一人ひとりが台本を信じて頑張ったパッションのある映画
――海さんは脚本を読んで、どんな感想を持ちましたか?
海 今まで見たことのないハーフの表現方法だなと思いました。たとえばモデルでいうとハーフはかっこいいイメージで、テレビのバラエティなんかだとハーフのタレントさんは自虐ネタを披露するイメージが強いと思うんです。でも『WHOLE/ホール』の脚本は、ハーフの日常をデリケートに描いていたので、これを演じると考えただけでワクワクしました。
――海さん自身と春樹に共通する部分はありましたか?
海 性格としては、僕と春樹は逆の性格なんですよ。
――確かに話している感じも、物静かなイメージの春樹とは全く違って、明るいですよね。
海 そうなんです。それに名古屋の小さなコミュニティで育ったので、この映画のようにハーフ特有の嫌な経験ってあまりしたことがなくて。でもハーフあるあるだと思うんですけど、「日本語上手いですね」「どこから来たんですか」みたいな質問は週1ぐらいで聞かれます(笑)。ただ僕のディフェンス・メカニズム(防衛機制)として、それを深刻にとらえず、笑いに変えて楽しくするタイプだったんです。ただ、相手に悪気はないと分かっていても違和感を抱くことはありましたし、そこは春樹に共感するところがありました。

――ビイラル監督から見て、お二人の関係性はいかがでしたか?
ビイラル 彼らは、この映画を通して友達になったんですけど、もう10年前から友達だったのかなって思うぐらい仲が良くて。予算的に撮影日数が短いのもあって、私はシリアスに時間を気にしながら撮影をしていたんですけど、二人が休憩中に隅っこで遊んだり踊ったりするんですよ(笑)。そこは現場をコントロールする監督としては大変な部分もあったんですけど、その仲の良さが映画にも反映されていると思います。
ウスマン 春樹と誠は出会ってすぐに仲良くなりますが、実際の僕たちがそうだったので、その関係性を演技で作らなくて良かったので楽でした。春樹ってセリフが少ないじゃないですか。だから顔の表情や目の動きだけで気持ちを伝えるのが大切だろうと、撮影前に話し合ったんですけど、そういう表情で気持ちを伝えるリアリティも、僕と海君の関係性があったからこそだったと思います。

――海さんは、数多くの作品に出演していますが、他の現場とくらべて『WHOLE/ホール』の現場はいかがでしたか?
海 すごくパッションのある現場でした。一人ひとりが台本を信じて頑張っていたので、自分もそこにいることができて幸せを感じていました。
――饒舌にバカ話をするシーンもありつつ、全体的に言葉に頼らず、映像で語ろうという意思を感じましたが、そういうことは意識されましたか?
ビイラル そこはかなり意識しましたね。撮影監督の武井俊幸さんがドキュメンタリーを撮る方なんですが、弟と脚本を書いている段階で「この映画はドキュメンタリー風に撮る作品だね」という共通認識だったんです。そういう意味でも、あまりセリフや言葉で説明せずに、映像で見せたいという思いは最初からありました。

――ティーンに向けて、この映画の見どころを聞かせてください。
ビイラル 今の話に繋がっていることなんですけど、言葉で何かを伝えたいとか、この映画でこう思ってほしいとか、これが答えですよみたいなことを押し付けたくないんです。アイデンティティーについて悩んでいる方はたくさんいると思うんですけど、この映画で、「こうあるべきだ」って伝える気は一切なくて。日本にはこういう状況があって、こういうハーフの人たちがいますよという現実を知ってほしいですね。