『窓辺にて』には自分に響く言葉が何個もあった

――今泉力哉監督の作品に出演するのは『窓辺にて』が初めてですが、オファーを聞いた時はどんなお気持ちでしたか?

中村ゆり(以下、中村) 今泉(力哉)さんの映画って今まで若者のお話が多かったんですけど、今回は大人のお話で、この年齢で初めて今泉さんの作品に参加できるというのがうれしかったです。

――脚本を読んだ印象はいかがでしたか?

中村 すごく秀逸でいいホンだなと思いました。自分に響く言葉が何個もありましたし、自分の役だけじゃなく、いろんな人たちの立場に立って読みました。小説を読んでいる時に「何で私の気持ちを知っているんだろう?」って思う瞬間がありますけど、そういうことが今泉さんの映画には多いんです。

――中村さんの演じた編集者の紗衣は、夫の市川茂巳(稲垣吾郎)を愛しながらも、担当している売れっ子小説家と浮気しています。紗衣にどんな印象を持ちましたか?

中村 旦那さんのことはとても愛しているけど、浮気してしまうところが現代っぽいと言うか。彼女自身も自立して生きていて、昔の女性像とはまた違う思想の中で物事を見ている。かといって、すごく奔放な訳ではないんです。決して浮気も快楽だけでしていることではなくて、苦悩も必ずある。旦那さんは紗衣の浮気を知っていて黙っていますが、この夫婦は互いに自分の気持ちを言えない人たちなんだろうなと。もっと旦那さんがグイグイ突っ込める人だったら、夫婦の消えない溝みたいなものはできなかったんだろうなと思います。

――素直に気持ちを伝えられないことの、もどかしさみたいなものは感じましたか?

中村 日常生活ってそういうことのほうがありふれているというか、みんな表で語っていることと、心の中は、ちぐはぐだったりすることのほうが多いと思うので、もどかしさっていうよりも、とても身近なものとして感じられました。

――役作りに関して、どんなことを意識しましたか?

中村 今泉さんの特徴だと思うんですけど、お芝居したらダメっていうところがあるんです。事前準備よりも、ホンへの理解が一番大事だと思ったので、ちゃんとホンを読み込んで、監督が表現したいものを現場でどうナチュラルに演じるかを意識するようにしました。テレビドラマだと、ある程度は見せる芝居をすることもありますが、そうならないように、なるべく抑えようと。あと今泉さんは長回しをすると聞いていたので、いつ長回しがあっても対応できるようにしました。

――ホンを読んだ時の印象と、撮影現場で対峙して生まれる感情に、変化や差を感じることはありましたか?

中村 旦那さんに浮気がバレていたことが分かるシーンは11分の長回しで、ホンを読んだ時点では、その時に泣くって思っていなかったんです。でも、稲垣さんと対峙した時に、一番好きな人なのに本当のことを言えなかったんだという感情が湧いてきて、本当に旦那さんのことが好きだったんだなと実感して自然と泣いていました。稲垣さんのお芝居が、私を揺らしてくれたんだと思うんですけど、そういう意図してないお芝居が出てくるのも、今泉さんのホンだからなんだろうなって。あのシーンを長回しにした意図はそういうことなのかなと思いました。

――現場での今泉監督の演出はいかがでしたか?

中村 私の印象ですが、穏やかで繊細だけど、自分のこだわりを貫き通すタイプの方だと思います。ご自分でホンも書かれるから、こだわるところは絶対に捨てない人だなと。だからこそ役者にとっても説得力があるんです。「私はこう思います」って言っても、書いているのは今泉さんだから、却下されても納得できます(笑)。でも、きっちり演出する訳ではなく、ある程度は自由に演じさせていただけるので、役者としても演じやすいですね。