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日本に生まれ育った経験を詰め込んだパーソナルな内容

――どのような経緯で『WHOLE/ホール』の制作は始まったのでしょうか。

川添ビイラル(以下、ビイラル) 弟(川添ウスマン)が脚本を書いたんですけど、書き始める1年ぐらい前から「ハーフやアイデンティティーを扱った題材の映画を撮りたい」と言ってて。その話をする中で、確かに自分たちハーフが共感、感動できるような題材を扱っている映画ってあまりないことに気付きまして。それなら私たちが撮るしかないんじゃないかとスタートしました。

――ウスマンさんは、どうして脚本を書こうと思ったのでしょうか。

川添ウスマン(以下、ウスマン) 兄は昔から「映画を作りたい」と言ってまして、僕もそれをフォローしたいと思っていたんです。ただ、それまで一緒に映画を作ったことはなかったので、どういったものを作ったらいいのかを考えていました。そのときに、普段から抱えていた不満を映画化したいと思いついて、書き始める前に、まずは兄に相談しました。それは面白そうだということで賛同してくれて、2年ぐらいかけて脚本を書きました。

――かなり時間をかけて執筆したんですね。

ウスマン 仕事しながら書いたというのもあるんですけど、今まで日本に生まれ育った経験を詰め込んだパーソナルな内容なので、ルーツを探りながらの作業でした。なので時間もかかりましたね。

――シリアス一辺倒になりがちな題材を、関西人特有のコテコテなギャグを織り交ぜたことで、そこまでウェットにならないところが印象的でした。

ウスマン 関西生まれ関西育ちなので、コメディは大事というか。どれだけシリアスな映画でも、コミカルなワンシーンを絶対に入れたいと思っていました。なので、これまでの日本映画にないような、関西らしいやりとりを強調させることは意識しましたね。僕のような見た目の人が関西弁で話している姿は、なかなか一般的には見られないと思うので、それを画にすると面白いなと思ったんです。

――役者さん同士のやりとりが生々しくて、アドリブ的な要素も多いのかなと感じました。

ウスマン けっこうアドリブはありましたね。台本にも、いろんなギャグは書いてあったんですけど、関西生まれの俳優さんもいたので、アドリブが上手いんですよ。普通に面白い方たちばかりだったので、台本を無視して事前に話し合い、アドリブでやったシーンもあります。

――ウスマンさん演じる主人公の森誠が、仕事仲間と他愛もない話をするシーンは、本物のストリートにいるようなリアリティがありました。あの役者さんたちは、この撮影で初めて会った方たちですか?

ウスマン そうです。撮影に入る前に、かなりリハーサルをしたんですよ。と言っても台本通りリハーサルをするのではなく、区民センターとかに集まって、しょうもない話をして距離を縮めました。やっぱりテンポって大事じゃないですか。関西の方はお笑いに厳しいので、慣れない関西弁で話したり、その空気感をちゃんと見せられなかったりしたら、その時点でリアルさがなくなります。なので、その空気感は大事にしました。

――当初からウスマンさんは自分で森誠を演じようと考えていたんですか?

ウスマン 最初は考えていなかったです。脚本を書いて、兄に渡すまでが自分の役割だと思っていました。ただ、もう一人の主人公・春樹役の(サンディー)海君は、すぐに見つかったんですけど、誠役を演じられる俳優さんが僕の中でいなかったんです。先ほどもお話した通り、僕のパーソナルな経験が入っているので、だったら「俺がやるぞ!」ということで主演も兼ねました。

――これが初演技とは思えないほど自然な演技でした。

ウスマン もちろん演技は難しかったんですけど、ぶっちゃけ自分自身を演じたという感じなのでナチュラルにできたと思います。

――春樹役のサンディー海さんはどういう流れで決まったのでしょうか?

ウスマン 脚本を書く前に、どうしても主役は2人欲しかったので、まずは見た目、身長、しぐさなど、春樹のプロフィールを設定したんです。それにマッチした俳優さんを探しまして、何人かに当たってみたんですけど、なかなかいなくて。最終的に「ハーフ 俳優」でネット検索して、いろいろなエージェンシーのプロフィール写真を見ていく中で、海君を見つけたんです。一目で「あ、春樹っぽいな」と思って、映像も一緒に上がっていたので観たら、しぐさや動きも春樹なんですよ。絶対この人に演じてほしいと思って、Facebookで検索したら、たまたま共通の友達がいたので、連絡を取ってもらったんです。

――すごい偶然ですね!

