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歩の年表を埋めたり衣装を着て生活することで余白をひとつひとつ埋めていった

――今作に参加されたきっかけを教えてください。

藤原 僕がW主演を務めた短編映画『中村屋酒店の兄弟』(20)が、「東京学生映画祭」というコンテストでグランプリをいただいたんですが、そのときの審査員が三島有紀子監督で、そこでご挨拶させて頂いたことがありました。いつか三島監督の作品に出演したいと思っていたので、この作品のお話をいただいたときはうれしかったですね。

――実際に作品をご覧になって、いかがでしたか?

藤原 この作品は世界の片隅で誰にも知られず生きている人たちが出会う物語だなと思っています。その人たちを取り巻く環境は閉塞しているけど、こういった状況を出会いという物語で打ち倒すんだという気概というか、気持ちにあふれた映画になっていて。現実を厳しく見つめながらも、物語にロマンを持っている三島監督だからこそ撮れた作品だと思いました。他の『DIVOC-12』の作品とはいい意味で全然似ていなくて、この作品に出演できて本当に幸せです。

――短編だけに余白が多く、説明されない部分も多かったと思います。

藤原 台本から読み取れることは本当に少なかったです。三島さんと初めて打ち合わせをしたときに、主人公の歩という人物に何があったのかが書かれた年表みたいなものをもらって、「どんどん自分で埋めていっていいから」と言われて。衣装が決まってからは普段から歩の衣装を着て生活させてもらって、歩という人物を自分の中に馴染ませていきました。最初に本を読んだ段階では余白の部分が多くて、「なぜこのセリフになってるんだろう」と簡単には結びつかなかったので、三島さんと相談しながら一つ一つ埋めていった感じです。

――それを演技で伝える難しさはありましたか?

藤原 画面の向こう側にどう届けるかというのは、監督や見てくださるお客さんにゆだねた部分は大きいです。自分自身がリアリティーを感じ、それを信じることが大切だと思いました。一つ一つ、目に見えないものを埋めていくことでようやく信じる気持ちが強くなっていくというか。自分の中でそういうものが弱いと、自分の存在は正解なのだろうかみたいな気持ちになって、立っているだけで不安になるような気がします。それを埋めていくことで初めて、現場に立っても怖くなくなるのかなと思っています。

――改めて三島監督の印象をお聞かせください。

藤原 現場でも、われ先に行くというか、誰よりも率先して傷つきにいく姿を見せてくださいます。三島さんが撮った『ぶどうのなみだ』(14)という映画は、大泉洋さん演じるアオがもがき苦しみながらやっと一本のワインを誕生させるという物語なんですけど、その主人公を地で体現している監督というか。10分の映画を撮るためにここまで魂を削っているんだなというのを間近で見せて頂きましたね。感受性が豊かな方ってたくさんいらっしゃると思うんですけど、三島さんは感受性がせき止められずにあふれ出ちゃっている感じです。

――共演した富司純子さんに対する印象を教えてください。

藤原 去年の緊急事態宣言中に、家でずっと高倉健さんの映画を見ていたんです。その中で富司さんが主演を務められている作品もあって、「この女優さん素晴らしいな」と思っていた矢先のことだったので、体が震えました。そんな伝説の方とご一緒できるんだ、と思って。でも実際にお会いするとすごく優しい方でした。完成した映画を見たときに一番驚いたのは、富司さんがあまりに軽やかに演じられていたことです。懸命さやひたむきさという分かりやすいことはさておき、もっともっとリアリティーを持って生活されていて。必死に生きていて、辛くて辛くてという人が何かを変えようとする映画じゃなくて、たくましく生きているけど「焼肉食べたい、ハーゲンダッツ食べたい」と思ったときに、人生を変えようとするっていうのはこの作品っぽいなと思いました。

一つの作品を通過するたびに大切な出会いが増えている

――富司さん演じる冬海さんと出会ったことで、歩が生き生きしてきたように思えました。

藤原 お金だとか目に見えるもの……、そういうものでしか大切なことを語れなくなっちゃっていたんだろうなと思います。僕もこの1年間でそうなってしまいそうだったんですけど、そのたびにこういう作品が人間らしいところに引き戻してくれている感じがしました。だから多分、歩にとっては冬海さんがまさにそういう存在だったのかな。大切なものはそれだけじゃないんだよと、心というものを取り戻すきっかけになったんだと思います。

――出演が発表されたときに、「この作品のことを思い出そうとすると頭が真っ白になります」とコメントされていたのも印象的です。

藤原 この作品のタイトルが入る場面を撮ったときに、余計なことは何も考えられなくなりました。自分自身がこの物語にすごく救われているんだなと思ったんです。それまで悶々とした生活を送っていて、携帯とかテレビから入ってくるいろいろな情報に自分自身が踊らされて、アタフタして暮らしていたんです。でも、あの海に立った瞬間だけは冬海さんの姿しか見えなかったので、そこに向かって駆け出していくときは、開放感に満ち溢れていました。三島さんが泥だらけになりながらそういう環境を与えてくださって、本当に頭が真っ白になるような感覚でしたね。たった2日間の撮影であそこまでひとつの役に入れ込んだことは初めてかもしれないですし、仮に撮影期間の長い作品であっても、現場に入る前に10日間役として生活するというのはやったことがなかったので、不思議な体験でした。この作品に自分自身が何かを懸けて臨んでいたな、と思います。

――『よろこびのうた』が伝えたいテーマは何だと思いますか?

