて、その間、1本も映画を撮らなかったです。しかも2回にわたって大きな借金を背負いました。1回目はマルチ商法みたいなものに足を突っ込んでしまって200万ぐらい借金を背負って、友達と家とお金を失いました。一時期は代々木公園でホームレスみたいなこともしていました。

―それだけの借金を背負って、また借金を重ねたんですか?

上田 そうなんです。何とか借金を完済した後、あるコンクールに応募したら出版社の人と知り合って「本を出しませんか?」と言われました。ただし、「お金は160万円かかりますよ」と(笑)。借金をして23歳で小説を出したんですけど全く売れませんでした。実はマルチ商法に引っかかったのは映画を作る資金を貯めたかったからでした。小説を出したのも、小説家としてスターになれば、映画を撮れるんじゃないかと思ってのことでした。

―映画を撮りたいという気持ちにブレはなかったんですね。

上田 映画監督になるために上京したのにフラフラ借金ばかりして俺は何をやっているんだと猛省しました。それで24歳のときに、初心に帰って映画に集中しようと思って、mixiで見つけた自主映画製作スタッフの募集に応募しました。ようやく自主映画団体で映画作りを始めるんですけど、生意気だったので、3か月ぐらいで独立したんです。自分で映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成して、映画祭に応募して、賞をいただくうちに、『カメラを止めるな!』に繋がっていきました。

―監督自身が映画の主人公みたいな、波乱万丈な半生だったんですね。最後に、ティーンにメッセージをお願いします。

上田 今お話ししたように25歳までは失敗だらけだったんです。でも、その失敗が25歳を過ぎた後に、ものすごい勢いで利息がついて返ってきました。みなさんも若い頃は失敗を集めるつもりで生きるといいんじゃないかと思います。失敗しないように生きることが、失敗になる可能性もありますから。失敗を集める気持ちで生きたほうが気も楽ですよ。

Information

『100日間生きたワニ』2021年7月9日(金)全国公開
監督・脚本:上田慎一郎、ふくだみゆき
原作:きくちゆうき「100日後に死ぬワニ」
コンテ・アニメーションディレクト:湖川友謙
音楽:亀田誠治
主題歌:いきものがかり
アニメーション制作:TIA
声の出演:神木隆之介、中村倫也、木村昴、新木優子、ファーストサマーウイカ、清水くるみ、Kaito、池谷のぶえ、杉田智和、山田裕貴
配給:東宝
©2021「100日間生きたワニ」製作委員会
2020年3月20日、原作「100日後に死ぬワニ」の連載が最終日を迎えた。2019年12月12日から、原作者きくちゆうきのTwitterに100日間毎日投稿された何気ないワニの日常を綴った4コマ漫画の最終話は、いいねの数が214万という国内Twitterの歴代最多数を記録、エンゲージメントは2億を超えた。その100日間のワニの日常と、そこから100日後の大切なものを失った仲間たちの姿を描いたアニメーション映画『100日間生きたワニ』がスクリーンに登場。監督・脚本は、原作に込められたメッセージに強く共感し映画化を熱望した『カメラを止めるな!』の監督・上田慎一郎とアニメーション監督としても活躍するふくだみゆき夫妻。主人公ワニの声には神木隆之介、親友のネズミに中村倫也、同じく親友のモグラに木村昴、ワニが恋するセンパイ役に新木優子、そして映画オリジナルキャラクターのカエルに山田裕貴と、豪華俳優陣らが集結した。

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上田慎一郎(うえだ しんいちろう)

映画監督/株式会社PANPOCOPINA(パンポコピーナ)取締役

1984年4月7日生まれ。滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOCOPINA(パンポコピーナ)を結成。数々の短編映画を手掛け、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得する。2018年、初の劇場用長編映画『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する大ヒットを記録。主な監督作に、『イソップの思うツボ』(2019年 ※共同監督作)、『スペシャルアクターズ』(2019年)、新作『ポプラン(仮)』が公開待機している。

Editor:Keita Shibuya,Photographer: Atsushi Furuya,Interviewer: Takahiro Iguchi