作品を持って、いろいろな人と会うことが経験になり、学びになる

――『夜明けの詩』の主人公チャンソクを小説家にした理由を教えてください。

キム・ジョングァン(以下、キム) 『夜明けの詩』では、創作にまつわる物語を描いてみたかったんです。もともと僕は短編小説が好きというものありますし、対話劇をモチーフにしようと考えた時に、小説家が頭に浮かびました。

――チャンソクは小説を出版するため、7年ぶりにイギリスからソウルに帰り、喫茶店で誰かを待つ女性、秘めた過去を持つ女性編集者、妻が病に侵された男性写真家、バーテンダーの女性と、心に深い葛藤を抱える4人と対話し、それぞれのエピソードを短編小説集のように紡いでいきます。チャンソク自身、4人との出会いを通して、意識が変化していきます。

キム 私自身、創作者として映画を作って、その作品を持って、いろいろな人に会いに行きます。その過程自体が、創作の過程でもあり、いろいろな人と会うことが経験になり、学びになります。先ほど本作は対話劇と言いましたが、“聞く映画”でもあります。観る人が「聞くこと」によって、心の変化が少しでもあればいいなという思いも込められています。

――登場人物たちの対話を通して、様々な生と死が浮かび上がりますが、決して説明的ではなく、観る者に判断を委ねる映画だなと感じました。

キム 対話劇で成り立っている映画なので、確かに言葉数は多いんですが、会話の端々に浮かび上がる表情や沈黙が、とても大事でして。俳優たちの表情や間を顕微鏡のようにつぶさに見て、彼・彼女らに、どのような意識や時間が流れているのか、それを想像する力を観客に与えられるような映像を心がけました。「光と影」も本作の大きなテーマですが、光だけではなくて、影の部分も見ることによって、より生と死が際立つのではないかと思いました。

――韓国映画における対話と言うと、感情的に言葉をぶつけ合うシーンが思い浮かびますが、『夜明けの詩』は抑制された、静謐な対話が印象的です。

キム 確かに、この作品のような対話は、そう韓国映画では多くないですね(笑)。これが商業映画だったら、僕もここまで抑制した対話を中心にするのは怖かったと思うんです。でも『夜明けの詩』はインディペンデント映画として作られています。この映画では、創作者としていろいろなことを試してみたい、自分に正直な映画を撮ってみたいという欲もありました。また、観客と深い関係を作りたいという気持ちも強かったので、このスタイルを選択しました。

――「聞く映画」というお話がありましたが、俳優の声以外にも、様々な生活音や雑踏の音などが繊細に鳴り響いているなと感じました。中でも個人的に印象的だったのが、チャンソクが外で吸うタバコの燃える音で、もの悲しいシーンに、より陰影を与えていました。

キム あのタバコはインドネシア産で、韓国でも一般的ではないんです。

――監督も愛煙家ですか?

キム はい。ただ韓国では、自由にタバコを吸える空間がほとんどありません。日本には、まだタバコを吸えるカフェなどが多いので本当にうれしい(笑)。禁煙しようと思っているんですけど、ついつい日本に来ると吸いたくなってしまいます。

――映画史には、数えきれないほどタバコの名シーンがありますが、『夜明けの詩』もその一つだと思います。

キム タバコという小道具を通して、短編小説のようなものを見せたいと思っていたので、そう言っていただけるとうれしいです。4つのエピソードで最初に出てくるミヨンは、チャンソクに「タバコなんかやめなさい」と言いますが、後に出てくる3人は、どちらかというとタバコを勧めてくる。この過程も、人生の変化が表れているんです。