藤原 言葉にするとちょっと簡単に聞こえてしまうかもしれないんですけど、不安や喜びを分かち合うということ。生きていると、一緒にいることでより悲しくなったりとか、よりうれしくなったりすることもありますよね。この人と出会わなければこんな苦しい思いをせずに済んだのにと思いつつ、この人と過ごしたから自分は豊かさを知ることができたなという。豊かさを知るのは痛みを伴うことだと思うんですけど、それがまさに歩にとって冬海さんと経験したことで、その後のカラオケのシーンでは涙が止まらなくなる。知らなくてもよかったかもしれないんですけど、僕は歩にとって必要な時間だったのかなと思いました。実はあのカラオケのシーン、ザ・ブルーハーツを歌っているんですよ。三島さんと一緒に決めたんです。

――歩が冬海さんに出会ったように、今までの人生で藤原さんにとって印象的な出会いはありますか?

藤原 たくさんありましたね。この映画でいえば冬海さん、三島監督との出会い、あと『DIVOC-12』には12本の映画が集まっていて、同世代の俳優や新しい監督たちともたくさん出会うことができました。僕の人生でいえば、二十歳のときの松田美由紀さんとの出会い、『his』(20)という映画で宮沢氷魚という男に出会ったこと、『佐々木、イン、マイマイン』(20)の細川岳。一つの作品を通過するたびに大切な出会いがどんどん増えている感じがします。逆にそれがあるから続けていられるのかもしれません。

――具体的にお名前があがった松田さんと宮沢さんとの出会いは、藤原さんにとってどんな出来事だったのでしょうか。

藤原 最近『his』を見直したんですけど、宮沢くんは一滴の涙も流さずに悲しみを表現していたんだなと思ったんです。なんて正々堂々と演技する人だろう、とすごい発見でした。一方の僕は、すべてのシーンでめそめそ泣きそうな感じで芝居していたんですけど、それを包むように宮沢くんは演技してくれたんだなと思って。撮影が終わって数年経って、こんなに支えてもらっていたんだなと彼の優しさに改めて気づきました。あんな俳優になりたいという意味でもすごく尊敬しています。高倉健さんの映画にハマっているときは、彼の家の前に「高倉健さんの映画観て」と置き手紙したこともありました(笑)。美由紀さんは僕にとって、唯一怒ってくれる存在。僕が熊本の天草で撮影していた「のさりの島」という映画の現場に会いに来てくれたこともあります。言葉では尽くせない恩がありますね。

浪人時代のコンプレックスの反動で役者生活にまい進

――学生時代のお話をおうかがいします。高校時代に夢中になっていたことはありますか?

藤原 特に何にもないですね…。本当にむなしい高校時代でした(笑)。剣道部には入っていたんですけど、1年目の夏でドロップアウトしてしまいました。剣道をやめなかったら部活の仲間といられたんですけど、やめたことで仲間に対して強いコンプレックスを持つようになって。小学1年生から始めたので、幼なじみたちがいっぱいいて、そいつらがどんどん強くなっていくのに自分はドロップアウトしていると思うと、どんどん精神的に落ち込んでいきました。

――剣道はどうして辞められたのですか?

藤原 剣道以外にできることがもっとあるんじゃないかと思ったんです。でも何もなかったんですよね。それまでは剣道一筋で、小学校6年間はずっと坊主でした。特に中学校の3年間はほとんど剣道漬けだったのに、それがなくなったので基本虚無でしたね。やることが本当になくて、ゲームをしたり、友人の家に行ってグダグダしたり、ひたすら時間を潰していました。何もかもが退屈でした。

――大学時代はいかがですか?

藤原 浪人して1年間予備校に通わせてもらってから、晴れて上京しました。今思えば、高校卒業してからすぐに上京すればよかった。でも当時は大学受験をすれば親を喜ばせられるし、上京もできるし、最高だなと思っていたんです。でも大学もすぐに中退しちゃうので結果的に親不孝でしたけど。

――大学にはいつまで通われたのですか?

藤原 1年も行っていないです。3ヶ月通ったあたりだったと思います。1日に何本も映画を見続けるみたいな生活をして、家から出なくなっちゃったんです。アルバイトもせずひたすら映画を見続けていました。

――もともと映画はお好きだったんですか?

