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人に与えてもらった自分を、どんどん自分の顔として張り付けていく

――メジャーデビュー7周年のタイミングで、初のセルフカバーアルバム『PERSONA #1』をリリースしたきっかけは何だったのでしょう?

大森 去年のコロナ禍に、毎日1曲ずつ自分の曲や自分が提供した曲を弾き語りした動画をインターネットに上げていました。ライブができなくなったこともあって、投げ銭みたいな感じで、「いいと思ったらチェキを買ってもらう」みたいな活動をやっていたんです。そのときに、「あれ? 私、曲いっぱい書いたな。でも流れていってる部分があったから、もったいないな」と思って。自分は何かを作ってスッキリするタイプなので駆け足になりがちで、自分の活動に対して説明不足なまま次に進んでしまうところがすごくあるなと思ったんです。

――通常の活動ができないからこそ改めて気づいたと。

大森 それぞれ聴く人が何かを噛み砕いてくれれば、それはそれですごく良いことだからいいやと思ってきたんですけど、一つひとつ作った曲たちには、いろんな広がり方があるし、まだ残されている可能性もある。自分が作ってきた曲を、もう一度歌いたい、整理したいという気持ちが最初にありました。

――大森さんは自身もメンバーとして参加するアイドルグループ「ZOC」も含めると、ものすごい数の楽曲を制作していますから、なかなか提供曲を振り返る機会もないですよね。

大森 それに加えて、人に提供した曲って、作家としては自分を完全に消すこともできるんです。たぶん私は、自分のやってきた音楽の種類で仕事をもらうよりも、提供する人の人生の起点みたいなタイミングでオファーをいただくことが多い気がしています。そのときに、「大森靖子らしい曲を書いてください」と言っていただけることも多いんですけど、その人に歌っていただく曲は私ではない。だから、その人と私の共通点や、全然分からないけど面白いなというところを分解していけばいくほど、自分自身と向き合うのではなく、人を介して自分と向き合うことになります。

――他者を介在することで、より自分と向き合うことになったんですね。

大森 だから「自分の曲を書こう!」と思って曲を書くときよりも、すごく自分を上手く描けたなという曲が、提供曲で現れるときがあるんです。中高生のときから自分で「私はこういう人間です」と思っているよりも、いろんな人から、「この人はこういう人だよね」という側面を与えてもらうことで、自分が形成されていることを面白いなと思っていました。

――中高生のときからってどういうことですか?

大森 私、学生時代は保健室登校だったんです。4時限目をサボっているから、学校の購買に来るパン屋さんのパンは最初に買えるんですよ。なので私だけが一番人気のチョコチップパンとカレーパンを絶対に両方買えていたんです。そうするとパン屋さんと仲良くなるじゃないですか。パン屋さんのおじさんは50歳くらいの方だったんですけど、人気のパンを毎回買えるのはおかしい、パン屋さんとデキてるんじゃないかって学校で噂になったんです。

――人気のパンが買えるだけで、そんな噂が流れたんですか(笑)。

大森 それって面白いじゃないですか。だから、「そうだよ」と言って、パン屋さんの彼女を演じ始めたんですよ。それがすごく楽しくなっちゃって(笑)。そういうところが昔からあって、人に与えてもらった自分を、どんどん自分の顔として張り付けていくのも嫌いじゃないんです。もちろん、そんなんじゃないのにと思うときもあります。でも、「そんなんじゃないのに」ごと遊んじゃう自分も嫌いじゃないみたいなところがあって、そういう感覚も、いろんな人と関わるからこそだなって。だから自分で生み出すことも大好きだけど、音楽によって出会った人との繋がりも大事にしたいと思っています。そういう人たちから、たくさんもらった顔があるなと思って、『PERSONA #1』というカバーアルバムを作りました。

――ということは、『PERSONA #1』の選曲の基準は、大森さんのパーソナルに近い部分が色濃く出た提供曲が中心ということでしょうか?

大森 おっしゃる通りで、自分が描けているなという作品が多いです。

――『PERSONA #1』はオリジナル曲も収録されていますが、提供曲のカバーの編曲は、すべて大久保薫さんが担当しています。

大森 大久保さんは仕事も早いし、自分のやりたいことや、音の幅もすごくあります。私自身、楽曲でやりたいことの幅がたくさんあるので、編曲はいろんな方とやるんですけど、早さや、いろんなことをやりたい気持ちがマッチするのが大久保さんなんです。大久保さんは、提供曲を歌ってくださる方とのやり取りもスムーズですしね。だから提供曲のときは、大久保さんがアレンジャーとしてアレンジしてくださることが多いんです。なので今回もセルフカバーした曲は、全部大久保さんと一緒にやりました。

――アレンジはどんな感じで進めていったんですか?

大森 原曲が大久保さんだった曲は、大久保さんがデータを持っているので、まずはそのデータに乗せて自分のボーカルを入れて、そこから私の声に対してアレンジしてくださるという感じでした。原曲が違う方のアレンジだった場合は、「この曲は私が歌うから、もうちょっとドロドロっとしたい」とか「テンポ感はもうちょっとゆっくりしたい」とかリクエストしました。

――具体的に音楽用語で指示するというよりは、イメージで伝えるということでしょうか?