ウスマン しかも海君は名古屋のインターナショナルスクール、僕は神戸のインターナショナルスクールに通っていたので、絶対どこかですれ違っているんです。後で分かったんですけど、過去にサッカーで対決したこともありました。まあ、僕らの方が強かったんですけど(笑)。

サンディー海(以下、海) それは認めます(笑)。

――春樹は繊細なキャラクターですけど、それが海さんのイメージに合致したということでしょうか。

ウスマン そうですね。「内向的で静かで、何かを伝えたいけど伝えられない」という感じのキャラクターを考えていました。ネットで観た映像が、わちゃわちゃした駅に海君がボーっと立っていて、迷子のような演技をしていたんです。それを観て、これだと思いました。

――ビイラル監督は、海さんをどう思いましたか?

ビイラル 弟と同じなんですけど、海の映像を観たときに「彼だ!」と思いましたし、彼以外に春樹役を想像できなくなりました。

ウスマン 当時、僕は神戸に住んでいたんですけど、海と一回会って話したいなと思って、東京で顔合わせをしたんです。そしたら会った瞬間に仲良くなって、2時間ぐらいしょうもない話をしました。その日はイメージ写真だけ撮って解散したんですけど、すぐに兄に電話して「春樹役は海やわ」って伝えました。

一人ひとりが台本を信じて頑張ったパッションのある映画

――海さんは脚本を読んで、どんな感想を持ちましたか?

海 今まで見たことのないハーフの表現方法だなと思いました。たとえばモデルでいうとハーフはかっこいいイメージで、テレビのバラエティなんかだとハーフのタレントさんは自虐ネタを披露するイメージが強いと思うんです。でも『WHOLE/ホール』の脚本は、ハーフの日常をデリケートに描いていたので、これを演じると考えただけでワクワクしました。

――海さん自身と春樹に共通する部分はありましたか?

海 性格としては、僕と春樹は逆の性格なんですよ。

――確かに話している感じも、物静かなイメージの春樹とは全く違って、明るいですよね。

海 そうなんです。それに名古屋の小さなコミュニティで育ったので、この映画のようにハーフ特有の嫌な経験ってあまりしたことがなくて。でもハーフあるあるだと思うんですけど、「日本語上手いですね」「どこから来たんですか」みたいな質問は週1ぐらいで聞かれます(笑)。ただ僕のディフェンス・メカニズム(防衛機制)として、それを深刻にとらえず、笑いに変えて楽しくするタイプだったんです。ただ、相手に悪気はないと分かっていても違和感を抱くことはありましたし、そこは春樹に共感するところがありました。

サンディー海

――ビイラル監督から見て、お二人の関係性はいかがでしたか?

ビイラル 彼らは、この映画を通して友達になったんですけど、もう10年前から友達だったのかなって思うぐらい仲が良くて。予算的に撮影日数が短いのもあって、私はシリアスに時間を気にしながら撮影をしていたんですけど、二人が休憩中に隅っこで遊んだり踊ったりするんですよ(笑)。そこは現場をコントロールする監督としては大変な部分もあったんですけど、その仲の良さが映画にも反映されていると思います。

ウスマン 春樹と誠は出会ってすぐに仲良くなりますが、実際の僕たちがそうだったので、その関係性を演技で作らなくて良かったので楽でした。春樹ってセリフが少ないじゃないですか。だから顔の表情や目の動きだけで気持ちを伝えるのが大切だろうと、撮影前に話し合ったんですけど、そういう表情で気持ちを伝えるリアリティも、僕と海君の関係性があったからこそだったと思います。

川添ウスマン

――海さんは、数多くの作品に出演していますが、他の現場とくらべて『WHOLE/ホール』の現場はいかがでしたか?

