心霊スポットの生配信は自分の記録を残したい気持ちでやっている
――最新刊『死る旅』は、各地の心霊スポットの歴史を深堀しつつ、タニシさんの本音を織り交ぜていく新鮮なスタイルですね。
松原 依頼をいただいて書き始めたものの、正直なことを書かないと、今後も書き続けていくことがしんどくなってしまうと思ったんです。僕が心霊スポットに恐怖を感じなくなっていることや、少し飽きつつあることを言ってはいけない空気があるのは逆になんでだろうと。そもそも、心霊スポットや幽霊は「怖い」ものだということに囚われ過ぎている気がしたんです。
――本書にも「恐怖に慣れてしまった」という記述がありました。
松原 もちろん心霊スポット巡りを始めたばかりの頃は、恐怖心もあったんですよ。暗い場所は怖いし、一般的に怖いとされているものは当然怖いのだろうという先入観もありました。
――タニシさんが注目を浴びるキッカケとなった『北野誠のおまえら行くな。』(エンタメ~テレ)では実際に事故物件に住んで、起こったことをありのままに伝える企画でしたが、事故物件に住むということに対してはどう思いましたか?
松原 事故物件に住むことによって、自分にも何か障りがあるかもしれないという恐れはありましたけど、そんなに抵抗はなかったんですよね。僕は「事故物件住みます芸人」と呼ばれるようになるまでに、演劇をかじったりバンドを組もうとしたり色々とやってきたので、もう自分が何になっても良いと思っていました。何か一つのことを成し遂げたいという想いがあったので、それが事故物件というテーマでもすんなり受け入れることができたんです。
――事故物件に住むことは、仕事という側面以外にも面白さを感じましたか?
松原 事故物件というジャンルを開拓している感覚が面白かったです。自分が事故物件に住んで体験したことを、他の何とも比べられずに世に出せる。他に誰もやっていないことをやるのは刺激的でした。
――『事故物件怪談 恐い間取り』シリーズのヒットや映画化にともなって、「観察する側からされる側になった」ことで、仕事や生活スタイルにも変化があったのではないでしょうか?
松原 SNSが発達している時代だからこそ、ミスはできないな、という想いが強くなりました。いつ誰に見られているかわからないですからね。例えば今までの僕は、家で鼻をかんだティッシュをゴミ箱に投げて、それが入らなくてもほったらかしにしていました。だけど、そういうことすらも気をつけないといけないんだという意識が芽生えました(笑)。
――取材や配信を行う上でも気をつけることがたくさんありそうですね。
松原 心霊スポットの生配信では、人に迷惑をかけないということを今まで以上に心掛けるようになりました。まず人の顔を映さない、法に触れない。地名を明かしているスポット以外では場所を特定されないようにする。叩かれる要素をいかに減らすかが重要になってきます。
――実際に配信がきっかけで叩かれるような経験はあったんですか?
松原 僕はもともと気をつけているほうだったので、配信でのトラブルはほとんどありません。唯一、配信中に「どうしてそこに幽霊がいるのに映さないんだ」というコメントを無視し続けていたらすごく怒られたことはあります。幽霊がいると言われても、僕には見えていないからわからないじゃないですか(笑)。
――たくさんいる視聴者の意見を聞くのは難しいですよね。
松原 個人的に、配信の視聴者は100人ぐらいのときが一番良い雰囲気だと思っています。いつも不思議なんですが、200人を超えると、なぜか盛り上がっている配信の妨害をしようとする人が現れます。「こんなのはどうせ嘘だ」みたいなコメントが増え始める。盛り上がっているのが許せない、という人もいるんだと思います。
――タニシさんの心霊スポット配信は、派手なことをせずに淡々と行っている印象です。
松原 注目を浴びたいというよりは、自分の記録を残したいという気持ちでやっていますからね。