「好きだから書けない」は絶対に言わない
――提供曲を書くときは、どのように作業を進めていくのでしょうか。
大森 まずはSNSやインターネットに上がっている記事などを読んで、歌ってくださる方のパーソナルを調べます。同時に、その人の熱心なファンの方のツイッターなども絶対にチェックします。イメージを裏切るにしても、裏切らないようにするにしても、その人に対してファンが抱くイメージが必要なんです。イメージを守って「これをやってあげる私を見て」という人と、あえてイメージを裏切って「こうじゃないのに」と思わせるのが好きな人と2パターンに分かれるので、それを捉えて、ファンの方がどこを楽しんでいるのかを見るんです。こういう「愛情の交換」が行われているんだという関係性を見ておかないと、そこに失礼があったら絶対に良くないので、それをチェックしてから曲を作ります。あと曲作りのときは、歌ってくださる方の声を頭の中で再生して作りますね。
――ファンの目線を大切にされているんですね。敬愛する道重さゆみさんに提供曲を書くときは、どんな感じだったのでしょうか?
大森 まず「好きだから書けない」は絶対に言わないぞというルールが自分の中にあって。好きだから萎縮するのは失礼じゃないですか。そういうときこそ100パーセントを出さなきゃいけないなと思って作ります。道重さんは私の欲望だったり妄想だったりを喜んでくれる変な人なんですよ。道重さんに提供した「OK!生きまくっちゃえ」という曲で、“歯医者帰りのチョコ ちょーっとカカト浮かして 体重計っちゃって 抜け駆け”という歌詞を書いたんです。要は、カカトを浮かすことで体重を軽くしてごまかすという悪いことをしてる自分みたいな内容なんですけど、その歌詞について道重さんから「誰にも言ったことがないのに知ってるから、覗かれてるのかと思いました」と言われたんです。
――道重さんにとって心当たりがある歌詞だったんですね。
大森 私は道重さんのファンだから、そういうタイプだなと勝手に分かっちゃったりするんですよ(笑)。そういうのを喜んでくれる変な人だから、そのぐらい踏み込んでいいんだなって、どんどん探っていくようになりました。そういう妄想もいっぱい書かせてくれる許容量が大きい人なので、こういう道重さんを見たいなって、いろんな種類の曲ができるんですよ。それが言葉でもできるし、音でもできるんです。もちろん道重さんの好みに寄せようとか、こういう曲はノリノリで踊れるだろうなとか考えて曲を書くときもあります。でも「こんな道重さんが見たい」という自分の欲望で書いたときの楽曲が、道重さんのファンに人気なので、やっぱりそういうことなのかなと思います。
――アイドルグループにも曲提供をされていますが、その場合はどういう風に曲作りを進めるのでしょうか?
大森 ゆるめるモ!さんのときは、曲を書く前にメンバーそれぞれからお話を伺いました。どういう状況でこのメンバーが集まったのか、どういう気持ちでグループをやっているのか、ずっとゆるめるモ!でやっていくのか、みたいなことを中心に聞かせてもらいました。そのうえで、全員が今ここにいるという運命線的なもの、運命とまではいかないまでも偶然ここにいて、ゆるめるモ!という枠組みがあって、そこで活動していることの意味を思って書いたのが「うんめー」です。
――「うんめー」を発表した2017年のゆるめるモ!は、結成からメンバーの変遷が何度もあって、4人体制で活動していた時期ですね。
大森 ゆるめるモ!さんが出てきた頃のライブアイドルシーンが面白かったんですよね。自分が音楽を始めた頃は、女の子が何かやりたいと思ったときにアイドルになるという選択肢はなかったんです。キラキラしたいという思いはあっても、何かやりたいという子はシンガーソングライターとか、違った活動だったと思うんですよね。今は何かやらかしたい子がアイドルをやる時代になっていて、そういう走りのライブアイドルがゆるめるモさん!だったんです。なので私もその世代だったら、ゆるめるモさん!みたいなことをしていたのかなと思って、すごく興味がありました。彼女たちの気持ちになって、ステージに立つのはどんな感覚なんだろうというのを考えて書いた楽曲が「うんめー」なんです。