ドラマチックではない日記のような映画を撮りたかった

――地元・西葛西を舞台にした『夢半ば』は、安楽監督にとって4作目の監督作で、3作目の長編映画ですが、実体験に基づいた脚本なんですよね。

安楽涼(以下、安楽) 6月1日が誕生日なんですけど、30歳になる前日までに起こったことを書いてみようと。2021年の5月31日までに自分の身に起こったことをメモみたいに書き起こして映画にしようと思ったんです。映画を作ることで20代を走り抜けて、ちょうど30歳が区切りになるから、もう一回人生を考えたかったんですよね。

――30代を前に、映画制作とは違う道を考えたということですか?

安楽 映画を続けながら別の仕事をしてもいいし、いろいろな方法があるなと。だから、最後にちゃんと撮ろうと思ったんです。

――エピソードは実際に起きたことばかりなんですか?

安楽 大体そうです。仲のいい友達との話や、恋人とのこともそう。友達が地方に行っていなくなっちゃったのも全くそのまま。ずっと自主制作で、1年1本くらいのペースで撮ってきたので、これが最後だから嘘をつかずに撮りたい。今、うだつが上がってないなら、うだつが上がっていないことをちゃんと撮ろう。それは全然悲観的でもなくて、ここまでやってきた自分の成果ですからね。

――そういう考えに至ったのはコロナ禍の影響もありますか?

安楽 大きかったですね。たまに映像を撮る仕事もしているんですが、それが一気になくなった時期もあって。めちゃくちゃ家にいる時間ができちゃって。そうなると、脚本も書くし、それこそ恋人といる時間も増えて、考える時間が増えすぎたんですよ。結果的に自分を振り返るしかなくなっちゃって。

――本作に出演もされている片山享さんと共同脚本ですが、どのように執筆を進めていったのでしょうか。

安楽 まず30歳になる前に書いたメモ書きみたいな脚本を片山さんに投げたんですが、あまりにも僕の話すぎるので、「ここはいらない、ここはもっと増やしたほうがいい」と客観的な視点で見てもらいました。日記のような映画を撮りたいと思っていたので、ドラマチックなものじゃなく、起きて寝て起きて寝てを繰り返して、いつの間にか何か変わっていくみたいなことをやりたかったので、それだけは崩さないでくれという話をしました。

――極力、ドラマ性を排して、商業映画では削られるであろう、一見すると無駄なシーンを積み重ねている印象でした。

安楽 大川景子さんが編集で入ってくださったんですが、素材を見ていただいた時に、「この映画の面白味は何だろうね」みたいな話になって。どれを残すという話になった時に、ちょっとドラマチックなシーンもあったんですよ。でも、そこを削ってくれたんです。物語の起点になりそうなところを切って、そこに浮かび上がる面白さを信じようという方向性でした。

――何も変わらないようでいて、前半から後半にかけて何かが起きたのは間違いないですからね。

安楽 大川さんの編集によって、見えない予感的なものを描けたことがうれしかったです。

――上映時間については、どんなことを意識しましたか。

安楽 全体をラッシュでつないだら3時間半くらいあって、それを90分にするか135分にするか考えました。好きなものを作っている訳だから、それを全うしたい。だったら僕が面白いと思うほうをやりたいですとプロデューサーの髭野純さんに伝えて、135分になったんです。すごく無駄に見えるけど、たぶん無駄じゃないって思っているところが僕の中にあって。その感じを90分にすることで、なくなるのが怖かったんです。日常って無駄な時間や退屈な時間がほとんどだし、楽しいことってなかなかないじゃないですか。この映画にも描かれていますが、僕自身、幼馴染みといる時間が減ってしまったから、この映画を撮っているんです。確かに幼馴染みと遊んでいる時間は退屈だけど、それが僕は好きだったから大事にしたい。それが映画として伝わるかどうか、すごく不安でもありました。実際に役者として幼馴染みも出演しているんですけど、彼らを出演者で呼べば、また遊べるじゃないですか(笑)。いわば口実みたいなもので。自分が過ごしていく中で、遊びが自分の中のルーティンみたいなもので、それを映画にしたんです。

――幼馴染みも出演しているとのことですが、とても自然な演技で、プロの役者さんと区別がつきませんでした。事前にリハーサルは重ねましたか?

安楽 ほぼ現場でのリハーサルでした。何回もやっていたら、あいつら(幼馴染み)は演技しちゃうんで、それは避けたかった。29歳が終わるって本当はどうでもいいことなのかしれませんが、僕にとっては刹那的というか、今やらないと多分できないことになってしまう。それって芝居もそうだなと。基本的に撮ると決めたらリテイクを重ねない。それを大事にしないと、この日記みたいな映画は成立しないと思ったんです。