「言葉を得ることで、大切な何かを失った」カスパーの壮絶な葛藤を演じたい

――今回の舞台「カスパー」のお話から伺います。初舞台、初主演ということですが、最初にお話が来た時はどんなお気持ちでしたか?

寛一郎 「こんな舞台の企画がある」とマネージャーさんから聞いたのが、そもそものきっかけでした。もともと舞台に挑戦する気持ちはなかったのですが、台本を読んで「この題材はドラマでも映画でも絶対にできないな」と思い、僕の中で“舞台の価値”というものに気づいて、チャレンジしてみようと思いました。

――これまで舞台のお仕事に挑戦されてこなかったのには、何か理由はあったのですか?

寛一郎 舞台よりも映像の仕事に力を入れたかったこともあり、積極的に舞台をやろうとは思っていませんでした。もちろん舞台作品を観に行ったことはありますし、好きな作品もありますが、僕自身、舞台の知見がまったくないので……。でも今回はやってみようと思いました。

――本作はかなり観念的というか、演劇論みたいな部分もあるお話ですが、具体的にはどういうところに惹かれましたか?

寛一郎 演劇論に関してはまったく分からないので、何とも言えませんが、主人公のカスパー・ハウザーという人物は16歳で初めて言語に触れて、概念を再構成するわけです。たとえば、私たちは子どもの頃に幼稚園や小学校で、新しい交友関係ができて、先生から社会性を学び、公共性を認識していきますよね。その中で、得るものと失うものがあるじゃないですか。その繰り返しで私たちは生きてきて、それが当たり前だと思っている。だから、「何かを得れば何かを失う」ということに気づいていない人も多いんです。そんな中、カスパーは16年間言語を知らなくても自分の概念体系があり、その概念体系が言語によってぶっ壊されていく。本当に多くを一気に得すぎて、失うものも大きかった……そういうところにカタルシスを感じて、やってみたいなと思ったんです。

――最初に台本をご覧になった時は、もう今の台本の形になっていたのですか?

寛一郎 いえ、旧訳だったんですよね。だから、ちょっとした言葉のニュアンスは違えど、テーマや内容に関してはほとんど一緒でした。

――台本を拝見した印象でいうと、カスパーが言葉を覚えていく過程で、かなり肉体的表現が大変なのかなと感じましたが、その辺りはいかがでしたか?

寛一郎 たしかに、前半に肉体的表現がちょっとありましたね。でもそういった肉体的表現は、僕以外の周りの共演者の方々に重きがあるので、僕は言語担当ということで……。どちらかというと「セリフをちゃんと覚えられるかな?」と思っています(笑)。

――普段の演技でもプライベートでも、そこまで「言葉」と向き合うことはあまりないですもんね。

寛一郎 そうですね。だからこそ、僕も言葉に新しい発見をし、何かを得て何かを失うんだろうなという楽しみもあります。

――ちなみに現時点で、「役柄へはこんなふうに挑もう」と考えていることはありますか?

寛一郎 舞台はまったくの初めてなので……まだ想像もつかないです。だからまっさらの状態で、「本当に初めてです」という姿勢でいろいろ吸収できればと思っています。

――演出家の方(ウィル・タケット氏)とはもうお話しされましたか?

寛一郎 はい、初めてお会いした時からすごく話しやすい方でした。積極的にコミュニケーションを取って、舞台を作り上げられればと思っています。

――これから「カスパー」の稽古に入られるわけですが、今後も舞台をやっていきたいお気持ちはありますか?

寛一郎 まだ何とも言えませんが……ただ「舞台はこれで最後でいい」と思えるほど「カスパー」という作品に惚れ込んだのはたしかです。それだけ価値のある作品だとも思っています。