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誰にも自分の中で踏み込まれたくない領域がある

――山田さんが主演を務めた映画『ひらいて』は芥川賞作家の綿矢りささんが原作で、首藤凜監督が「この映画を撮るために監督になった」と言うほど思い入れのある作品です。原作を読んだときの感想はいかがでしたか?

山田 映画のお話をいただいて、主人公の愛を演じると分かってから原作を読みましたが、まず思ったのが「愛が全然分からない!」(笑)。彼女の衝動みたいなものは理解できますし、「そういうのあるよね」って共感もあるんですけど、いざ自分で演じるとなると不安で。たくさん愛を理解しなきゃいけないなと思いました。

――愛は好きな人を奪うためには手段を選ばない、ある意味ヒール的な存在ですよね。

山田 そうですね。高校のスクールカーストでは高い位置にいるけど、本当は不安だし、保守的なところもあります。それも高校生らしいところで面白いなと思いました。

――どのような役作りを意識しましたか?

山田 ちょっとした目線の動かし方とか、一つひとつの動きに迷いがないような振る舞いを意識して演じました。まばたきをあまりしないようにしたり、目線をキョロキョロさせないで定めたり。廊下で他の生徒とすれ違うときも、あまり自分からよけない、みたいな。

――山田さんの目力が遺憾なく発揮されているなという印象ですが、視線の演技は難しそうですね。

山田 私は気が弱いというか、迷ったときにキョロキョロしちゃうクセがあるんです。普通に悩む子であればそれでいいんですけど、今回の愛はあまり弱さを見せたくなかったので、「視線をそらす時にはここを見るようにしよう」と決めて演じました。

――山田さん自身の普段の立ち居振る舞いで、愛と似ている部分はありますか?

山田 淡々と冷めている喋り方のトーンやテンションは、わりと普段の自分に近いかもしれないです。

――体を張った演技も多いですね。

山田 私、本当に運動をしないのでけっこうきつくて……。学校の窓から侵入するシーンでフェンスを越えられなくて、脚にサッシの痣ができました(笑)。結局、台を置いてもらって対応したんですけど、このシーン以外にも体を使った演技が多くて、かなり傷だらけでした。身体の動きからも、愛の暴力性や勢いを感じさせたかったですし、運動している愛がかっこ悪かったら嫌だなって思いながら演技していました。

――原作を読んだときは「愛が分からなかった」と仰っていましたが、台本を読み込んだり、実際に演じたりしていく中で、愛をだんだん理解できるようになりましたか?

山田 好きな人を奪いたいって気持ちは、みんな持っていると思うし、私自身も持っています。でも愛はそれを行動に移せるという点で普通とは違っていて、そこが分からなかったんです。だから、分からない部分を理解するよりも、途中からは根本的な部分に目を向けることを大事にしました。愛自身は「こうだからこうした」みたいに、理論的に行動している訳でもないので、演じる上でも考え過ぎないようにしたんです。

――『ひらいて』の登場人物の中で、ご自身に近いキャラクターは誰ですか?

山田 たとえかな。私も、愛みたいに来られたらちょっと怖いってなっちゃいそうですし、誰でも自分の中で踏み込まれたくない領域があるじゃないですか。私にも、そういうものはあります。たとえほど第三者のような感じにはなれないですけど、似てる部分はあると思います。

監督が現場で生まれるものを大事にしてくださった

――首藤凜監督の演出はいかがでしたか?

山田 こんなに年の近い監督(※首藤凜監督は1995年生まれ)は初めてだったので、たくさんお話しをさせてもらいました。首藤監督は高校生の頃に原作の『ひらいて』を読まれていて、ずっと映画にしたかったと伺っていたので、「愛が分からないんです」ということも全て伝えていました。

――山田さんの「分からない」に対して、首藤監督はどう仰っていたんですか?

山田 この映画が完成した後、「分からないまま演じてほしかった」という首藤監督のインタビュー記事を読んだんですけど、現場では「分からなくていいんだよ」とは一切仰らず、一緒に考えるようなスタンスで接して下さいました。首藤監督と共に、少しずつ愛というキャラクターを作っていきました。首藤監督の中には、「愛をこうしたい」というものがあったと思うんですけど、現場で生まれるものを大事にしてくださいました。

――共演の芋生悠さん、作間龍斗さん、それぞれの印象を聞かせてください。

山田 芋生ちゃんは5年ぐらい前から知っていて、お仕事でご一緒するのは3回目になります。本当に優しくて、「姉さん!」って言いたくなるようなタイプです。芋生ちゃんが先に帰るときは「残りの撮影頑張ってね。美雪」という役名を書いたメモをテーブルの上に残してくれたんです。「美雪だったらこうするだろう」ということを思ってのメモだと思うんですけど、可愛くて素敵な人です。

――作間龍斗さんとの共演は初めてですよね。

山田 作間君は、現場ではずっとたとえでした。本人は「すごく緊張していた」と言ってたんですけど、物怖じしないところや雰囲気もたとえっぽいなって。私たちは3人ともまったりしているというか、マイペースで落ち着いたテンションの人たちだったので、世間話をしているときも、すごくゆったりしていて居心地が良かったです。とてもいい空気感でしたね。

――映画では緊迫したシーンも多いですが、現場は和やかだったんですね。

山田 シーンによってはピシッとした空気でしたけど、映画の内容から想像するよりは和やかだったと思います。首藤監督もそうですけど、ゆったり喋る人たちが多かったんです。

――懐かしさを感じさせるロケーションも、和やかな雰囲気に一役買ったのではないでしょうか?

