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「サリー楓」として発信を始めた理由

――楓さんはいつから女性として生活しているのでしょう?

楓 大学院に通っていたときにトランスジェンダーをカミングアウトして、女性として通学するようになりました。「性別を移行していきたい」と言うと、学校内ではすんなり受け入れられましたが、学校外ではたまにイジられるんです。「『どんだけ~!』やってよ」とか「新宿二丁目よく行くんですか」と言われたり。

――そんなことを言う人がいるんですね。

楓 そういう偏見を持たれることに違和感がありました。逆に、トランスジェンダーだと言っただけで「つらかったですね」と同情されることもあり、それにも違和感があって。「トランスジェンダーってこうだよね」というステレオタイプなイメージに自分を当てはめられるのが嫌でした。

――サリー楓名義で発信を始めた理由は?

楓 トランスジェンダーについて、どこか遠い世界の人たちといったイメージを持つ人は多いですが、実際は私のように普遍的な生活をしている方もたくさんいます。それを知ってほしくて、普段の生活をSNSや講演会で発信するようになりました。自分がロールモデルとなって、これからカミングアウトする方々の役に立てばいいなと思っています。

――『息子のままで、女子になる』は楓さんを追ったドキュメンタリー映画ですが、どのような経緯で制作されることになったのでしょう?

楓 トランスジェンダーのビューティーコンテストがあり、それに出場するため、スティーブン(※映画にも登場する本作のエグゼクティブ・プロデューサー)のトレーニングを受けていたら、ある日突然レッスンにカメラが入ったんです。スティーブンに「日々成長していく楓の姿を記録しないか」と言われて承諾し、それが映画になりました。

映画のタイトルに使われた「息子」という言葉

――映画はご両親に出演のオファーをするところから始まっていますが、そのときはどんな気持ちでしたか?

楓 映画に出てもらうとなるとジェンダーの話にならざるを得ないから、最初は嫌でした。今まで親と話すとき、わざとらしいくらいジェンダーの話題を避けていました。ギクシャクすることがお互いにわかっていたから。だけど、学生の方やその親御さんが映画を観たとき、一番気になるのは私の親子関係かもしれないと思い、出演してもらうことにしました。

――タイトルに「息子」という言葉が入っているので、親子関係ありきで制作された映画なのかと思いましたが、違うんですね。

楓 タイトルの『息子のままで、女子になる』はあとから知りました。私は、社会的には女子になったのかもしれませんが、映画の中で父が私のことを「息子だ」と言うんですね。

――その場面、楓さんのお父さんの表情が印象的でした。ものすごく葛藤されたのだろうな、と感じる表情で。

楓 世間は私からの距離が遠いから、私が女性として生活していたら女性として扱ってくれるけれど、親子だとそうもいかない。自分の子がいきなり「女性として扱って」と言っても、父としてはすんなり受け入れられないと思うんですよ。『息子のままで、女子になる』はそんな複雑さを表したタイトルなのかなと思います。私がつけたわけではありませんけど(笑)。

高校時代は常に漠然とした不安があった

――楓さんはどんな高校生でしたか?

楓 高校のときって、進路選択のたびにどんどん自分の選択肢が狭まっていくじゃないですか。理系・文系で受験できる大学は違うし、大学や学科によって就ける職業も違ってくる。私は子どものときから建築家になりたいと思っていたので、その夢を軸に進路選択したんですが、それでも選択肢が狭まっていくと漠然とした不安がありました。毎日、あみだくじを下りていくような感覚でした。

――あみだくじ?

楓 あみだくじって、下に行けば行くほど答えに近づくけれど、そのぶん遠いところに行けなくなるじゃないですか。毎日そんな気持ちでした。

――建築家の夢があっても、不安は消えなかったのでしょうか?

楓 私、中学校までは何にでもなれると思ってました。医者でも弁護士でもお花屋さんでも、自分が目指せば何者にでもなれる選択肢がすべて残っていた。けれど高校になってだんだん選択肢が狭まると、「本当に何かになれるのかな?」って不安になってきました。今これだけ勉強した先にいったい何があるんだろうって。そんなことを考えている高校生でした。

――その頃は、将来的に性別を変える気持ちはありましたか?

楓 ありませんでした。けれど、自分の性別に違和感はありました。

――トランスジェンダーであることを自覚されていたのでしょうか?

