勇気を出してチャレンジする9名のストーリー

――『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』は、新潮社のウェブマガジン「考える人」で連載していた「私、元タカラジェンヌです。」を書籍としてまとめられたものですが、連載を始めたきっかけを教えてください。

早花まこ(以下、早花) 宝塚の卒業が決まった時に、この先の人生をどう歩めばいいか、卒業した後の心構えについて、尊敬する元タカラジェンヌの方々にお話をお聞きしました。とてもいいアドバイスを聞くうちに、視野が広がり、もっといろんな方のお話を聞いてみたいと思ったのがきっかけです。

――早花さんは、宝塚在団中に、劇団の機関誌『歌劇』のコーナーで執筆されていました。もともと書くことが好きだったのですか?

早花 『歌劇』では、各組内で起こった出来事やエピソードを書く“組レポ”で、雪組のコーナーを担当していました。ほかの組は1年ごとに担当が変わることが多いのですが、雪組は変わらなかったですね。皆さん、書くのが苦手だったり、忙しかったりするので、積極的に「書きます!」という人はあまりいなくて(笑)。私もいつも締め切りには追われていましたが、書くこと自体は好きだったので、結局8年も続きました。でも、インタビュー記事に挑戦したのは、今作が初めてだったので難しかったです。早霧せいなさん、仙名彩世さん、香綾しずるさん、鳳真由さん、風馬翔さん、煌月爽矢(中原由貴)さん、美城れんさん、夢乃聖夏さん、咲妃みゆさん、9名の皆さんはストーリーがそれぞれ違うので、文章がパターン化するとそのリズムが失われてしまいます。編集さんと話をして、インタビュー形式ではなく、地の文を入れたノンフィクションとしてまとめることになりました。

――どの方からも様々な話を聞きだしていらっしゃいますが、1回の取材はどれくらい時間をかけましたか?

早花 インタビューには1人につき3時間ぐらいかけました。最初は2時間くらいを予定していたのですが、3時間くらいお話しして、取材終了後に雑談と余談が始まりそこから30分間(笑)。皆さん、貴重なお話を聞かせてくださいました。

ーー同じタカラジェンヌだからこそ、聞き出せたことも多いと思います。

早花 その経験は活かせたと思います。取材は、第三者的なスタンスで携ったつもりですが、いざ、取材が始まると、どうしても「分かる、分かる~」と共通の話題で盛り上がっちゃうことが多くて(笑)。でも、そこも含めて、私だから聞けたことがあったら良いなと。この本に登場した9名の方は、芸能の世界に残ってらっしゃる方、大学に行かれた方など、さまざまなセカンドキャリアで充実した日々を過ごしていらっしゃいます。たとえば、国際医療福祉大学に進学された鳳真由さんのページは撮影を大学内で行ったのですが、キャンパス内を案内してくださっている時に、生徒として先生に挨拶されていたりして「本当に大学生なんだ!カッコいい!」と感激しちゃいました。鳳さんは、大学内で演劇サークルも立ち上げられたそうです。入学前は「学生さんとは年も経歴も離れているから、純粋に勉強に集中しよう」と思われていたそうですが、入学したらお友達がたくさんできたらしく、キャンパスライフをエンジョイされていました。

――早花さん自身、在団中にセカンドキャリアについて話をすることはありましたか?

早花 親しい人同士で「卒業した後、どうする?」という話をしたことはありますが、具体的な話をしたことはなかったです。宝塚は純粋に歌劇だけを頑張る人たちが集っているので、なかなか次の準備とはならなくて。その中でも、セカンドキャリアを明確にして、舞台やお稽古に励みながら、勉強などもしていた方達はすごいなと思います。

――9人の方のお話を聞いて、意識の変化はありましたか?

早花 取り組み方への意識が変わりました。ベトナムの日本語学校に勤務後、技能実習生育成支援を行っている香綾しずるさん、単身、台湾に渡り、現地でファッションモデルをされている中原由貴(煌月爽矢)さんもそうですが、興味があることに自分から動いて、突き進む姿勢に刺激を受けました。私は、ついつい、「できないかも」とか、「もうちょっと見通しが立ってから」と思ってしまいがちですが、勇気を出してチャレンジする9名のストーリーは、宝塚を知らない方でも読んだら絶対に力になるはずです。