海 すごくパッションのある現場でした。一人ひとりが台本を信じて頑張っていたので、自分もそこにいることができて幸せを感じていました。

――饒舌にバカ話をするシーンもありつつ、全体的に言葉に頼らず、映像で語ろうという意思を感じましたが、そういうことは意識されましたか?

ビイラル そこはかなり意識しましたね。撮影監督の武井俊幸さんがドキュメンタリーを撮る方なんですが、弟と脚本を書いている段階で「この映画はドキュメンタリー風に撮る作品だね」という共通認識だったんです。そういう意味でも、あまりセリフや言葉で説明せずに、映像で見せたいという思いは最初からありました。

川添ビイラル

――ティーンに向けて、この映画の見どころを聞かせてください。

ビイラル 今の話に繋がっていることなんですけど、言葉で何かを伝えたいとか、この映画でこう思ってほしいとか、これが答えですよみたいなことを押し付けたくないんです。アイデンティティーについて悩んでいる方はたくさんいると思うんですけど、この映画で、「こうあるべきだ」って伝える気は一切なくて。日本にはこういう状況があって、こういうハーフの人たちがいますよという現実を知ってほしいですね。

自由な校風のコーニッシュ大学で演劇を学ぶ

――それぞれ映像の世界に進もうと思ったきっかけを教えてください。

海 昔から映画が好きで、インターナショナルスクールでカメラを回したり、映画を作ったりと最初は制作側でした。中学生のときに作った映画で、ダークなお話だったんですけど先生や生徒に感動していただいて、映画には人に影響を与えられる力があるんだと改めて惹かれました。その後、高校にオランダから来た演劇の先生がいて、彼女と出会ってから演技にハマって、ずっと役者をやっています。

――シアトルのコーニッシュ大学で演劇を学んだそうですね。

海 いくつか応募した中にコーニッシュ大学があったんですけど、アメリカはメソッド演技(※現実に沿った自然な演技法)が主流なんです。でもコーニッシュ大学はイギリスっぽいというか、一つのメソッドに縛られずに、それぞれが好きな演技法を選べる学校だったので、そのほうが自由に役者としての可能性を探れるかなと思ってシアトルに行きました。

ウスマン 僕は小さい頃から映画が好きで、最初に衝撃を受けたのが、2、3歳ぐらいのときに父が買ってきた『ターミネーター2』で。それまでアニメばかり観てたんですけど、「こっちの方が全然おもろいやん!」って、めっちゃハマって。ほぼ毎日『ターミネーター2』を観てました。兄も映画好きだったので、それにインスパイアされて、僕は撮影監督を目指しています。独学でカメラを学んで、4年ぐらい前から撮影監督のアシスタントをしているんですけど、いずれは兄が監督して、僕が撮影監督という形で何か作れたらいいなと思っています。

ビイラル 学校に「メディアクラス」というのがありまして、カメラを渡されて、自分たちで撮影して編集して見せるという授業があったんです。それまで得意なものや好きな科目があまりなかったんですけど、カメラを持って編集するということが自然にできて。それまで映画が好きで観ていたんですけど、初めて「映画を撮りたい!」と強く意識するようになりました。それで私は仕事をしながら、大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科の夜間に2年間通いました。

――現在の目標を教えてください。

ビイラル まだ自分が映画監督という実感がないので、映画監督になるのがゴールですね。そのためには、もっと映画を作っていかないといけないと思います

ウスマン 撮影監督になるには幾つかのルートがありまして、ニュージェネレーションのルートはカメラを買って撮るだけでキャリアが成り立つんですけど、僕が選んだトラディショナルなルートは助手から始めて、カメラのテクニカルなところを全部知った上で撮影監督になるものです。僕は時間をかけて撮影監督になるのがゴールなので、まだまだアシスタントカメラマンを続けたいですね。

海 今後も役者として、いろいろな作品に出たいのはもちろんですが、クリエイターとしての活動も行いつつ、将来はプロデュース業もやりたいですし、自分たちの新しい考え方や世界を少しでも良い方向に変えられる作品を作っていきたいです。

――最後に進路に悩むティーンにメッセージをお願いします。

ビイラル すでに夢がある方は、そこに向かって直進で行けると思いますが、どうしても夢が見つからないという方も多いと思います。それは決して悪いことではないので、そこに辿り着くまでいろいろな経験をして、一日一日を大切にして何かを感じ取っていくのが大事だと思います。

