私が話した悩みや不安を台本に反映していただいた
――ヒロインを務める最新映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』は2020年が舞台で、コロナ禍がキーワードになっています。大友さんが演じたゆかりは、婚約したものの、コロナの影響で結婚式をすることができない女性です。出演が決まった時は、どんなお気持ちでしたか?
大友 オーディションで監督とお話しさせていただいた時、自分の悩んでいることや不安なことなどをさらけ出してしまったんです。ネガティブな話ばかりになってしまいましたし、ダメかもしれないと思っていたので、合格の知らせを聞いた時は驚きました。しかもその時に私が話した悩みや不安を台本に反映してくださっていて…。監督が私の悩みを具現化してくださったんだなと思ったら、すごく心が軽くなって、この役に寄り添って生きようと思いました。
――オーディションの面接で、そこまで心情を吐露するのは珍しいのではないでしょうか?
大友 緊張もありますし、オーディションという場所なので、そこまで自分のお話をすることはありません。でも今回は監督独特の柔らかい空気感に全てを委ねられましたし、真摯にお話を聞いてくださって、その優しさで自分の気持ちを素直に話せたんだと思います。
――脚本にご自身の悩みが反映されるのはどういうお気持ちでしたか?
大友 「この気持ちすごくよく分かる!どうして、こんなに分かるんだろう。あ⋮⋮これは私が言ってたことじゃん!」って。すごく納得するというか。より奥深いところまでゆかりの気持ちを想像できた気がします。私はオーディションで、主にお仕事に関する不安をお話ししていて⋮⋮。ゆかりはコロナ禍での結婚やその後の生活に対して不安を抱いている役なので、悩みの種は違っていても、思っている感情は一緒だったので、すごく自分に近かったです。
――まだ結婚は身近なものではないですよね。
大友 そうですね。身近で結婚した友達も少ないですし、想像も難しかったのですが、撮影をしていた去年の秋頃は、ちょうど同級生が就活をしている時期だったんです。なので結婚を人生の選択という風に捉えて、友達の姿を見て、ゆかりの気持ちを想像しました。コロナ禍で想像していた学生生活が送れない中、面接もリモートで、そのまま就職することにみんな不安を抱いていましたし、もどかしい思いもあったみたいです。その悩みを聞きながら、「もしかしたらゆかりもこういう気持ちなのかな」と考えました。
――役作りで意識したことはありますか?
大友 私の悩みに寄り添って監督がゆかりを生み出してくれていたので、お芝居をしていないくらい楽な気持ちでいられたらいいなと思っていました。
――監督の演出で印象に残っていることはありますか?
大友 撮影前にシーンの段取りをした後、流れをしっかり固めて撮影が始まると、監督はほとんどモニターの前にいらして、現場を役者陣に任せてくださったんです。その後も監督は任せきりではなく、撮影が始まってから、「これでいいのかな」と一瞬でも悩むと敏感に察知してくださり、「今何とかって思っていたでしょう。それはいいよ」って。すごくありがたかったです。
――共演した前原滉さんの印象はいかがでしたか?
大友 前原さんとご一緒するのは3回目でした。最初にお会いしたのは、私が制 服を着ていた年齢だったので、二人で「ついに結婚だね。感慨深いね」って (笑)。前原さんはその場の空気を見ながら、みんなとのコミュニケーションを大切にされるムードメーカーです。今回も前原さんのおかげで現場が楽しかったですし、「困ったら前原さんに頼ろう」という安心感もありました。
――完成した作品をご覧になってどう思われましたか?
大友 きれいな映像と細やかな人間の気持ちみたいなものが詰まっていて、ドキュメンタリーのような要素もある素敵な作品だなと思いました。群像劇で私が出ていないシーンも多いので、「この子はこうなったんだ」とか、「この俳優さんはこうやってこの役を演じたんだ」って、一観客として楽しく観させていただきました。
――最後にティーンに向けて、改めて映画の見どころを教えてください。
大友 コロナ禍で何もできず悔しかったこともあると思いますし、これからどうしていいか分からなくなった、人生が変わったと思っている方も多いと思います。でも、この作品を観ると、「コロナがなかったらこういうこともなかったよね」「コロナがあるから出会えた人もいるよね」とポジティブに受け止められるようになるはずです。この作品はしし座流星群が物語のポイントになっていますが、流星群を見上げるように、自分の悩みや不安も明るく見つめ直すことができると思います。
Information
『散歩時間〜その日を待ちながら〜』
2022年12月9日新宿シネマカリテ他、全国順次公開
キャスト:
前原滉/大友花恋
柳ゆり菜/中島歩/篠田諒/めがね
山時聡真/佐々木悠華/アベラヒデノブ/高橋努
原案・監督・編集:戸田彬弘
脚本:ガク カワサキ
音楽:茂野雅道
©︎2022「散歩時間〜その日を待ちながら〜」製作委員会
舞台は2020年11月17日。婚約をしたものの、コロナの影響で結婚式をすることができなかった20代の亮介(前原滉)とゆかり(大友花恋)。引っ越しの整理もままならない二人だが、都会から離れた町に住む真紀子(柳ゆり菜)の自宅で友人たちがお祝いパーティーを開いてくれることになり、稲田(中島歩)や圭吾(篠田諒)、そして真紀子の知り合いのインフルエンサーちひろ(めがね)らが集まる。しかし、自分の意見に合わせるばかりで、本音を話さない夫に不安を募らせていたゆかりは、彼の隠し事を知ってしまい、祝いの席に不穏な空気が漂ってしまう。同じ空の下、様々な人物がやり切れない想いを抱えて毎日を過ごしている。急増するデリバリー案件に応えながら出演舞台が中止になる日々を送る30代の若手俳優の片岡(アベラヒデノブ)、帰省できず里帰り出産の我が子を抱くこともできない40代のタクシードライバーの淡路(高橋努)、そして、学校イベントのほとんどが中止となり、長年の恋心さえも伝えられずにいる中学3年生の光輝(山時聡真)と鈴(佐々木悠華)。この日は、しし座流星群がピークを迎える日─ 恋人や親友、我が子との間でさえも曖昧になっていく他者との繋がりに、それぞれが葛藤を抱えながらも、たしかな一歩を踏み出そうとする彼らの空に、流れ星が降り注ぐ。

大友花恋
俳優・モデル
俳優、モデル。1999年10月9日生まれ 群馬県出身。2012年に女優デビュー。バラエティー番組や雑誌『Seventeen』専属モデルを歴代最長で務めるなど、活動は多岐にわたる。近年の主な出演作品は、映画『君の膵臓をたべたい』(17/月川翔監督)、ドラマ「チア☆ダン」「あなたの番です」「新米姉妹のふたりごはん」「初情事まであと1時間」第8話など。
Editor:Keita Shibuya,Photographer:GENKI(IIZUMI OFFICE),Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Riki Yamada, Hair&Make:KURUSHIMA,Ken Nagasaka