大森 大久保さんにオーダーするときは、言葉のイメージで伝えることも多いですし、絵やファッションショーの写真などを送ることもあります。大久保さんは音楽的な素養が高く、知識もある方なので、具体的な言葉で説明すると、それを綺麗に生かしてくださるんです。逆にイメージで伝えた方が、イメージそのものを表現しようとしてくださるので訳の分からないものができたりするんです。そっちの方が私は好きなので、大久保さんには絵とか写真を送ることのほうが多いです。

「好きだから書けない」は絶対に言わない

――提供曲を書くときは、どのように作業を進めていくのでしょうか。

大森 まずはSNSやインターネットに上がっている記事などを読んで、歌ってくださる方のパーソナルを調べます。同時に、その人の熱心なファンの方のツイッターなども絶対にチェックします。イメージを裏切るにしても、裏切らないようにするにしても、その人に対してファンが抱くイメージが必要なんです。イメージを守って「これをやってあげる私を見て」という人と、あえてイメージを裏切って「こうじゃないのに」と思わせるのが好きな人と2パターンに分かれるので、それを捉えて、ファンの方がどこを楽しんでいるのかを見るんです。こういう「愛情の交換」が行われているんだという関係性を見ておかないと、そこに失礼があったら絶対に良くないので、それをチェックしてから曲を作ります。あと曲作りのときは、歌ってくださる方の声を頭の中で再生して作りますね。

――ファンの目線を大切にされているんですね。敬愛する道重さゆみさんに提供曲を書くときは、どんな感じだったのでしょうか?

大森 まず「好きだから書けない」は絶対に言わないぞというルールが自分の中にあって。好きだから萎縮するのは失礼じゃないですか。そういうときこそ100パーセントを出さなきゃいけないなと思って作ります。道重さんは私の欲望だったり妄想だったりを喜んでくれる変な人なんですよ。道重さんに提供した「OK!生きまくっちゃえ」という曲で、“歯医者帰りのチョコ ちょーっとカカト浮かして 体重計っちゃって 抜け駆け”という歌詞を書いたんです。要は、カカトを浮かすことで体重を軽くしてごまかすという悪いことをしてる自分みたいな内容なんですけど、その歌詞について道重さんから「誰にも言ったことがないのに知ってるから、覗かれてるのかと思いました」と言われたんです。

――道重さんにとって心当たりがある歌詞だったんですね。

大森 私は道重さんのファンだから、そういうタイプだなと勝手に分かっちゃったりするんですよ(笑)。そういうのを喜んでくれる変な人だから、そのぐらい踏み込んでいいんだなって、どんどん探っていくようになりました。そういう妄想もいっぱい書かせてくれる許容量が大きい人なので、こういう道重さんを見たいなって、いろんな種類の曲ができるんですよ。それが言葉でもできるし、音でもできるんです。もちろん道重さんの好みに寄せようとか、こういう曲はノリノリで踊れるだろうなとか考えて曲を書くときもあります。でも「こんな道重さんが見たい」という自分の欲望で書いたときの楽曲が、道重さんのファンに人気なので、やっぱりそういうことなのかなと思います。

――アイドルグループにも曲提供をされていますが、その場合はどういう風に曲作りを進めるのでしょうか?

大森 ゆるめるモ!さんのときは、曲を書く前にメンバーそれぞれからお話を伺いました。どういう状況でこのメンバーが集まったのか、どういう気持ちでグループをやっているのか、ずっとゆるめるモ!でやっていくのか、みたいなことを中心に聞かせてもらいました。そのうえで、全員が今ここにいるという運命線的なもの、運命とまではいかないまでも偶然ここにいて、ゆるめるモ!という枠組みがあって、そこで活動していることの意味を思って書いたのが「うんめー」です。

――「うんめー」を発表した2017年のゆるめるモ!は、結成からメンバーの変遷が何度もあって、4人体制で活動していた時期ですね。

大森 ゆるめるモ!さんが出てきた頃のライブアイドルシーンが面白かったんですよね。自分が音楽を始めた頃は、女の子が何かやりたいと思ったときにアイドルになるという選択肢はなかったんです。キラキラしたいという思いはあっても、何かやりたいという子はシンガーソングライターとか、違った活動だったと思うんですよね。今は何かやらかしたい子がアイドルをやる時代になっていて、そういう走りのライブアイドルがゆるめるモさん!だったんです。なので私もその世代だったら、ゆるめるモさん!みたいなことをしていたのかなと思って、すごく興味がありました。彼女たちの気持ちになって、ステージに立つのはどんな感覚なんだろうというのを考えて書いた楽曲が「うんめー」なんです。

「夢幻クライマックス」で作家として認められた感じがあった

――大好きなハロー!プロジェクトの新旧グループにも楽曲提供をされていますが、今回は「GIRL ZONE」 (雨ノ森 川海)と「夢幻クライマックス」 (℃-ute)をセルフカバーされました。