ウスマン 僕もまさに同じ意見で、何かやりたいことがあっても、なくても、そこから離れて旅をするなど、いろんな新しい経験をするのが大切だと思っています。僕自身、高校を中退して5年ぐらい肉体労働をして、その経験を『WHOLE/ホール』に詰め込みました。その経験があったからこそ、こんなにユニークな作品を兄と僕のベストフレンズと撮れたので、寄り道もすごく大事にした方がいいです。

海 中学生や高校生って、学校だけが自分の世界になりがちですよね。そんな中で進路を考えて焦ることも多いと思います。でも世界ってめちゃくちゃ広くて、いろいろな人もいて、自分が考えたこともない職業もあります。焦ると大事なことを見過ごすこともあります。ゆっくりゆっくり進むことで、やりたいことも見つかるはずです。何も特別なことじゃなくていいんです。目的のない散歩に行って、初めて見たきれいな花が何かに繋がることもあります。別に目的はなくても、今をエンジョイして歩いていれば、何かに辿り着くのではないでしょうか。

Information

『WHOLE/ホール』
アップリンク吉祥寺ほかにて公開中!

サンディー海 川添ウスマン 伊吹葵
菊池明明 尾崎紅 中山佳祐 松田顕生

監督・編集:川添ビイラル 脚本:川添ウスマン
主題歌:「Wouldn’t It Be Great」rei brown
配給宣伝:アルミード
2019年/ 日本/ カラー/ 44分/ 16:9 / Stereo 
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第14回大阪アジアン映画祭 JAPAN CUTS Award受賞
ニューヨーク・JAPAN CUTS 2019 正式出品作品
ソウル国際映画祭2019 正式出品作品

ハーフの大学生・春樹(サンディー海)は、親に相談せずに通っていた海外の大学を辞め、自分の居場所を見つける為、彼の生まれ故郷である日本に帰国する。春樹は日本に着くやいなや周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親にも理解してもらえない。ある日、春樹は団地に母親と二人で暮らす建設作業員のハーフの青年・誠(川添 ウスマン)に出会う。「ハーフ」と呼ばれることを嫌い、「ダブル」と訂正する春樹と違って、誠はうまくやっているようにも見えるが、実は国籍も知らず会ったこともない父親と向き合うことができない葛藤を抱えていた。様々な出来事を通して彼らは「HALF/半分」から「WHOLE/全部」になる旅を始める。

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川添ビイラル(Bilal Kawazoe)
大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科での卒業制作『波と共に』(’16)が、なら国際映画祭NARA-waveと第38回ぴあフィルムフェスティバルに入選し、第69回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに選出される。短編第2作目『WHOLE』(’19)は、第14回大阪アジアン映画祭インディー・フォーラム部門にてJAPAN CUTS賞 スペシャル・メンションを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTS 2019へ正式出品される。現在はフリーランスとして河瀨直美監督や世界的に活躍する監督の元で映画制作に携わる。

サンディー海(Kai Sandy)
日本生まれ日本育ちの俳優。シアトルのコーニッシュ大学で演劇を学び、東京に戻ってくる。東京に帰国直後、大根仁監の『奥田民生になりたいボーイ』で映画俳優としてのキャリアをスタート。マッケンジー・シェパード監督の短編映画『Butterfly』(’19)では主演を務め、NHK大河ドラマ「いだてん」(’19)にはユダヤ人通訳・ヤーコプ役で出演した。2020年には、出演『花と雨』(監督:土屋貴史、主演:笠松将)が公開された。

川添ウスマン(Usman Kawazoe)
コンテンツクリエイター・俳優。日本人の母とインド人の父を持つミックス。神戸で生まれ、日本のインターナショナルスクールで育った。本作のプロデューサー・脚本・主演を務めた後、進路を変える決意をし、2019年にプロのフォトグラファー・カメラマンとしてデビュー。ハリウッド映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の現場等に参加しつつ、自らプロジェクトをプロデュースし、撮影をしている。

Photographer:Masahiko Matsuzawa,Interviewer:Takahiro Iguchi