ヒロインの慶子は意志表示がしっかりした、この時代には珍しい女性

――詩人の三好達治が結婚した萩原朔太郎の妹・慶子への愛と憎しみを描いた映画『天上の花』のヒロインを務めています。オファーを受けた時の印象をお聞かせください

入山法子(以下、入山) オファーをいただいた時は、お芝居に没頭したい欲が強くなっていた時期で、映画をもっとやってみたいという気持ちもありました。何より荒井晴彦さんの脚本ですから、台本を読んで、時間的にも肉体的にもハードなお芝居になることは予想できましたが、それを踏まえてでも「やりたい!」と思いました。

――荒井さんの脚本にはどんな印象を持たれましたか?

入山 すごく難しかったですね。心情を繋げていくところは絶対に投げやりにしちゃいけない部分なので特に気を使いました。

――入山さんが演じるヒロインの慶子はこの時代には珍しい奔放な女性ですが、演じる上で意識した点を教えてください。

入山 男性を立てて、言われたことに従うのが当たり前だった時代に、自分の意見をはっきり言える慶子は珍しいタイプの女性だったと思います。ただ奔放であるがゆえに、かわいそうな女性という部分だけが前面に出ないように意識しました。

――着物の所作が自然でした。

入山 連続テレビ小説「エール」に着物で出演したのをきっかけに、自分でも着物が着られるようになりたいと、着付け教室に通い始めたんです。この作品で、教室で習った着崩れしにくい姿勢や着ていて楽な着付けのコツが活かせました。

――映画では日本海のロケーションが効果的に使われています。

入山 暗い日本海を眺めていた時は「何でここに来ちゃったんだろう……」という気分になりました(笑)。慶子も「『何もないところで、なぜこんな寂しい思いをしなくちゃいけないの』と思ったんだろうな」と、感じ入るところはありました。

――三好達治のような男性に魅力を感じますか?

入山 どうなんだろう(笑)。太宰治と心中した恋人みたいに、才能に惚れていたらまた違うのでしょうが、慶子はそうではなかったと思います。三好といて心が休まるようなことはあまりなかったと思いますが、それでもご飯を食べて美味しいとか、お風呂が大きくて気持ちいいとか、何かしら温かいものは感じていたはずなので、その気持ちを大事にしました。

――三好達治を演じた東出昌大さんの印象はいかがでした?

入山 知識が豊富で、お芝居に対する熱意も強くて、常にエネルギッシュな方でした。現場での立ち居振る舞いを含め、たくさん勉強させていただきました。

――東出さんにお話しを聞いた時、「入山さんは台本を丁寧に扱って付せんもされていてすごい」とおっしゃっていました。

入山 付せんをしていたのは、自分のセリフだけです(笑)。慶子の心情に寄せて色分けをして、ネガティブな気持ちになるにつれて、使う色を濃くしていました。だから、クランクアップの頃は付せんだらけでした(笑)。

――完成した作品を観た感想を教えてください。

入山 最初は落ち着いて観ることができなくて「あ~出来たんだ。頑張ったよね……」とどこか他人事な気分でしたが、しばらくしてから観たら、すごくいい作品でした。

――ラストシーンはいろんな解釈ができますね。

入山 そうなんですよね。始まりから終わりまですべて曖昧な状態で、愛する感情も許す感情もスッキリしなくて。でも、男女の愛情ってはっきり白黒つけることができないものだなと改めて思いました。観てくださった人にも、そんな風に受け取ってもらえたらいいなと思います。