自由な校風のコーニッシュ大学で演劇を学ぶ
――それぞれ映像の世界に進もうと思ったきっかけを教えてください。
海 昔から映画が好きで、インターナショナルスクールでカメラを回したり、映画を作ったりと最初は制作側でした。中学生のときに作った映画で、ダークなお話だったんですけど先生や生徒に感動していただいて、映画には人に影響を与えられる力があるんだと改めて惹かれました。その後、高校にオランダから来た演劇の先生がいて、彼女と出会ってから演技にハマって、ずっと役者をやっています。
――シアトルのコーニッシュ大学で演劇を学んだそうですね。
海 いくつか応募した中にコーニッシュ大学があったんですけど、アメリカはメソッド演技(※現実に沿った自然な演技法)が主流なんです。でもコーニッシュ大学はイギリスっぽいというか、一つのメソッドに縛られずに、それぞれが好きな演技法を選べる学校だったので、そのほうが自由に役者としての可能性を探れるかなと思ってシアトルに行きました。
ウスマン 僕は小さい頃から映画が好きで、最初に衝撃を受けたのが、2、3歳ぐらいのときに父が買ってきた『ターミネーター2』で。それまでアニメばかり観てたんですけど、「こっちの方が全然おもろいやん!」って、めっちゃハマって。ほぼ毎日『ターミネーター2』を観てました。兄も映画好きだったので、それにインスパイアされて、僕は撮影監督を目指しています。独学でカメラを学んで、4年ぐらい前から撮影監督のアシスタントをしているんですけど、いずれは兄が監督して、僕が撮影監督という形で何か作れたらいいなと思っています。
ビイラル 学校に「メディアクラス」というのがありまして、カメラを渡されて、自分たちで撮影して編集して見せるという授業があったんです。それまで得意なものや好きな科目があまりなかったんですけど、カメラを持って編集するということが自然にできて。それまで映画が好きで観ていたんですけど、初めて「映画を撮りたい!」と強く意識するようになりました。それで私は仕事をしながら、大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科の夜間に2年間通いました。
――現在の目標を教えてください。
ビイラル まだ自分が映画監督という実感がないので、映画監督になるのがゴールですね。そのためには、もっと映画を作っていかないといけないと思います
ウスマン 撮影監督になるには幾つかのルートがありまして、ニュージェネレーションのルートはカメラを買って撮るだけでキャリアが成り立つんですけど、僕が選んだトラディショナルなルートは助手から始めて、カメラのテクニカルなところを全部知った上で撮影監督になるものです。僕は時間をかけて撮影監督になるのがゴールなので、まだまだアシスタントカメラマンを続けたいですね。
海 今後も役者として、いろいろな作品に出たいのはもちろんですが、クリエイターとしての活動も行いつつ、将来はプロデュース業もやりたいですし、自分たちの新しい考え方や世界を少しでも良い方向に変えられる作品を作っていきたいです。
――最後に進路に悩むティーンにメッセージをお願いします。
ビイラル すでに夢がある方は、そこに向かって直進で行けると思いますが、どうしても夢が見つからないという方も多いと思います。それは決して悪いことではないので、そこに辿り着くまでいろいろな経験をして、一日一日を大切にして何かを感じ取っていくのが大事だと思います。
ウスマン 僕もまさに同じ意見で、何かやりたいことがあっても、なくても、そこから離れて旅をするなど、いろんな新しい経験をするのが大切だと思っています。僕自身、高校を中退して5年ぐらい肉体労働をして、その経験を『WHOLE/ホール』に詰め込みました。その経験があったからこそ、こんなにユニークな作品を兄と僕のベストフレンズと撮れたので、寄り道もすごく大事にした方がいいです。
海 中学生や高校生って、学校だけが自分の世界になりがちですよね。そんな中で進路を考えて焦ることも多いと思います。でも世界ってめちゃくちゃ広くて、いろいろな人もいて、自分が考えたこともない職業もあります。焦ると大事なことを見過ごすこともあります。ゆっくりゆっくり進むことで、やりたいことも見つかるはずです。何も特別なことじゃなくていいんです。目的のない散歩に行って、初めて見たきれいな花が何かに繋がることもあります。別に目的はなくても、今をエンジョイして歩いていれば、何かに辿り着くのではないでしょうか。
Information
『WHOLE/ホール』
アップリンク吉祥寺ほかにて公開中!
サンディー海 川添ウスマン 伊吹葵
菊池明明 尾崎紅 中山佳祐 松田顕生
監督・編集:川添ビイラル 脚本:川添ウスマン
主題歌:「Wouldn’t It Be Great」rei brown
配給宣伝:アルミード
2019年/ 日本/ カラー/ 44分/ 16:9 / Stereo
©078
第14回大阪アジアン映画祭 JAPAN CUTS Award受賞
ニューヨーク・JAPAN CUTS 2019 正式出品作品
ソウル国際映画祭2019 正式出品作品
ハーフの大学生・春樹(サンディー海)は、親に相談せずに通っていた海外の大学を辞め、自分の居場所を見つける為、彼の生まれ故郷である日本に帰国する。春樹は日本に着くやいなや周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親にも理解してもらえない。ある日、春樹は団地に母親と二人で暮らす建設作業員のハーフの青年・誠(川添 ウスマン)に出会う。「ハーフ」と呼ばれることを嫌い、「ダブル」と訂正する春樹と違って、誠はうまくやっているようにも見えるが、実は国籍も知らず会ったこともない父親と向き合うことができない葛藤を抱えていた。様々な出来事を通して彼らは「HALF/半分」から「WHOLE/全部」になる旅を始める。
川添ビイラル(Bilal Kawazoe)
大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科での卒業制作『波と共に』(’16)が、なら国際映画祭NARA-waveと第38回ぴあフィルムフェスティバルに入選し、第69回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに選出される。短編第2作目『WHOLE』(’19)は、第14回大阪アジアン映画祭インディー・フォーラム部門にてJAPAN CUTS賞 スペシャル・メンションを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTS 2019へ正式出品される。現在はフリーランスとして河瀨直美監督や世界的に活躍する監督の元で映画制作に携わる。
サンディー海(Kai Sandy)
日本生まれ日本育ちの俳優。シアトルのコーニッシュ大学で演劇を学び、東京に戻ってくる。東京に帰国直後、大根仁監の『奥田民生になりたいボーイ』で映画俳優としてのキャリアをスタート。マッケンジー・シェパード監督の短編映画『Butterfly』(’19)では主演を務め、NHK大河ドラマ「いだてん」(’19)にはユダヤ人通訳・ヤーコプ役で出演した。2020年には、出演『花と雨』(監督:土屋貴史、主演:笠松将)が公開された。
川添ウスマン(Usman Kawazoe)
コンテンツクリエイター・俳優。日本人の母とインド人の父を持つミックス。神戸で生まれ、日本のインターナショナルスクールで育った。本作のプロデューサー・脚本・主演を務めた後、進路を変える決意をし、2019年にプロのフォトグラファー・カメラマンとしてデビュー。ハリウッド映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の現場等に参加しつつ、自らプロジェクトをプロデュースし、撮影をしている。
Photographer:Masahiko Matsuzawa,Interviewer:Takahiro Iguchi