大学時代から自分のやりたいことが見つかっている人は少ない

――作品のお話を聞く前に、映画『春』は大森監督の実体験が盛り込まれているとのことで、映画を撮るまでのキャリアをお聞きします。いつ頃から映像制作に興味を持ったのでしょうか?

大森 高校生の頃から、アートアニメや映画が好きだったので、将来は映像をやりたいなと漠然と思っていました。大学は多摩美(多摩美術大学)のグラフィックデザイン科に在籍していて、その頃はアニメーションの監督を目指していたんです。ただ就活のときに、アニメーション会社に落ちまくってしまって。そのほかにテレビ局なんかも受けたんですけど、内定したのがCM制作会社だけでした(笑)。その後、今のAOI Pro.に入って、CM監督をやっています。

――なぜ多摩美を進学先に選んだのでしょうか?

大森 多摩美のグラフィックデザイン科にはアニメーションコースという表現コースがあって、私の少し前の世代になりますが、『つみきのいえ』(08)の加藤久仁生監督や、作家でアニメも手掛けている近藤聡乃さんなど、アニメーション監督をたくさん輩出していました。だからアートアニメをやるなら多摩美のグラフィックデザインだなと思って受験しました。あと多摩美出身のゆらゆら帝国とラーメンズの大ファンだったっていうミーハーな理由もあって、絶対に行くぞ!と思っていました。

――受験勉強はいかがでしたか?

大森 多摩美には一浪して入りました。現役の頃は絵の勉強もそんなにしていなかったので全然ダメだったんですけど、もともと絵が得意だったので、そこまでハードルは高くなかったです。でも行ったら行ったで、みんなめちゃくちゃ絵が上手い。それにデザインや広告をやりたいっていう人がほとんどという学科だったので、私みたいにアニメーションをやりたいとか、イラストレーターや作家になりたいっていう人はわりとマイノリティーでした。教授たちも、広告界の大御所の方々が揃っていましたし、ちょっとおいてきぼりをくらっていた感じです。私は広告の授業をまったく取らずに、表現コースでイラストや絵ばかり描いていたので、CMを職業としている今となっては、大学の時にちゃんと広告の授業を受けておけばよかったという後悔もあります。

――『春』には美大生の主人公アミが広告の課題で厳しく講評されるシーンがありますが、これは実体験ですか?

大森 そうですね。実際に私が経験した講評はもっとシビアでした。ちゃんと考えて作ってないと、厳しい教授だと作品を投げたりする事もあったらしいです。パワハラではなくて、多摩グラは職人の世界というか、アートディレクターを育成する職業訓練学科なので、生徒も教授も全員が真剣なんです。意気込みや努力を中途半端にしない、そういう空気が好きでした。実際、社会人になってからも面白くない企画案は、さっと払いよけられたりするので、それぐらいの免疫をつけておけよ、というメッセージかなと思っています。

――在学中はアニメを作ることが多かったんですか?

大森 ほぼアニメしか作っていなかったです。古いアニメが好きなので、ベティ・ブープや初期のディズニー作品の真似をしていました。

――主人公のアミは将来、何をしていいか分からず悩んでいますが、大森監督はいかがでしたか?

大森 アミと同じでした。大学生の頃から自分のやりたいことが見つかっている人って本当に少ないと思います。『春』には橋本さんというアニメーター志望の女の子が出てきますが、橋本さんみたいな子の方が珍しいです。自分は何をやりたいか分からないけど、でも表現はしたいっていう不安を抱えたまま、就活をしながら自分の道を探していく人が多いと思います。

――橋本さんのように、夢に向かって我が道を行くという人は珍しいんですね。

大森 そういう人はすごいなって尊敬します。実際、私の友達でも就活をせずに、バイトをしながら作家になった人がいますが、やっぱり将来の不安ってすごくあるじゃないですか。自分が大成するかわからないし、お金の面の苦労もいろいろある。でも、その人は今や作家として活躍していますし、強いなと思います。