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初主演の映画撮影は怖いもの知らずで臨めた

——大森歩監督・脚本の映画『春』は2018年の作品で古川さんにとって映画初主演作です。主演に抜擢されたときはどのような気持ちでしたか?

古川 嬉しいというか、喜んでいたと思うんですけど、仕事を始めたばっかりだったので、主演ってどういうことなのかまったく分かっていませんでした。なので、いい意味で怖いもの知らずで臨めました。あとは周りの人に追いつくのに一生懸命でした。

——中学・高校と演劇部に所属されていたとのことですが、当時から主役を演じることはあったんですか?

古川 何回かあります。

——その経験は『春』の演技でも活きたのでしょうか?

古川 多少は経験が活きた部分もあると思うんですが、舞台だとスタートした時間軸はそのまま終わりまで流れていきます。でも映像だと必ずしも順番に撮れるわけではないので、ちゃんと自分が切り取って撮られたものがつながっているんだろうかという不安は、当時すごくありました。

——脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?

古川 祖父母は北海道に住んでいて、距離が離れていたんです。だから『春』みたいに、おじいちゃんと一緒に暮らすという経験はなかったです。おじいちゃんが認知症で精神年齢が下がったり、一方で私自身の精神年齢は上がっていって交差したり、そういったこともなかったので、分からないことがたくさんありました。でも大森監督が、自分の思い出とかおじいさんとの話を丁寧にしてくださったおかげで、私もその部分を大切に演じようと思いました。

——『春』は大森監督自身の実体験がもとになっている映画ですが、演出方法はどのような感じでしたか?

古川 私が演じたアミは、大森監督の分身でもあるんですが、だからといって監督のキャラクターに寄せる演出などはなかったです。アミというキャラクターに関しては、本当に自由に任せていただいたので、演技で「こうしてほしい」といったようなことはなかったです。ただ、ちょっとした感情の出し具合とかで、演技そのものへの指示ではなく、「おじいさんとはこういう思い出があった」とか、「このシーンでは私はこういうふうに考えている」など、お話を共有してくださいました。

——大森監督自身の経験や思いを具体的に伝えてくださったんですね。

古川 そうです。色々なお話を聞くことによって自然と感情が湧いてきました。もしかしたらそれが大森監督の演出方法なのかもしれません。

——全体的に言葉で説明される部分が少ない映画ですが、演じる上での難しいところはありましたか?

古川 周りの方々や環境が整っていたので、そこに集中すれば自然に湧き上がるものがあったので、それに素直に反応していればいいんだろうなと思いました。だから特に大変とは感じなかったです。

大学時代のプレゼンで苦い経験をした思い出

——撮影当時、古川さん自身もアミと同じ大学生でした。現役大学生であることが、演じる上でプラスになった部分はありますか?

古川 私は就活をする前にこの仕事を始めたので、就活に対する不安とか、周りの状況などはよく分からなかったんです。だからアミが今ぶつかっている壁というのは共感しづらいかなと不安でした。ですが、自分が好きなもので将来に進んでいこうとするところには共通するところがありました。それって自分に対する責任がすごく重いし、勇気がいることだと思います。その点に関する怖さや葛藤には共感しました。

——アミの描いた広告を講評するシーンでは、先生に酷評される様が生々しくて学生時代を思い出しました。

古川 やっぱり自分がいいと思っているものとか、自分が表現されたものが否定されるってすごく怖いですよね。自分が「こう思ってるんだ」と説明したことに対して、周りがどう思うかっていうことも怖いので、怖いこと尽くしというのを演じながら感じていました。

——実際に大学でそういう経験はありましたか?

古川 似たような経験がありました。具体的には恥ずかしくて言えないですが(笑)。少人数のクラスでプレゼンしたことがあったんです。私自身、自信がなかったというか、迷った状態でプレゼンしたので、「これに対してどう思っているの?」って問い詰められて……。自分が言いたいことと周りが思っていることがずれていて、私が本当に言いたいとこはそこじゃないけど、そこに着地できていない、という苦い経験でした。

——その後、自分の思いを言語化することは上手になりましたか?

古川 こういうインタビューとか、考えていることを言葉にする機会も増えたので、だんだんできるようになってはきたんですけど、まだ苦手意識はあります。

——『春』は数々の映画祭でグランプリを受賞して、古川さんも「TAMA NEW WAVE」 ベスト女優賞を受賞されました。それによって意識は変わりましたか?

古川 自分の作品を客観的に見られる状況ではなかったので、作品が完成した後も「本当にこれでよかったんだろうか」などと考えていました。でも、いろんな賞を受賞したと聞いてびっくりしました。改めて大森監督や周りの方々に支えられていたなと思いました。

役を終えるごとにステップアップしている実感がある

——中学・高校で演劇部に入ったきっかけを教えてください。

古川 小学校のときにバレエをやっていたときの舞台経験が大きくて、とにかく人前に出ることが好きになったんです。中学に上がって部活を探すときに、やっぱり似たような体験ができるものを自然と探し始めて、今までお芝居をやったことがなかったし、興味もあったので演劇部に入部しました。

——当時は将来、役者になると思っていましたか?

古川 考えてなかったですね。中・高の演劇部の顧問の先生がお芝居好きな方で、野田秀樹さんや別役実さんなど、難解な演劇もやらせていただいたんです。それがすごく難しかったのと、当時私は、お芝居には正解があるものだと思い込んでいました。だから、その「正解」ができない自分は本当に向いてないなってずっと感じていたんです。

——大学でも演劇を続けたんですよね。

古川 自分で意識的に「演劇をやろう」と思ったというよりも、無意識の中で好きだったんでしょうね。だから学科も面白そうだなという感覚で選びました。演劇は、もう向いてないからやめようって思っていたのに、大学で演劇サークルを選んだのは、たまたま仲良くなった先輩がそのサークルにいたからなんです。演劇がどうこうよりも、その先輩と遊びたいっていう気持ちが強かったですね(笑)。

——大学で演劇に対するスタンスは変わりましたか?

