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地方から上京してくる人が羨ましかった

――『リスタート』の舞台となったのは北海道・下川町で、主人公・未央の故郷です。品川さんは東京出身ですが、地方から上京してくる人たちに共感する部分はありますか?

品川 共感というか羨ましいんですよね。上京する時点で絶対にドラマがあるじゃないですか。僕の地元は東京で、場所によっては懐かしい気持ちもあるんですけど、ずっと生活している場所なので大きく景色が変わるわけではないですからね。だから田舎があるっていいなという気持ちはずっとあります。

――今回の映画も脚本は品川さん自身が手掛けていますが、主人公をミュージシャンに設定したのはどういう意図があったのでしょうか?

品川 僕が今まで撮ってきたのはバイオレンス映画が多いんですけど、下川町を舞台にして映画を撮るとなったときに、シナリオハンティングで現地に行って、きれいな風景を見て、自然と「挫折して田舎に帰ってきた主人公が、地元からもう一度自分の夢に向き合う」というストーリーが浮かんでいったんです。それで東京に戻るときに、主人公はミュージシャンで、歌うのは女性がいいなと何となく考えて。そんなときに毎週録画している『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)を見たら、EMILY(HONEBONE)が出ていたんです。歌も上手かったですし、スタッフさんとのやりとりも面白かったのでオファーしました。

――脚本もEMILYさんへの当て書きだったんですか?

品川 そうですね。EMILYは自分で歌詞も書いていますし、彼女自身が今抱えているであろう、思うように結果を出せていない悔しい気持ちや、ここから這い上がっていきたい気持ちなどを脚本に落とし込んでいきました。ただ起こっている事象はドラマチックではありますけど、EMILYやミュージシャンに限らず誰もが感じる気持ちだと思います。「挫折と再生(リスタート)」がテーマになっていて、自分の中にもあるものなので、スムーズに脚本は書けました。

――EMILYさんは本作が映画初出演ですが、演技未経験の方を主役にすることに不安はありましたか?

品川 僕の中で、ミュージシャンの方はお芝居が上手い印象があったので、不安はなかったです。歌に感情を乗せて表現するという意味では、歌とお芝居って本質的に似ていると思うんですよね。

――未央の年齢を28歳に設定したのにも何か意味があるのでしょうか?

品川 20代後半って何か一回ないですか? 僕だけかなあ……。まず夢を持って社会に出たときに、学生時代に思い描いていたものとのギャップがあって一回立ち止まる。その後、なかなか思い通りにいかなくて、壁みたいなものにぶつかったのが僕にとっては28歳だったんです。そのぐらいの年齢になると、周りも結婚したり、出世したりする奴がぼちぼち出てきて、このまま夢を追うのも何か違うぞと気づくんです。よく芸人は「30歳までに売れなかったら辞める」って言うんですけど、その区切りみたいなものが見えてきたのが僕にとっては28歳でした。だから未央の年齢も28歳にしました。

――品川さんが28歳の頃、品川庄司さんは若手芸人の中でも勢いがあったように感じていました。

品川 確かにそのぐらいからテレビには出ているんですけど、もともと思い描いていたのはデビューして数年でバーンとスターになって、冠番組を持つみたいなイメージだったんです。僕らがデビューする以前は、ダウンタウンさんがドーン!ドーン!ナインティナインさんがボーン!ボーン!とロケットスタートで売れて、いきなりスターダム、みたいな。ロンブー(ロンドンブーツ1号2号)さんなんて2、3年でテレビに出て、いきなり冠番組でゴールデンに行ってというのを見ていたので、そういう風に売れていくものだと思っていました。最近の若手芸人を見ていると、一気にスターダムっていう路線に戻ってきていますけど、僕らはひな壇から地道にスタートした世代なんですよ。だから、売れるにしてもじわじわじわじわで、毎日「くっそー!」という思いがありました。

――品川庄司さんは順風満帆なイメージがあったので、それは意外です。

品川 一時期、「品川は天狗だ」みたいなことを言われていた時期もありますけど、天狗になったことは一度もないんです。もっと上に行きたいって思っているから、現状に満足できなくて、「くっそー!」という気持ちが態度に出て、天狗に映ったのかもしれません。単純に実力不足もあったんでしょうけど、面白ければいいと思っていたので、周りのニーズに応える気もなかったんですよね。でも仮に28歳の自分に戻ったとしても、今みたいに物分かり良くやっている自分ってどうなんだろうと考えると、それって良い人生とは思えないんですよね。

――今の気持ちのまま28歳の自分に戻っても、同じ選択をしているってことですね。

品川 僕の姪っ子と甥っ子が、ある夢を追いかけて狭いアパートに住んでいるんです。そのアパートに行ったことがあるんですけど、「いいなあ、6畳のアパートとかに住みてーな」と思ったんですよ。あと若者が出ているドキュメンタリーなんかを見て、6畳の部屋にマンガとDVDが所狭しと並んでいて、ベッドを置いたらいっぱいいっぱいみたいな光景を見ると羨ましくなるんですよね。もちろん本人は現状に満足していないんでしょうけど、こういう時期は楽しかったなって自分の若い頃を鮮明に思い出すんです。狭い部屋で安いそうめんをすすっているとか一個一個、色まで覚えています。

昔の自分が言ってたことが実は一番刺さったりする

――まさしく『リスタート』には、現在進行形で夢を追いかけている無名の俳優さんも数多く出演しています。

品川 そういう奴らが集まったんで、「ここから俺たちで這い上がっていこう!」というみんなの気持ちが僕にも刺さっちゃったんですよね。キャリアのある役者さんたちも、そこは一緒で、中野英雄さんはご病気をされて本作が復帰第1作だったり、黒沢あすかさんは今まで悪女役が多かったのに優しいお母さん役だったりと、特別な思いがあったようです。カメラマンのYohei Tateishiさんにしても、ずっとロサンゼルスを拠点に活動されていて、日本に帰国して、これが初めての長編映画だったり。みんなが『リスタート』という映画と自分がシンクロしていって、熱い現場になりました。

――品川さん自身も、シンクロした部分はありましたか?

