スマホやGoogleマップが普及するまで方向音痴の自覚はなかった

――『方向音痴ってなおるんですか?』執筆のきっかけを教えてください。

吉玉 以前、西武新宿駅の乗り場にたどり着けなかったときのエピソードをnoteに書いたんですが、たまたま方向音痴のライターを探していた担当編集の方がそれを読んで、声をかけてくださいました。それでweb連載が始まり、今回の単行本に繋がりました。

――方向音痴克服の企画を聞いたときはどう思われましたか?

吉玉 まさか連載になるとは思っていませんでした。打ち合わせでいただいた企画書には、私自身が地図や地形など様々な専門の方の門戸を叩いて、方向音痴を克服できたら連載終了と書いてあって驚きました。ほんとうに計画通りにいくのか、もし克服できなかったらどうなってしまうんだろうという不安もありました。

――自分が方向音痴であるという自覚はあったのでしょうか?

吉玉 実はスマホやGoogleマップが普及するまであまり自覚はなかったです。誰もがスマホを持つようになってから、Googleマップを使いこなせる周りの人たちと、使いこなせない自分の差が明確になったように思います。例えば、待ち合わせ場所にカフェなどの店を直接指定されても、みんなは集まることができる。ところが私はなかなかたどり着けないので、方向に弱いのだと気がつきました。この話をしたら、小学校時代からの友人に「昔から方向音痴だったよね」と言われたので、周りはずっと前から気がついていたのだと思います(笑)。

――学生時代に方向音痴を感じることはなかったんですね。

吉玉 あまりなかったです。地理の授業は好きでしたし、修学旅行やフィールドワークなども頼りない私を友人が率先して目的地に連れていってくれていたので、そこまで困ったことはありませんでした。

――なるほど。知らず知らずのうちに周りが支えてくれていたんですね。

吉玉 札幌から上京して、渋谷駅や新宿駅などの大きな駅は慣れるまでに時間がかかりましたが、覚えてしまえば大丈夫でした。就職活動をしていたときに一度だけ、面接の10分前になっても場所がわからずに「どうしてもわかりません!」と電話をかけて教えていただいたことはあります。基本的に目的地までかかる時間より30分以上の余裕をもって歩きはじめるのですが、あのときだけはそれでも間に合いそうにありませんでした。

――ご出身地の札幌は地下鉄やバスが発展していますよね。乗り換えも迷いませんか?

吉玉 札幌って、地下鉄は東西線、南北線、東豊線の3本だけなんです。交わる点も大通駅とさっぽろ駅の二つだけなので、把握しやすいんです。ただ、路線図として覚えているので、それが地図になると混乱します。路線図で見て遠いと思っていた街が意外と近くにある、ということはよくありました。