過去に苦悩した自分の記憶を呼び起こして役に乗っけた

――主演映画『餓鬼が笑う』は、田中さん演じる骨董屋を目指す青年・大貫大が、あの世とこの世を行きつ戻りつしながら、自分の人生を生き直し始めるというストーリーですが、ラブストーリーやファンタジーの要素が入り混じった不思議な作品です。オファーがあった時の気持ちを教えてください。

田中俊介(以下、田中) 台本を読んだ時は、正直むちゃくちゃ変な映画になりそうだなと思いました(笑)。僕も映画が好きでいろんな作品を観てますけど、この世界観は日本映画で珍しいなと。確かにジャンルは分からないけど、ちゃんと深く読んでいくと、描いていることは意外とシンプルで。一人の女性と出会うラブストーリー的な要素もあるけど、純粋に一人の男の葛藤・苦悩があって、自分自身が何者か分からない、今後どうしていったらいいのか分からないなど、生きることの難しさみたいなものは、現代の皆さんも抱えていること。地獄巡りをするとか、突拍子も展開もありますが、幹になるものはどストレートなものです。こういう映画に触れたことがない人にも、ぜひ味わってもらいたいですね。ある意味ディープなインディーズ映画で、「何じゃこれ?」って衝撃は受けると思いますが(笑)。僕は初めて観た時に、いろいろなことが巻き起こっているのに、こんなに爽やかに終わるんだってびっくりしたんですよ。インディーズだからこそ描ける作品に触れたことのない人が、意外にハマるかもしれません。

――インディーズでもチープさは全く感じませんでした。

田中 そのバランスが上手くいったのかなと思います。

――色彩豊かな映画ですが、脚本を読んだ時点で、こういう色合いになるというのは想像できましたか?

田中 撮影が終わっても想像できなかったです。地獄、異世界をどういう風に作り上げるんだろうと不思議でした。餓鬼がいて、餓鬼に僕の父親が喰われて、とか言ってみたら滑稽だったんです。ところが出来上がった映画を観たら、滑稽さを面白がる部分もあるとは思うんですけど、異世界を上手く表現していて、純粋に楽しく観ることができました。

――大貫大は影のあるキャラクターですが、役作りで意識した点を教えてください。

田中 正直、特別意識したことはなくて、大が抱えている苦悩、ぽっかり穴が開いちゃっているような状態って、皆さんも少なからず経験したことはあると思うし、僕自身もあります。だから自分の記憶を呼び起こして、大に乗っければ良いだろうと。スタッフ・キャスト含めて、面識があって、信頼している方たちばかりなので、皆さんにかき乱してもらえれば、うまく大がもみくちゃになって、さまよえるなと思いました。そういったフラットな気持ちで現場に入りました。

――強烈なシーンの連続ですが、中でもインパクトのあったシーンを教えてください。

田中 僕にとって異様だったのが、骨董市の競りのシーンです。めちゃくちゃ異様な空気感でした。でも、あれってリアルな競りなんですよ。役者さんだけじゃなくて、実際に競りをしている方々もいらっしゃいます。

――確かに役者さんとは違う生々しさみたいなものを感じました。

田中 皆さんのおかげであの空気感を出せましたし、事前に骨董市を見学させてもらったうえでの現場入りだったので、そこでの驚き・衝撃みたいなものを、そのまま大として演じました。リアルに僕もぽかんとしたし、圧倒されました。あれは、なかなか観ることができないシーンだと思います。