Contents

アメリカ西海岸から始まったストリートカルチャー

そもそもBMXフリースタイルとはどんな競技なのか?スポーツとしての自転車競技には、すり鉢状の傾斜がついた会場で行われる「トラックレース」、一般道路で実施される「ロードレース」、未舗装の山道を疾走する「マウンテンバイク」などがある。これに対して「BMX」は、ブレーキも変速ギアもない頑丈な自転車で競われるスポーツだ。

「BMX」は大きく分けて2種類のカテゴリーが存在する。ひとつは起伏のあるコースで着順を競う「BMXレース」。もうひとつはテクニックを披露し、その難易度や独創性を競う「BMXフリースタイル」だ。さらにこの「BMXフリースタイル」は開催される場所によって「フラットランド」「パーク」「ストリート」などに分類される。BMXレースは2008年の北京オリンピックから、BMXフリースタイルのパーク競技は今年のオリンピックから正式種目となる。そして今回の「マイナビ Japan Cup」はBMXフリースタイルのフラットランドの大会として開催。

会場では競技中もDJブースのセレクターがクールなトラックを繋ぎ、MC2名が競技の実況を行う。初心者でもわかるように見どころを解説してくれ、ショッピングモールに集まった週末の買い物客も思わず足を止めていた。選手のファッションも個性的で、おしゃれなハットやダボっとしたパンツスタイルで見る者に大きなインパクトを与える。もともとBMXは1970年代初頭にアメリカ西海岸で子どもたちが始めたものとされているが、ストリートカルチャーのど真ん中にあるスポーツだ。

世界でもトップレベルの日本人選手たち

大会は「ガールズロー」「ボーイズ9アンダー」「ボーイズ10-12」「ガールズハイ」「男子13-15」「男子16オーバー」「ガールズハイ」「女子エリート」「男子エリート」と、それぞれクラスごとに進行。フィールド上の選手は自転車に乗るというより、曲芸のようなトリックを次々と決めていく。後輪タイヤの上に立ち上がったり、フィギュアスケートのようにクルクル回ったりと、イマジネーション豊かな技を披露するたびに会場からはどよめきが起こる。何の予識がなくても誰もが思わずすごい!と感じるパフォーマンスが繰り広げられる。

MC陣は「レベル的に世界大会と遜色がない」と何度も力説していたが、たしかにキッズたちのライドも見事で、層の厚さを感じさせるに内容だった。高度なテクニックの応酬で火花を散らす一方、相手選手が素晴らしいライドをしたときは惜しみなく拍手を送る姿も印象的。バチバチの勝負論とストリート発ならではのリスペクト精神。既存のスポーツにはない魅力がある。

8クラスの中で最高レベルにあたる「エリート」は最後に行われた。今回、「女子エリート」は参加者が1名だけだったため、自動的に中川きらら選手が初優勝を獲得。佐賀県に住む高校1年生は、ガールズハイクラスの選手たちに混じってダイナミックなライドを披露してくれた。「1位になれたことはうれしいけど、次の大会では日本のトップにいる他の上手いガールズライダーたちと戦いたい」と話す。

三つ巴の頂上決戦

最後に開催されたのが、2日間のメインイベントともいえる「男子エリート」。すでに競技を終えた選手たちもコートに熱視線を送っている。本番の3分間のライディング前には「パトックタイム」と呼ばれる練習時間が設けられているのだが、ここではコートの状態を確認するほかに、観客へのアピールや、ライバル選手への精神的揺さぶりも重要となってくる。否が応でも会場の緊張感は高まる。

決勝に進出した8名は実力者ばかりだが、中でも注目すべき選手は3名。前回のJapan Cup優勝者である伊藤真人選手。驚異的なスピードと正確性で注目される早川起生選手。この競技の第一人者であり、2021年世界選手権2位を獲得した佐々木元選手。30歳のディフェンディングチャンピオンか、19歳のニューカマーか、36歳の絶対的エースか。予選通過順位では伊藤選手が5位、早川選手が2位、佐々木選手が1位となっていた。