藤原 小学校のときから大好きでした。ただ高校3年間は全く見ていなかったかもしれないです。

――大学を辞めたあとは、役者というお仕事に没頭していったのでしょうか?

藤原 浪人時代にあった強いコンプレックスの反動で、役者生活にまい進しました。でも誰でも役者になれるわけではないし、最初の7年くらいは地獄でしたね。好きなことで飯を食ってくのはこんなにしんどいんだって。僕より地獄を見てきた人はたくさんいると思うんで、あんまり大げさなこと言えないんですけど、少なくとも僕にとってはもう最悪でした。でもこれをやめたら、もう死ぬしかないみたいな気持ちがあって。どう生きていけばいいのかわからなかったし、社会生活はまともに送れない、剣道も大学も続けられなかったし、ここで辞めたらもうおしまいだろ、みたいな。崖っぷち状態でした。10年続けた今、やっと「飯食えるかな?」と思えるくらいです。

――これまでたくさんの映画をご覧になった中で、10代のうちに見ておいたほうがいいと思う作品はありますか?

藤原 邦画だと岡山天音くん主演の『ポエトリーエンジェル』(16)です。学校生活になじめない学生たちが、詩のボクシングという自分たちで詩を作ってステージ上で詠みながら戦う競技に目覚める物語です。高校のときにこの映画を見ていたら、ちょっと人生が変わっていたかもって思ったくらい、いい映画です。洋画だと『ウォールフラワー』(12)が素敵ですね。10代の時にどう楽しんでいいのか、どう恋愛していいのかも分からなかったんです。でも『ウォールフラワー』の主人公たちは、殻を脱ぎ捨ててなんとか人生を楽しもうとします。こんなに楽しい世界が広がっていていいんだという気持ちになれると思います。高校生にとって、楽しいことには自分から近づいてみようと思えるきっかけになればいいなと思う映画ですね。

――最後にティーン世代の読者にメッセージをお願いします。

藤原 俳優もそうなんですけど、チャンスなんてないんで、自分から作っていくしかないです。楽しい場を奪われたんだったら、自分でその場所を作っていくしかない。やるしかないんですよね、僕たちの世代は。令和は新世代で、みんなめちゃくちゃ賢いし、行動力もあるはずだし、もう自分からいくしかないです。好きな人がいるなら、自分から好きと伝えるしかない。

――選択肢が多い時代でもありますよね。

藤原 多いですよね。やりたいことがなんでもできちゃうというか、何でも手に入っちゃうので、みんな何を選んでいいか分からないと思います。だから、若いうちにあえて一番苦しい道を選択して、苦労しまくったら、本当の喜びが手に入るんじゃないかという気がします。でも偉そうなことは言えないですね、僕もまだまだ10代みたいなマインドなんで(笑)。

Information

『DIVOC-12』
絶賛公開中!

監督:藤井道人 上田慎一郎 三島有紀子
志自岐希生 林田浩川 ふくだみゆき 中元雄 山嵜晋平 齋藤栄美
廣賢一郎 エバンズ未夜子 加藤拓人
製作・配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

『よろこびのうた Ode to Joy』
出演:富司純子 藤原季節
監督・脚本:三島有紀子

ポスティングのパートと年金で、ひとり細々と生きる75歳の冬海。ある日、海での散歩の途中、東北弁を話す優しい青年・歩と出会い、とある仕事に誘われる。もし100歳まで死ななかったらあと25年……生活の不安、ちょっとした贅沢をしたいという小さな欲望。怪しいと理解しつつも報酬に惹かれ、引き受けることに決める冬海。お金と安心を得るため、二人は背徳的な仕事へと車を走らせる。

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藤原季節

俳優

1993年1月18日生まれ、北海道出身。映画『his』(20)、主演映画『佐々木、イン、マイマイン』(20)にて第42回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞を受賞。21年は映画『くれなずめ』『明日の食卓』『のさりの島』、大河ドラマ『青天を衝け』などに出演。現在映画『空白』が公開中。ドラマ『それでも愛を誓いますか?』が放送中。待機作に、舞台『ぽに』(作・演出:加藤拓也/2021年10月28日(木)~11月7日(日) KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ)、映画『わたし達はおとな』(加藤拓也監督/2022年6月10日(金) 公開)等がある。

Photographer:Hirokazu Nishimura,Interviewer:Sonoko Tokairin, Stylist:Shohei Kashima (W), Hair&Make:Motoko Suga
衣装協力
jacket ¥97,900、pants ¥52,800/共にAPOCRYPHA.(Sakas PR)
T-shirt ¥13,200/SEVEN BY SEVEN(Sakas PR)
その他スタイリスト私物
※すべて税込み
お問い合わせ先
Sakas PR(APOCRYPHA.、SEVEN BY SEVEN) TEL.03-6447-2762