日本のミューラル文化を広げたいと思った

――川添さんが代表取締役社長を務めるWALL SHARE株式会社は、「ミューラル」と呼ばれる壁画を活用したプロモーション事業や、まちづくりを手掛けていらっしゃいます。どういうきっかけでミューラルに興味を持ったのですか?

川添孝信(以下、川添) 10代の頃から日本語のヒップホップが好きで、その流れでストリートカルチャーにカッコよさを感じるようになり、なかでもグラフィティやミューラルに興味を持つようになりました。社会人になって海外に行くようになると、街中にミューラルがたくさんあったり、美術館に行く機会が多かったり、アートを楽しむのが当たり前というライフスタイルに感銘を受けました。調べてみると、日本のアート市場規模は世界市場で3%程度しかない。絵を買うというアクションは難しいけれど、まちそのものに絵があれば、子どもから大人まで気軽にアートに触れることができるし、それを僕が日本で広める立場になったら面白いんじゃないかなと強く思うようになりました。

――WALL SHAREを立ち上げるまでは、どんな仕事をしていたのですか?

川添 体育大学を卒業して、フォルクスワーゲン社で営業を担当していました。たまたま配属された店舗が良かったため、全国セールス販売賞を3度受賞し、その報奨旅行で海外に行くことができ、お客さんも起業家の方が多かったため、いろいろと刺激を受けました。その後、ITベンチャーに転職をして、そこで法人営業やITの流れを学び、2020年にWALL SHAREを設立しました。

――コロナ禍での起業だったのですね。

川添 緊急事態宣言の1週間後に登記を完了するという絶望感を味わいました(笑)。ミューラルを観る人がストリートにいない状況でスタートして、最初の半年ぐらいは仕事がなく、めちゃくちゃヤバいやんと焦りましたが、ミューラルは、誰かが写真を撮ったものがSNSで拡散されるのがいいところ。SNSをきっかけにクライアントに会うこともできました。

――ミューラルを広告に活用しようと思ったのは?

川添 たとえば、人通りの多い渋谷のスクランブル交差点に何千万円という規模で広告を出しても、道行く人はスマホを見ているし、すでに広告が乱立しているからあまり記憶に残らない。空き壁を有効活用し、クライアントの打ち出したいメッセージとアーティストの芸術的感性をコラボレーションした表現でプロモーションできれば、競合が多いエリアじゃなくても大きなインパクトが出せるし、アートとしてわざわざ見に来る価値のある作品に成り得る。SNSの効果も期待でき、今までにない広告プロモーションを生み出していけると考えたからです。

――ミューラルを作るには川添さんのほかに、クライアント、壁、制作するアーティストが必要ですよね。使える壁はすぐに見つかるものなのでしょうか?

川添 おっしゃる通り、ミューラルにはその3者が存在し、クライアントにはSNSでのシェアなど従来の広告では想定しにくいアクションを提供でき、壁主さんには賃料としての収入、アーティストには活動の場が増えるというメリットがあります。ただし、壁主さんにとっては、空いている壁を広告として使うという経験がないことから「どういうこと?」となってしまうケースも少なくありません。個人オーナーとして管理している場合もあれば、管理会社の場合もあり、そもそも法人というケースもあるので、壁主さん探しは僕らも手探り状態で進めているというのが正直なところです。

――クライアントはどうやって探していますか?

川添 クライアントに対しては、今のところは積極的な営業はしておらず、お問い合わせベースで進めています。ビジネスに寄り過ぎると、アートカルチャーが疎かになってしまうので。そもそもミューラルに興味を持っていただけるクライアントの方とは、スムーズに話が進むことが多いです。プロモーションに使いたいというクライアントのほかに、まちづくりへの活用を目的とした行政からもお問い合わせをいただき、会社設立から2年間で手掛けたミューラルはもうすぐ100作品に到達します。

――2年間で100作品はすごいですね!

川添 去年の後半から今年にかけて一気に増え始めています。