大森 雨ノ森 川海は、BEYOOOOONDSから生まれたユニットですが、BEYOOOOONDS自体が自由にいろんな音楽を楽しくやろうというグループで、攻めたことをたくさんしているんです。いつもだったらハロー!プロジェクトさんからは、大森靖子っぽさをなくしてくれという方向のオーダーをいただくんですけど、「GIRL ZONE」に関しては初めて「バッキバキに大森靖子節をください」と言われて。それだったら、自分の曲の「GIRL’S GIRL」の中学生バージョンみたいな曲を作ろうと思って、女の子の「ここが本当に認めてほしい乙女心なんだよね」みたいなところを書きました。

――「夢幻クライマックス」は後期℃-uteの代表曲としてファンに愛されています。

大森 この曲は完全に鈴木愛理さんのボーカルを生かせるような音の運び方で書きました。鈴木さんはなだらかに歌う方で、トゲを出したり、リズムを立てたりしないんです。なので音階を動かしたほうが上手さも引き立つし、自分の聴きたいものだなと。それで速くてメロディの動きまくる歌いにくい曲を鈴木愛理さんのボーカルで書こうと思いました。もともと℃-uteさんじゃなくて、同じく鈴木さんの所属するBuono!さん用にオファーをいただいて書いた曲なんですけど、℃-uteさんにいいんじゃないかというお話をいただいて。ちょうど℃-uteさんの解散が決まった時期で、そのために歌詞を書き直したのもあって、思い入れのある曲です。この曲を出したことによって、作家として認められた感じがあったんです。

――セールスとしても好成績を記録しましたしね。

大森 それまでは「ちょっと尖ったアーティスト」という見え方がすごく大きかったんです。その評価も嬉しかったんですけど、楽曲提供ができるようになりたい、プロデュースをやりたいというのがメジャーデビューしたときからの目標だったので、初めてそれが認められた感じがしましたし、転機になった曲です。

――約7年前、大森さんがメジャーデビューを発表した直後にインタビューさせていただいたときも、アイドルに楽曲提供をしていきたいと仰っていたのを覚えているのですが、どうしてですか?

大森 昔からアイドルさんは好きだったんですが、自分自身がアイドルになりたいと思ったことは一度もなくて、私は小室哲哉さんとつんく♂さんが憧れの人なので、そんな風になりたいなと思っていたんです。

――小室哲哉さんとつんく♂さんの、どういうところに憧れたのでしょうか?

大森 90年代前半は、「可愛いなんてダサい」みたいな風潮があったような記憶があって、かっこよくてアーティスト然とした方しか認められなかった時代だったと思うんです。でも小室さんのプロデュースした人たちは、可愛いままで輝いていて、それは音楽がかっこよかったのも大きかったんですよね。本当に偉大な方ですし、小室さんありがとうという気持ちです。つんく♂さんも、洋楽のリズムを歌えるボーカリストを育てたいという気持ちを持って、当時の若い世代の女の子をプロデュースしてくださったことって、すごく日本の音楽界においてポップスの素養になったと思います。そういった文脈的なことは後で気づいたんですけど、カラオケで歌って楽しいのは小室さんとつんく♂さんの曲で、歌ううちに自然と多くのことを学んで。それが楽曲提供をしたいという気持ちに繋がっていったんです。

大森靖子のアーティスト・クリエイターとしての幅をより知ることのできる『PERSONA#1』を堪能してほしい。

Information

大森靖子
初の提供曲セルフカバーアルバム
『PERSONA #1』
avex trax
2021年7月7日リリース

<通常盤>
価格:3,300円(税込)

1.PERSONA
2.GIRL ZONE (雨ノ森 川海)
3.瞬間最大me feat. の子(神聖かまってちゃん) (相坂優歌)
4.EIGAをみてよ (道重さゆみ)
5.WHO IS BABY (道重さゆみ)
6.14才のおしえて (ずんね)
7.LADY BABY BLUE (The Idol Formerly Known As LADYBABY)
8.うんめー (ゆるめるモ!)
9.°*。:° (*’∀`*) °:。* ぴかりんFUTURE °*。:° (*’∀`*) °:。*(椎名ひかり)
10.夢幻クライマックス feat. MIKEY(東京ゲゲゲイ) (℃-ute)
11.KILAi STAR LIGHT (道重さゆみ)
12.stolen worID
13.Rude

公式サイト

大森靖子

超歌手

愛媛県出身。美大在学中に音楽活動を開始し、2014年avex traxからメジャーデビュー。自身の音楽活動は元より、執筆・楽曲提供、プロデュースと活動は多岐にわたる。又、メンバーと共にステージに上がりながらプロデュースするグループ「ZOC」も2021年1月にavex traxからメジャーデビューし、全プロダクトにおいて精力的な活動を展開中。

Photographer:Yuta Kono,Interviewer:Takahiro Iguchi