「熊本の彼氏」人気をグループに還元させるために

──このタイミングで1stソロシングル「おにぎり」をリリースすることになった経緯を教えていただけますか?杉本さんはBLACK IRISのメンバーとしても活躍中ですが、こちらも待望のメジャーデビューを果たしたばかりで大事な時期ですよね。

杉本琢弥(以下、杉本) BLACK IRISは2018年3月にお披露目ライブをやったので、そろそろ6年目に入るんですけど、ソロ活動もグループと並行するかたちで3年くらいやっていたんです。だから唐突に始まった話ではないし、当たり前だけどグループ活動をないがしろにするものでもありません。ソロをやる理由はいくつかあるんですけど、一番大きいのは楽曲の方向性。BLACK IRISはダンス&ボーカルグループなので、カッコいい系のハードな曲が多くなるんですよ。そういったサウンドに抵抗のあるリスナーの方がいるのも理解できますし、ソロ活動で違う方向性を示してそこからもファンになっていただきたかったんです。

──間口を広げていくというわけですね。

杉本 あとはSNSの影響ですよね。これはコロナ禍に入ってからより顕著になった気もするのですが、今ってアーティストの存在をライブとか歌番組よりもSNSで知るケースが圧倒的に多いと思うんです。

──杉本さんのTikTokも「熊本の彼氏」シリーズで大ブレイクしました。

杉本 ええ、ありがたいことに「熊本の彼氏」で多くの人に知っていただいたから、ソロでガーンと前に出るならこのタイミングかなという考えはありました。TikTokで話題になったことはもちろんすごくありがたいことですけど、今は「アーティスト・杉本琢弥」というよりは「TikTokをやっている人」みたいな認識が多いと思うので、2023年はきちんとアーティストであることを打ち出して、もっとBLACK IRISのほうにも来てほしかったんですよ。「熊本の彼氏」人気をグループに還元したかった。

──BLACK IRISとソロ歌手・杉本琢弥は、具体的にどんな点が違うのですか?

杉本 BLACK IRISで打ち出したいのは、オーラを放った9人の男たちがドシンとステージに構えていて、「ズバ抜けた存在感」「圧倒するパフォーマンス」をもって、お客さんとの一体感を出していくという世界観。でもソロは、もっと距離が近いイメージ。みなさんにとって身近な存在でありたいんです。実際、ステージでもソロのときはなおさらお客さん一人ひとりの目を見ながら歌っていますしね。じっくり歌を聴かせる曲が多いです。

──杉本さんの場合はグループ曲もソロ曲も自分で書くことが多いので、そのあたりの差別化がより明確にできるのかもしれません。

杉本 グループのときはバッチバチな曲が多くなるし、音数も多めなんです。バラードでも音数自体は決して少なくないので。ソロのときは、しっとり聴けるような曲を書きたかったのでそのあたりからまったく違うテイストにしたかったんですよね。たとえばソロで「トワイライト」という曲があるんですけど、これなんかは「夕焼け」とか「黄昏」といったイメージを頭に浮かべながら作りました。日常にありふれているような光景を曲にしていきたいんです。

──今回のシングルである「おにぎり」というタイトルには、どんな意味が込められているのでしょうか?

杉本 曲中では「手を握り」というフレーズを連呼しているんですけど、そこからインスピレーションを受けて「おにぎり」というタイトルに落ち着きました。サウンドはシティポップ調で、歌詞のテーマは日常にありふれた普遍的な愛。なので僕はファンのみなさんを思い浮かべながら歌いますし、ファンのみなさんが僕を思い浮かべて聴いていただければうれしいです。もちろん恋人や夫婦など、好きな人を思い出していただいても良いですし。

──制作時に苦労したことなどはありましたか?

杉本 僕、グループでもソロでも曲を書くときは宅録で全部やっちゃうんですよ。グループの場合は仮歌も自分で入れ、みんなに「こういうイメージで歌ってね」と渡す流れで。逆にソロのときは仮歌を用意しないんですけど。

──自分で曲を書いて自分で歌うから、必要ないということですよね。

杉本 だけど今回は仮歌を録って、それとは別にまた本番で録りました。2回レコーディングしたことが新鮮でしたね。制作の工程がいつもと違っていて、トラックを作ってから他の方にアレンジを加えていただきました。

──当初、自分の考えていたものとは違うサウンドになりましたか?

杉本 はい、それが狙いでもありますしね。でも、ちょっとイメージ的に違うかなと思ったところは、僕も意見をガンガン言いました。そうしたディスカッションを重ねているうちに、自分のやりたいことが明確になったので結果的にはすごくよかったと思います。僕、わりと自分のこだわりが強いタイプかもしれないな(笑)。