古川 変わるはずだったんですけど、中・高よりも大学のサークルのほうが厳しくて。わりとガチでお芝居をしているサークルだったんです。大学の授業に出ている暇があるなら、サークルでやる台本を読み込め、っていう空気で。先輩も厳しかったですし、そういった意味ではスタンスも変わりましたね。

——大学での演劇経験で、今に活きている部分はありますか?

古川 たくさんあります。中・高時代は親とか友達がお客さんで、身内だけでお芝居をしていました。大学になってからは、一般のお客さんが来る舞台に立たせてもらえたので、その経験は大きかったです。また大学では英語劇も演じていたんですが、日本語とは違う言語でどうやって感情を表現するのか。英語の分からない日本人のお客さんに、どうやってそのお芝居を伝えるのかという工夫もいろいろしていました。言語に頼らないお芝居ができたことはすごく勉強になったし、今につながっていると思います。

——仕事として役者を意識し始めたのはいつ頃ですか?

古川 サークルが終わって、就活のタイミングで何をしようかと考えた大学3年の終わりくらいです。長く続けてこられたものがお芝居くらいしかなかったので、一度、プロの世界にチャレンジしてみたい、それをしてから就活しようと思ったんです。今の時代はプロもアマもないですけどね。だから流れに乗ってという感じです。

——しばらくは大学のサークルの延長のような感じということでしょうか。

古川 そうですね。何もわからなかったので、仕事でやっていくという決心はまだできていなかったです。だから周りは有名な人ばかりで、どうしよう……みたいな状況でした。

——明確に役者を仕事にしようと思ったのはいつ頃ですか?

古川 本当に最近になってからです。作品を一つ終えるごとに、どれだけたくさんの人が見てくれるのか、その作品が持つテーマやメッセージをちゃんと考え始めるようになっていったんです。自分に任せてもらう意味がちゃんとあるんだと感じてからは、より真剣に取り組むようになりました。

——話題作への出演が続いていますし、注目度も上がっています。

古川 そうですね。今年は本当にいろんな話題作に出させていただいたし、物語のキーとなるような役を任せていただく機会が増えました。役を終えるごとにステップアップしている実感があるので、その実感を持ちながら仕事をできるというのは充実していて、楽しいしやりがいがあります。

——今、『春』を改めて見直してみていかがですか?

古川 見る前は、もっと目を覆いたくなるようなものになっているんじゃないかって自信がなかったんですが、いざ観てみると、意外とお芝居が作品に馴染んでいて、少しほっとしました。まだまだ粗い部分ばかりですが、等身大の自分が感じたものを大切にしようとする部分は今も変わらないですし、そこは当時からあったんだなと安心しました。

——改めて進路に悩んでいるティーンに向けて『春』の見どころを紹介してください。

古川 高校生の皆さんは、自分がどういう仕事をするかという意味でも、いろんな可能性に溢れていると思います。でも、自分で決めなければいけない、さらにそこから先の道を進まなければいけないというときに出てくる迷いみたいなものを体現しているのが、私が演じているアミだと思います。高校生のみなさんにどう感じていただけるのか私も興味深いので、ぜひ観ていただきたいです。

Information

『春』
10月1日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
※大森歩監督の新作『リッちゃん、健ちゃんの夏。』と同時上映。

[キャスト] 古川琴音 花王おさむ 加藤才紀子 西智子  伊勢田世山 松山茂雄
[スタッフ] 監督・脚本:大森歩 プロデューサー:穴久保亮、谷内恒太 アソシエイトプロデューサー:伊藤太一  制作進行:松重涼子
撮影:安藤広樹 照明:重黒木誠 助監督:長田亮 美術:佐藤彩 編集:対馬天伸 MA:吉川貴人
製作:AOI Pro.×第8回きりゅう映画祭制作作品
配給:アルミード
©AOI Pro. 2018

祖父(花王おさむ)の家に居候して二人暮らしをしている、美大生のアミ(古川琴音)。いつも満州に行ったことを自慢気に話す祖父を、「衛生兵だったんでしょ。私も戦争したよ、受験戦争」と馬鹿にするアミは、翌年に就活を控えている。アニメオタクの同級生・橋本(加藤才紀子)が我が道を行く一方、アミは、自分の描きたいものを描くのではない”広告”の課題に苦戦し、自信を喪失していく。同時に家では、どんどんボケていく祖父にイライラが募り、アミはとうとうキレてしまうが、ある日、初めて聞く祖父の話に気持ちが動き……。

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古川琴音(ふるかわ・ことね)

女優

1996年10月25日生まれ。 神奈川県出身。主な出演作にドラマ「エール」(20/NHK)、「この恋あたためますか」(20/TBS)、「コントが始まる」(21/日本テレビ)。映画『十二人の死にたい子どもたち』(19/監督:堤幸彦)、『泣く子はいねぇが』(20/監督:佐藤快磨)、『街の上で』(21/監督:今泉力哉)、『花束みたいな恋をした』(21/監督:土井裕泰)、など。待機作に、映画『偶然と想像』(監督:濱口竜介)などがある。

Photographer:Toshimasa Takeda,Interviewer:Takahiro Iguchi, Stylist:Nobuko Itoh, Hair&Make:Yuko Aika(W)
衣装協力
AKANE UTSUNOMIYA
ドレス ¥63,800(税込),ブーツ ¥90,200(税込)
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イヤーカフ (スタイリスト私物)