品川 そうですね。企画が流れちゃったりして3年間、映画を撮れなかったという状況もありました。普段は別に気にしないでやっているつもりなんですけど、撮影現場に入ると、映画の世界観に引き込まれちゃったというか。どこか取り憑かれたような、トランス状態でしたね。

――クライマックスでEMILYさんが大勢の前で歌うライブシーンは特に気持ちがリンクしたとお聞きしました。ライブシーンを撮るのはいかがでしたか?

品川 『漫才ギャング』で漫才シーンを撮っていたので、ステージを撮ること自体は初めてじゃなかったんです。僕はアクションシーンを撮るのが大好きなんですけど、今回はアクションがないので、ライブが一番大事なシーンだと位置付けていました。ただミュージックビデオみたいになってしまうのも違うし、ちゃんと映画として成立するライブシーンを意識しました。

――確かに、しっかりとストーリーに紐づいたエモーショナルなライブシーンでした。

品川 あのシーンにすべてが集約されていますからね。あそこで歌っている歌は、未央が高校を卒業する18歳のときに作った歌なんです。高校生のときに作った歌で、今の自分が勇気づけられるということです。映画だから分かりやすく歌になっていますけど、同じ経験って僕らにもあると思うんですよね。いろんな現実に直面して、挫折を経験して、そんなときに昔の自分が言ってたことが、実は一番刺さったりするんです。

――最後に改めて読者の高校生に向けて、『リスタート』の見どころを教えてください。

品川 『リスタート』は夢を持って飛び出して行って、挫折して、再生する話なので高校生の青春時代を経た後の映画です。高校生の皆さんも今後、壁にぶつかることがあるかもしれませんが、今思うと、自分が一番しんどかったときって楽しかった時期でもあるんですよ。僕の下積み時代で言うと、「なんで売れねーんだよ!」とか言いながら毎日毎日ネタを書いて、家で頭を抱えたりして。公園に行って庄司(智春)と二人でネタ合わせをしたり、金のない先輩がどこかから金を借りてきておごってくれたり、酔っ払ってケンカをしたり。そういう誰しも経験することの一つひとつがドラマであり、『リスタート』もそういうことを詰め込んでいます。なので、やがて経験するであろう未来の自分を重ねて見てもらえればと思います。

Information

『リスタート』
2021年7月16日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル新宿ほか全国公開

出演:EMILY(HONEBONE)、SWAY(DOBERMAN INFINITY / 劇団 EXILE)、品田誠、朝倉ゆり(エラバレシ)、夏目ベール(純情のアフィリア)、藤井俊輔、向井日菜海、
阿部隼也、かんた、岩崎う大、もりももこ、西野亮廣(キングコング)、松田大輔(東京ダイナマイト)、庄司智春(品川庄司)、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、黒沢あすか、中野英雄

監督・脚本:品川ヒロシ 音楽:HONEBONE 撮影:Yohei Tateishi
照明:淡路俊之、津田道典 美術・装飾:遠藤剛 編集:須永弘志 録音:光地拓郎
衣裳:宮本まさ江 ヘアメイク:泉宏幸 助監督:高土浩二 制作担当:金城恒次
チーフプロデューサー:片岡秀介、古賀俊輔 プロデューサー:木本直樹、大日方教史
エグゼクティブプロデューサー:羽根田みやび 製作:岡本昭彦
クラウドファンディングパートナー:MOTION GALLERY
スペシャルサポート:下川町 制作プロダクション:ザフール 制作:吉本興業
配給・宣伝:吉本興業、ハピネットファントム・スタジオ 製作:吉本興業
© 吉本興業

北海道下川町で育った未央は、シンガーソングライターを夢見て上京。しかし、不本意ながら売れない地下アイドルとして活動していた。ある日、意図せず起きた有名アーティストとのスキャンダルによって、世間からのバッシングを受けることに。思い描いていた夢に破れ傷つき、故郷に帰ってきた未央だったが、家族や友人にも上手く接することが出来ずにいた。そんな中、同級生の大輝は、未央を思い出の場所へと連れ出す。自然豊かな景色とその優しさに癒され、未央はゆっくりと前を向き始める―。

公式サイト

品川ヒロシ

お笑い芸人/映画監督

1972年4月26日生まれ、東京都出身。95年に相方・庄司智春と結成したお笑いコンビ「品川庄司」のボケ担当。お笑い芸人として第一線で活躍する一方で、09年には自身の自伝的小説を原作とした『ドロップ』で長編映画監督デビューを果たし、興行収入20億円、観客動員150万人を突破する大ヒットを収める。また、11年には原作・監督・脚本作品第2弾として『漫才ギャング』が公開、前作に引き続き各所から高い評価を受ける。主な監督作品に『サンブンノイチ』(14)、『Zアイランド』(15)、「異世界居酒屋『のぶ』」(20/WOWOW)、『半径1メートルの君~上を向いて歩こう~ 「戦湯~SENTO~」』(21)などがある。また、21年に舞台「池袋ウエストゲートパーク」の演出を手がけるなど、エンタメ業界での活動の場を広げ続けている。

Photographer:Toshimasa Takeda,Interviewer:Takahiro Iguchi