祇園の屋形から裏路地までをリアルに再現した大がかりなセット
――「舞妓さんちのまかないさん」はコミックが原作ですが、是枝監督は読んだ時にどんな印象を受けましたか?
是枝裕和(以下、是枝) まず料理を中心にした物語に惹かれました。芸舞妓の世界は全く知らなかったので、何度か祇園に足を運び、リサーチを進めるうちに、これはとても面白いなと感じました。血縁ではない人たちが共同生活を送る、職場と住環境が一体化した空間でのドラマができると思ったんですよね。もうひとつ、たとえば街全体が内線電話でつながる「共助」のシステムを形成している小宇宙みたいな別世界が現代と道ひとつ隔てたところに広がっていて、それが面白かったんです。これなら京都を舞台にした屋形に集う人たちの物語を、料理を中心に描けるなと思いました。
――是枝監督は過去にもテレビドラマの監督を務めていますが、今回、初めてNetflixとタッグを組んでみて、何か違いはありましたか?
是枝 特になかったですね。普段のやり方と変わらずで、やりたいことができました。何一つ、「これは駄目」ということがなかったですね。
――ドラマシリーズには以前から思い入れがあるとお聞きしました。
是枝 究極的なことを言うと、一番やりたいのは連続ドラマなんです。もちろん映画も好きですが、本質的には連ドラのほうが向いていると自分では思っていて。そんな連ドラへの愛が今回また甦ったような気がします。
――どういう経緯で今回の依頼があったのでしょうか。
是枝 企画の川村元気さんから、「面白い原作があるので、ドラマシリーズとして映像化したい」とお話をいただきました。当初は若い監督たちが演出するのを、ショーランナーとして統括してほしいという依頼で、僕が演出する予定はありませんでした。ただ京都へ取材に行く中で、僕が夢中になったんです(笑)。それで僕自身も演出をすることになりました。
――具体的に総合演出は、どんな役割を担ったのでしょうか。
是枝 川村さんや各監督に相談しながら、キャスティング、スタッフィングは僕が中心になって決めました。あとは自分でシナハン(シナリオハンティング)に行ったので、そこからA4で40枚ぐらいのロングプロットを書いて、全9話のストーリー展開、人物配置、着地を含めて全て考えました。準備期間にかけた時間は1年ちょっとです。
――美術の種田陽平さんが手がけた、屋形はもちろん、裏路地まで再現した大がかりなセットが素晴らしかったです。
是枝 想定をはるかに超えるものでした。街をひとつ作ってしまったようなものですからね。屋形の中も、1 階の台所と居間、2 階の居住空間、屋根裏部屋、坪庭や玄関脇のバーまですべてセットです。
橋本愛(以下、橋本) すごかったですよね。どこを見ても本物でした。
是枝 リサーチに種田さん自身が行かれて、京都の幾つかの屋形をモデルにはしているんですが、今回は台所がメインになります。なので台所がいろんな空間の通路になって、人が行きかう場所になるように、階段との位置関係などは本物と違って、撮影用にアレンジしました。