「ひとつのことに熱狂的に取り組む」という点はマリーと似ている
──韓国でミュージカル関連の賞を総なめにした話題の作品です。「マリー・キュリー」の主演に決まったとき、率直にどう感じましたか?
愛希れいか(以下、愛希) オリジナルの韓国版のミュージカルは観劇したことがなかったんですよね。キューリー夫人に関しては小学生のときに伝記の本で読んだことはありますけど、逆にいうとそれくらいしか知らなくて……。「信念のある女性の一生を演じる」という面では非常に光栄に感じました。楽しそうだなとも思いましたし。ただ、それと同時に不安もありましたね。天才科学者という肩書が、あまりにも自分の実人生とかけ離れているので(笑)。
──学生時代、理科や化学が苦手だったとか?
愛希 苦手でしたねぇ。なんだったら、学校の勉強全体が苦手でした(笑)。学生時代から宝塚しか目に入っていなかったので、それ以外のことに興味が持てなかったんです。でもその代わり、宝塚に入るためのバレエ練習などには全力で取り組みましたけど。マリーとは方向性が全然違っていたものの、「なにかひとつのことに熱狂的に取り組む」という意味では似ているかもしれません。
──脚本を読んだ感想を教えてください。
愛希 この作品は「ファクション・ミュージカル」と銘打っており、Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)が入り混じってます。だから歴史的事実を淡々と再現するというよりは、ファンタジー要素もかなり入ってきているんですね。劇場で観ていただけたら、「マリーってこんなことを考えていたんだ」とか彼女のパーソナルな部分も興味を持っていただけると思ってます。
──役を演じるうえで肝に銘じていることはありますか?
愛希 やっぱり難しいんですよね、誰かの人生を演じることって。私の場合は宝塚で最初に舞台を踏んだのが2009年で、それからずっと演じるお仕事をやらせていただいてますが、いまだに「役作りってどうやるんだろう?」ってわからなくなることがあります。今回の作品に関しては演出家の鈴木裕美さんを信じて、説得力があるようなアプローチを心掛けていますが、やっぱり一本筋が通っているようにしないと、観ている方も感情移入できないと思います。とはいうものの、天才科学者になりきることは、天才ではない私にとって非常に難易度が高いです(笑)。
──簡単に他人に真似されるようなら、そもそも天才などと呼ばれないでしょうしね(笑)。
愛希 そうなんですよ。「なんでこんな発想にたどり着くのか?」とか考え始めると、本当にキリがなくて……。稽古を進めている今も試行錯誤を繰り返しているので、本番を迎えるまでに私のマリーがどうなるのか、そこは自分でも楽しみです。
──現在は稽古中ということですが、現場の雰囲気はいかがですか?
愛希 ピエール・キュリー役の上山竜治さんや、アンヌ役の清水くるみさんとは、他の作品で共演したこともあるので、わりとリラックスしながらいろんなことを話し合ったりしていますね。それから鈴木裕美さんが、本当に細かくこだわりを持ちながら演出してくれているんです。最初から不安要素をなくしていくようなアプローチなので、演じるほうとしてはそれがすごく助かっています。
──では、改めて作品の見所をお願いします。
愛希 この作品は題材が科学ということで、ひょっとしたら「とっつきにくい」「難しそう」と感じている人もいると思うんですよね。重くてシビアなシーンも含まれていますし。そういった要素が根底にありつつも、『マリー・キュリー』では1人の女性の奮闘ぶりがフォーカスされているのがポイントになっています。友情があり、愛情があり、信念があり、葛藤があり……。描かれているのは、あの時代を精一杯生きる女性の姿です。すごくメッセージ性が強いミュージカルだし、多くの方にエンターテインメントとして共感していただけるんじゃないかと思います。
──決して難解な作品ではないということですね。
愛希 はい。ジャンルを問わず、ひとつの信念を貫き通す人って単純にカッコいいじゃないですか。若い方が観たら背中を押されると思うし、生き方や考え方が影響されることもあると思うんですよね。私自身、観ている方を勇気づけるような演技をしたいと考えています。