生まれて初めて自分の顔を本気で殴った

――『天上の花』は詩人・萩原朔太郎没後80年を記念して作られた映画ですが、オファーを受けた時はどんな気持ちでしたか?

東出昌大(以下、東出) 最初に原作の『天上の花―三好達治抄―』を読んでから、脚本に目を通しました。脚本を担当された荒井晴彦さんが以前、監督として手掛けられた映画『火口のふたり』は狂気的かつ儚い美しさに満ちている官能的な作品で、いつかご一緒したいと思っていたので、二つ返事でお引き受けしました。『天上の花』でもこの世界観が作られるならとワクワクしました。

――本作で東出さんが演じる、詩人の三好達治さんについてはご存知でしたか?

東出 はい。詩集を読んだことはあります。

――原作から映画になることで、変わったところはありましたか?

東出 映画化したことで、原作から大きく変わることはなかったと思います。三好が朔太郎の末妹・慶子を殴るところは、原作だと“ザクロが割れたように、その赤い肉が見えた”というような生々しい描写で書かれていますが、現場では「そこの表現はちょっと弱めにしましょう」という意見が出て「いや、原作の世界観を尊重しましょう」といった話し合いをしたこともありました。

――三好は慶子に暴力を振るうなど狂気に満ちた描写が多いですが、理解できるところはありますか?

東出 最初は「女を殴る正当性なんてありゃしないだろう」と全く理解できませんでしたが、殴りながら自分自身も胸糞悪くなるのは、「自傷行為に近いのでは」と思ったんです。三好も同じなんですね。生を謳歌したいけれど、それがうまくいかないから自傷行為の代わりに愛する慶子を殴ってしまう。決して許されない行為だけど、そう考えると三好の心理が理解できるようになりました。

――ご自身を殴るシーンもありました。

東出 「自分の顔を本気で殴る」というト書きを初めて見ました(笑)。もちろん、本気で殴りましたが、目の前がぼやけて、顔はパンパンに腫れあがって、自分の顔を本気で殴るのはかなり痛いですよ。カメラマンの助手の方に「人が殴られた音を久しぶりに聞きました」と言われました(笑)。

――撮影は新潟県の柏崎で行われたそうですね。当時の日本そのもののような建物が印象的です。

東出 実際は複数の古民家を組み合わせて一つの家のように見せています。古民家に住んでいらっしゃる方が赤だしのお味噌汁を作ってくださったのですが、それがまあ、おいしくて。冷え切った体に染み入り、4杯もお代わりしてしまいました。

――所作で意識されたところはありますか?

東出 毛筆の持ち方や硯で墨を作る所作は日常でしない動作なので意識しました。スズキ(鱸)をまるごと下ろすシーンがあるのですが、普段していることでもカメラが回ると意識しちゃって。なかなか難しいですね(笑)。

――現場はどんな雰囲気でしたか?

東出 監督、演者、スタッフ、銘々の意見が言いやすい現場でした。軌道がずれたらその度に話し合って修正して、正解を確認し合いながら進めていきました。時には喧々諤々な議論もしましたが、最後のシーンを撮る時は「よし!これは一発撮りで行くぞ!」と、まるで忠臣蔵の討ち入りみたいな熱い一体感が生まれました(笑)。「いいものを作りたい」という一心で、一つになれたいい現場でしたね。

――慶子を演じた入山法子さんの印象をお聞かせください。

東出 ありきたりな表現ですが、ものすごく真面目な方です。台本の扱い方も、僕なんてくるくるっと丸めて後ろのポケットに入れちゃったりするけど、入山さんはとっても丁寧に扱われていて、お芝居に真摯に向かわれているんだなと感心しました。

――ティーンにこの映画をアピールしてください。

東出 なかなか自分の人生では経験できない愛憎劇です。怖いもの見たさ的な感覚で楽しんでください。