「妙子さんは強い女」という監督の言葉で、作り上げた強い母の姿

――初めて『エゴイスト』の脚本を読んだ時の感想と、オファーを受けた理由を教えてください。

阿川佐和子(以下、阿川) 最初に感じたのは難しい役だなということ。そして出番が結構多いんだなと思いました。それに、出演者が綺麗だなあと。私以外ね(笑)。でも面白そうだと思ってつい引き受けちゃいました。

――妙子役の人物像をどう解釈して演じられたのでしょうか?

阿川 人物設定としては、経済的に非常に厳しいシングルマザーです。身体も丈夫じゃないので、宮沢氷魚(以下、宮沢)さん演じる唯一の息子・龍太が、高校を中退して自分の代わりに稼いでくれています。それに甘んじて、ひたすら龍太に頼って生きている母親ですね。この人は後ろめたさと負い目を抱えて辛いだろうなって最初は思いました。

――どのように役づくりをされたのですか?

阿川 撮影の合間に監督が何度も「妙子は強い女です」と口にされていました。ちょっと弱々しい発声をすると「いや、妙子は強い女ですから、そういうセリフ回しじゃないはずです」と言われたり。そこで、息子である龍太の立場で考えてみたんです。お母さんに元気になってほしいと思っているのに、毎日泣いたり、ごめんねって謝られたりすると、むしろ辛いだろうな、と考えました。それで「ああそうだ。このお母ちゃんは強い人なんだ」と心に定めて役づくりをしていきました。

――監督と一緒に妙子像をつくっていったんですか?

阿川 そうですね。もちろん、龍太に申し訳ない気持ちはあるけれど、妙子は強いのだから、この生活がありがたいし楽しいと、素直に受け入れて毎日を過ごしている明るい母親なんだと思いました。監督からのアドバイスもあって、最初に設定を聞いたときとは違う思いで妙子を演じたつもりです。

――浩輔役の鈴木亮平(以下、鈴木)さんと宮沢さんと3人一緒のシーンがすごく自然で、実際の生活を見ているような、生々しさみたいなものを感じました。

阿川 3人でのシーンは基本的に妙子のアパートで、スタッフはたくさんいましたが、カメラは1台だけでした。だからセリフを別の角度から何度も撮ることが一切なかったんです。どこかでカメラは回っているけど、3人だけの世界で流れに乗って、自然に関係性を作れば良かったので、まるでドキュメンタリーを撮影されているような雰囲気でした。それが自然な演技に見えるのかなと思います。

――実際に、カメラワークが独特だと思われましたか?

阿川 私は技術的なことは詳しくないですが、きっと独特だったと思います。でも、あのカメラワークがあったからこそ、自分はいま母親として息子の“友達”をお招きしているんだと、そういう気持ちにさせてくれたという印象があります。心の片隅には、こんなに美しい背の高い息子を産んだ覚えはないぞ、という気持ちがありましたけどね(笑)