世の中の社会問題と向き合う、貴重な体験ができた作品
――『TOCKA[タスカー]』の出演は、どのような経緯で決まったのですか?
佐野弘樹(以下、佐野) オーディションですね。スタッフさんは監督も含めて全員初めましての方でした。
――本作のテーマは、嘱託殺人(※死ぬことを希望している本人の依頼を受けて殺害すること)です。最初に脚本を読んだ時の印象についてお聞かせください。
佐野 第一印象はやっぱり、「すごいテーマを扱うんだな」っていう。だけど、死にたがっている1人の男の話でありながら、そこに関わってくる登場人物3人の群像劇みたいな側面もあって、その辺のドラマみたいなものを脚本の段階で感じたので、きっと面白い作品になるんだろうなって予感がありました。
――舞台は北海道の根室ですが、地方特有の閉塞感について、どのように捉えていらっしゃいますか?
佐野 僕、出身が山梨県なんですけど、あえて自分から外に出ない限り、全部地元で完結できちゃうんですよね。小・中・高で一緒だった友達とそのまま地元に就職して、土日はそいつらと飲んで、みたいな。それはそれで普通に暮らせるわけだし、それ自体が悪いわけでもないので、僕が演じた大久保幸人という人が地元に居着いてしまう感じは、なんとなくわかります。
――ご自身も地元にいた頃は、閉塞感のようなものを抱えていたのでしょうか?
佐野 当時はまだ学生だったので何も考えずに過ごしていましたけど、進学先に東京の大学を選んだのは、もしかしたら無意識に感じていたのかもしれないですね。
――大久保幸人は犯罪に手を染めながら生活しています。そうした役を演じることについては、どうお考えでしたか?
佐野 もちろん、犯罪で金を稼ぐこと自体は、全く理解しがたいです。でも家族とか兄弟とか、大切な人を支えられるのが自分しかいなかったらって想像すると……。どんな手段を使ってでも金を作って何とかしようとする彼の気持ちは、わからなくもないですよね。
――役作りをする上で意識したことがあれば、教えてください。
佐野 役作りで特に意識したことはないですけど、お芝居のトーンみたいなものは意識しました。作品の性質上、限りなく現実に近いというか、現実の延長線上として描いているので、これまでやってきたエンターテイメントのお芝居とはちょっとトーンが違うと思って。なので、あえて周到な準備をせず、現場で感じたことや監督の要求みたいなものを、いつも以上に素直に聞いて自然体でやってみようって心構えはありました。
――本作のように社会問題を扱う作品に出演されたことで、世の中の見方が変わったなどはありますか?
佐野 嘱託殺人もそうですけど、普通に生きていて社会問題と言われる物事を身近に感じられるかって言ったら、たぶんほとんどの人が難しいじゃないですか。僕自身、あえて遠ざけていたわけではないですけど、特に意識したことは正直なかったです。でも、今回の出演をきっかけに嘱託殺人というものを自分なりに調べて意見を言ったり、社会問題に詳しいプロフェッショナルのお話を聞ける機会をいただけたりして、すごく貴重な体験だったなと。幸人を演じていた時よりも、今のほうがこのテーマについて考えている自分がいます。