声優は自分のやりたいことが詰まっている仕事

——大学進学ではなく、声優一本でやっていこうと思ったときに決め手になったのはどんなことですか?

岡咲 高校3年生から、日本ナレーション演技研究所という学校に通っていました。部活もあって忙しい中ではありましたが、学校が終わってから神戸までレッスンを受けに通っていました。その過程で事務所のオーディションを受けて、高校を卒業する頃には、自分が今所属しているアイムエンタープライズで、声優として活動できるチャンスをいただいたので、これは専念するべきだと思いました。大学とお仕事を両立できる方もいらっしゃると思うのですが、当時たくさん考えた結果、私は1本でやる方が自分に合っているのかなと思って決断しました。

——中学生の頃に抱いた声優になりたいという夢がブレなかったのもすごいことですね。

岡咲 確かにそうですね。でも、声優という夢に出会うまでは、パティシエのアニメを見たらパティシエになりたくなったり、いろんなものに影響を受けやすい子供でした。そんな中見つけた声優という職業は、演じる上でいろんな職業にもキャラクターにもなれて、時にはキャラクターとして大好きな歌を歌うこともできる。それに加えて、キャラクターとして歌うという活動もできる。自分のやりたいことが詰まっているお仕事だなと思い感動しました。そこからは夢はブレなかったですね!

——実際に声優になって、どんな驚きがありましたか?

岡咲 声優になって1年目に、アフレコでご一緒した先輩方の演技を聞いて、自分のお芝居との違いに衝撃を受けました。 それまで私は独学の時間が長かったのもあり、自分の役の台詞からの景色しか考えられていなかったんです。でも、先輩方は掛け合いをする中で、この方がこういうお芝居をするから、それを受けてこのキャラクターを表現しようというふうに、柔軟にお芝居を変えることができるんです。それに対して私は自分の世界だけで完結してしまっていて、アフレコが自分にとっての発表会みたいな場になっていました。そのため現場でディレクションをしていただいても、それに従って路線を変更するのに苦労しました。空気感を一瞬でつかまれている先輩方を見て、勉強になりましたし、実際に現場に立たないと分からないこともたくさんあることを学びました。

——そういうことに対応できるようになったのはいつ頃ですか?

岡咲 『転スラ(転生したらスライムだった件)』という作品で主人公のリムル役をいただいてから、自分のお芝居は大きく変わりました。とにかくたくさん喋る子なんです。その分いろんなキャラクターとの絡みも多く、先輩方のお芝居もすごく近い距離で感じられて、休憩時間にも会話の中心に入れていただいて、いろんなお話をさせていただく機会も多かったので、経験を積むことができました。現場作りの一環でアフレコの表現も変わっていくのが心に染みたというか、大事なものとして胸に刻みました。

——声優をめざす上で大切なことは何だと思いますか?

岡咲 一番大切なのは「好きな気持ち」です。技術を身につけるのは根気がいることで、独学の時間はどうしても必要になってきます。すぐに実力には繋がらないこともあり、無駄だったなと思うことがあるかもしれないですけど、そこに費やした時間は無駄にならないと思うんです。くじけそうになったり、辛い気持ちになったりしても、夢に向かって費やした時間は絶対に嘘をつかないんですよね。演技の学校などで、先生から教わったことで成長できることも多いと思います。でも、それを自分の中に落とし込んで、いかに一人の時間をそこに費やせるか、それを普段から意識して忘れずにいられるかというのは結構なエネルギーを要することですし、声優を目指す上でも必要不可欠です。

——一人の時間を独学に費やすのは孤独な闘いですよね。

岡咲 私もそうでしたけど学生時代は多感で、いろんな将来の道が見える時期でもあります。その中で自分が好きなこと、やっぱりここに行きたいという気持ちの大きさが、最後の決め手になりました。どれだけ好きでいられるか、そして、その好きって気持ちをどれだけ新鮮なまま維持できるかというのは、声優という職業に限らず、他の道でもそうだと思うので大事にしていただきたいです。

——最後に、進路に悩む読者にメッセージをお願いします。

岡咲 自分を振り返ってみても、高校時代は周りのことが気になる敏感で繊細な時期だと思います。自分がどういう人間なんだろうとか難しく考えなくてもいいので、改めて自分が好きなこと、得意なこと、何が結局やりたいかという自分の心の声に耳を傾けてほしいです。難しいとは思うんですけど、自分が進む道というものは、だんだんと固めていけたら納得できるはずです。私自身、声優としても、アーティストとしてもこれからなので、場所は違えど一緒に上を向いて頑張っていきましょう!

Information

岡咲美保デビューシングル
『ハピネス』
2021.9.15 Releace!
価格:1,980円(税込)(CD+Blu-ray盤) 1,430円(税込)(通常盤)
レーベル:キングレコー ド

1. ハピネス
2. Popping Moments
3. MY SPIRAL

Blu-ray(初回限定盤のみ)
・「ハピネス」MUSIC VIDEO
・MAKING

岡咲美保(おかさき・みほ)

声優

11月22日生まれ。岡山県出身。日本ナレーション演技研究所卒業後、2017年に声優デビュー。2018年10月に始まった『転生したらスライムだった件』で初主役を演じる。2020年、「第14回声優アワード」新人女優賞受賞。ラジオパーソナリティーやバラエティのナレーションなど幅広く活躍している。主な出演作に『音楽少女』(西尾未来)、『ロード・エルメロイII世の事件簿』(イヴェット・L・レーマン)、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(メアリ・ハント)、『ゾゾゾ・ゾンビーくん』(イサム)、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(鹿野琴美)、『あひるの空』(富永春美)、『鬼滅の刃』(てる子)、『炎炎の消防隊二ノ章』(サキ)など。

Photographer:Yuta Kono,Interviewer:Takahiro Iguchi