3選手の中で最初に登場した伊藤選手は、抜群のスピードと高難易度のトリックを滑らかに決める技量で貫録を見せつける。緩急をつけた技の組み立ても申し分ない。芸術性の高いライドは唯一無二だ。

一方、リアトリックで信じられないようなスピンをいきなり決めた早川選手には「これはヤバい!」「人体改造しているんじゃないですか?」とMC2人も唖然とした様子。その後もノーミスのまま、最後までアグレッシブなルーティンを連発していく。人間業とは思えない動きの数々に会場からはため息も漏れるほどだった。

あまりにも完璧な早川選手の次にライディングすることになった佐々木選手は、「少し考える時間をください」と神妙な表情を見せる。しかし勝負が始まってしまえば自身の名前がついた「元スピン」をはじめ、世界レベルのテクニックを惜しみなく披露。

全選手がライドし終えると、ジャッジ4人が白熱した議論を重ねている様子が見え隠れする。スコアは本当に僅差のようで、いつも以上に結果発表に時間がかかり、自然と会場の緊張感も高まっていく。

結果は3位が伊藤選手、2位に佐々木選手、そして1位に輝いたのは早川選手。表彰台に立った佐々木選手は「公式競技では、通常みんなミスのない演技を心がけるもの。だけど、早川選手は新技を出すなど“攻めたライド”を披露しました。そんな彼の様子を見て、正直、“守って2位を目指そうか”という考えも頭をよぎりましたが、それではやはり男が廃る。全力を出し切って勝負に出ることにしました。結果的には2位になりましたが、やり切ったことで今は清々しい気持ちです」と万感の想いでマイクする。

▲左から佐々木選手、早川選手、伊藤選手

一方、優勝した早川起生選手は 「もともとプレッシャーに弱いことに加えて、コロナ影響もあったし、一緒の大会に出場している弟たちも先に表彰台に上がっていたので……本当によかった」と安堵の表情でコメント。「これからも今回以上に攻めたライディングをして、もっともっと見ている人が面白いと感じるような選手になりたい」と改めて決意のほどを激白。フロアの3階まで埋まったオーディエンスから惜しみない拍手が若き新チャンピオンに送られた。

この日、早川選手によってBMXフラットランドの歴史が塗り替えられたのは間違いない。優勝が告げられた瞬間、はにかむような笑顔を見せる早川選手に対して佐々木選手と伊藤選手は「おめでとう」と握手を求めた。

新王者・早川起生選手が語る「自分を信じることの大切さ」

大会終了後、多くの関係者から祝福されていた早川起生選手にコメントをいただいた。

──優勝、おめでとうございます!今の率直なお気持ちは?

早川 本当に言葉が出ないくらいうれしいです。これまで表彰台には上がれるものの1位には届かないという状態が続いていて……。今回は自分の力をすべて出し切れたうえでの優勝だったので、そういう意味でも感無量ですね。

──勝因はどういう点にあったと分析されていますか?

早川 ライディングする中、ミスしそうになる場面は何度かあったんです。そこで持ちこたえることができたのは、見てくださるお客さんの応援があったからこそ。会場の雰囲気に助けられた部分は大きかった気がします。

──この『W online』は早川選手と同様に若い読者も多く読んでいます。夢を見ている若者にメッセージをお願いします。

早川 僕のライディングは「他人がやっていないことをやる」「みんなが想像しなかったようなことをやる」というスタイル。つまり前例がない道を進むことになるので、成功するか精神的にもすごく不安になるし、周囲からもいろんな声が聞こえてくるわけです。だけど最後はやっぱり自分を信じるしかない。ときにはどうしようもなく落ち込むこともあるけど、それでも自分の一番の味方は自分なので。僕自身も自分を信じ続けて頑張りたいですし、これを読んでいる方も自分の可能性を信じてほしいなと思うんです。その気持ちが最大の武器になるはずですから。

マイナビ JapanCup(BMX フラットランド)
日程:2021年7月3日、4日
会場:イオンレイクタウンmori 木の広場
主催:一般社団法人 全日本フリースタイル BMX 連盟(JFBF)

公式サイト