楓 あるとき性別移行についてネットで調べていたら、トランスジェンダーという言葉が出てきて、「自分はこれだったんだ!」と違和感の正体を発見しました。それまでは「私ってニューハーフなのかな?」と思っていて、でもニューハーフって言葉もなんだか違う気がしていました。トランスジェンダーというカテゴリがあり、そういう人たちが存在していると知って、自分を説明できる言葉がわかったような気がして安心しました。

――楓さんが高校生だった10年前は、今ほどトランスジェンダーへの理解が広まっていませんでした。

楓 そうですね、イジる風潮はあったと思います。だけど当時、映画にも出演してくれたはるな愛さんが24時間テレビでマラソンを完走して、笑いを取るだけじゃないトランスジェンダーの側面を、身をもって示されていたんですね。今振り返れば、少しずつ世の中が変わりはじめている、そんな初期微動があったと思います。

――今、性別に違和感を持つティーンの方に言葉をかけるとしたら、なんと言いますか?

楓 ティーンだと、第二次性徴で喉仏が出てきたり髭が生えてきたり、ジェンダーのことですごく悩むと思うんですよ。ずっとジェンダーのことを考えていると、自分のアイデンティティの中心がジェンダーになってくる。だけど私は、ジェンダーは“自分を形作る要素のひとつ”でしかないと思うんです。

――ジェンダーがすべてではない、と。

楓 自分のジェンダーを生きることはもちろん大切ですが、それだけに捉われると、夢や他の大切なことを見失いかねない。だからジェンダーのこと“だけ”を考えてほしくはないな、と思います。

「LGBTを理解する人が正しくて理解できない人が悪い」とは思わない

――この映画をどんな人に届けたいですか?

楓 「LGBTなんてよくわかんない」と言う人にこそ届けたいです。そういう人たちを“わかってない人”として排除したり炎上させたりするんじゃなくて、一緒に学び合いたい。きっと、そういう考え方に至るまでにはそれなりの理由があると思うので。

――一緒に学び合うにはどうしたらいいと思いますか?

楓 お互いに関心を持つことだと思います。今「LGBTフレンドリー」という概念が広まりつつありますが、多くの人はまだまだLGBTに無関心だと思うんです。無関心だからこそ「まぁ、そういう人たちもいていいんじゃない」と簡単に言える。だけど映画のとおり、私の父は無関心じゃないんですよ。自分の子だから、真剣に考えて考えて、そのうえで私のことを「息子だ」と言うんです。

――真剣に向き合っても、「娘だ」とはならなかったんですね。

楓 私は「LGBTを理解する人が正しくて理解できない人が悪い」とは思いません。父のように、真剣に考えた上でそれでも理解できないことだってある。そういう人たちと共に学び合えなければ、それは本当の意味での多様性に反するし、もったいないことだと思います。

――最後に、ティーンへのメッセージをお願いします。

楓 みんなが自分のまま生きられるようになればいいなと思います。人間は社会的な生き物だから、「これって普通はしないかな」とか「変だと思われないかな」とか、人の目が気になるのは当たり前。“普通”に合わせて自分を変えたほうがラクだったりもします。逆に、個性が求められる現代では、人とは違った「自分らしさ」を演じるために必死になることもあると思います。だけれども、無理して頑張らなくても保てる「自分らしさ」があるのだとすれば、それが本当の自分らしさですよね。

Information

『息子のままで、女子になる』
2021年6月19日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

サリー楓 Steven Haynes 西村宏堂 JobRainbow 小林博人 西原さつき / はるな愛
制作・監督・撮影・編集:杉岡太樹
エグゼクティブプロデューサー:Steven Haynes
監督助手:新行内大輝
撮影:新行内大輝、小禄慎一郎
リレコーディングミキサー:伊東晃
テキスト:舩木展子
ヴィジュアルデザイン:ヒノキモトシンゴ
配給:mirrorball works 配給協力:大福
宣伝:大福、大西夏奈子
音楽:tickles、yutaka hirasaka、Lil’Yukichi、Takahiro Kozuka、Ally Mobbs、ruka ohta
106分/日本語・英語/カラー
©2021「息子のままで、女子になる」

公式サイト

サリー楓(さりー かえで)

ファッションモデル/建築デザイナー

1993年、京都生まれ、福岡育ち。ファッションモデル、建築デザイナー。ブランディング事業を行う傍ら、トランスジェンダーの当事者としてLGBTQに関する講演会も行う。建築学科卒業後、国内外の建築事務所を経験し、現在は建築のデザイン、コンサルティングを行う。2017年、慶應義塾大学大学院在学中に社会的な性別を変え、建築やブランディングからモデルまでに及ぶ多岐にわたって活動するトランスジェンダーとして注目されている。パンテーン CM「#PrideHair」起用や「AbemaTV」コメンテーター出演も話題に。

Photographer:Masahiko Matsuzawa,Interviewer:Saki Yoshitama,Hair&Make:TAYA