山田 足利市に1カ月ぐらい泊まり込みで撮影したんですが、地方ならではの空気感は、愛を演じる上でもいい場所だなと思いました。学校はよく撮影で使う場所だったんですけど、ここまでアクティブに動き回ったのは初めてです。

――『ひらいて』の撮影当時は山田さん自身、ほぼ愛と変わらない年齢だったんですよね。

山田 19歳でした。

――年齢が近いと、高校生役も違和感なく演じられるものですか?

山田 私は高校生の時から仕事をしていたので、普通の高校生活を経験したかと言われればそうじゃないんです。現役高校生の頃から、高校生を意識して演じていた部分があります。『ひらいて』の撮影では、すでに高校を卒業していたので、「高校時代にやりたかったこと」を思い出しながら演じていました。これからも見た目がいけるうちは「高校生!」って気持ちで演じたいです。

――改めて現役高校生に向けて、『ひらいて』の見どころを教えてください。

山田 愛もそうですけど、多くの高校生って「学校がすべて」みたいな限られたコミュニティーに生きていると思うんです。この社会の中で、自分はどうしていたいか、どうやっていこうかというヒントを、『ひらいて』の登場人物の誰かしらから見つけてもらえると思いますし、ふわっとでも考えてもらえるきっかけになるはずです。

頑張っている人を尊敬する校風に助けられた

――山田さんは10歳で芸能界入り、中学時代に演技のお仕事を始めていますが、高校生の頃には「この仕事1本でやっていこう」という強い気持ちがありましたか?

山田 私は高校3年の夏に通信制高校に転校して卒業しました。転校前の学校は普通の女子校で、周りはあっという間に大学進学を決めていました。私も仕事はしていましたけど、高校2年生までは大学進学すると思っていましたし、進路希望を提出するときもそう書いていました。でも、お仕事があると単位的に厳しくなってきました。そのタイミングで転校して、仕事1本でやっていこうと決断しました。

――高校3年生の頃は、次々と大きな役を演じられています。

山田 映画『小さな恋のうた』(19)のヒロイン役だったり、「幸色のワンルーム」で初めてドラマ主演をやらせてもらったりしたのが高校3年生でした。この時期に、高校に普通に通えて、卒業もできていたら、仕事1本でやるという決断はできなかったかもしれません。いろいろな役をいただけたタイミングだったからこそ、その選択をできたと思います。

――高校2年生まで大学進学を考えていたということは進学校だったんですか?

山田 そうです。中学のときにめちゃめちゃ勉強にハマって、頑張って受験して入った高校でした。ただ、小学校のときは習い事みたいな感覚で仕事をしていた部分があったんですけど、だんだん自分の中で仕事の比重が大きくなっていきました。母親は「選択肢は多いほうがいい。そのためにできる努力はしなさい」という人だったので、勉強も仕事も頑張っていました。だからこそ大学進学を辞めると言ったときも、母親はあれこれ言わずに「分かった」と受け入れてくれて本当に感謝しています。

――勉強と仕事の両立はいかがでしたか?

山田 高校に入ってからは仕事優先だったので、両立できていたかというと微妙なところです。学校のみんなは、部活と勉強を両立している人たちばかりで、私よりも忙しいだろうにすごいなと思っていました。その高校は頑張っている人を尊敬する校風だったので刺激になりましたし、お仕事に打ち込むことにも負い目を感じることなく頑張れたので、すごく環境に恵まれていました。

――印象に残っている学校行事は何でしょうか?

山田 転校前に修学旅行で台湾に行ったことです。すごく楽しかったです!私自身、初めての海外でしたし、それを学校のみんなと行けたのが今振り返ってみても良かったです。学校行事って修学旅行しかり、文化祭しかり、その時は大変だなと思うことが多かったとしても、なんだかんだ後になって、良かったなと思うんですよね。

――最後に進路を検討している高校生読者にメッセージをお願いします。

山田 もともと私は、こういう進路を考えていませんでした。それでもその環境に置かれたら、こうしていきたいという気持ちが生まれていくものです。高校時代は将来的に何がしたいと決まっている人の方が少ないと思います。私自身の経験で、選択肢を多く残しておいたことが大事だったなと思うので、一つに絞るのではなく、今やりたいことを何でもやっておくことがおすすめです。そうすれば、今後何かやりたいことが見つかったときに、「あ!これもできるじゃん」って心の余裕にも繋がるのではないでしょうか。何事もなるようになるんです!

Information

『ひらいて』
2021年10月22日(金)全国ロードショー

山田杏奈
作間龍斗(HiHi Jets/ジャニーズ Jr.) 芋生悠
山本浩司 河井青葉 木下あかり
板谷由夏 田中美佐子 萩原聖人

監督・脚本・編集:首藤凜
原作:綿矢りさ『ひらいて』(新潮文庫刊)
音楽:岩代太郎 主題歌:大森靖子「ひらいて」(avex trax)
プロデューサー:杉田浩光 中村優子 富田朋子
制作プロダクション:テレビマンユニオン 製作:「ひらいて」製作委員会
配給:ショウゲート
©綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

高校3年生の木村愛(山田杏奈)は、クラスでも目立つ華やかな存在。常に友人に囲まれ男子にも不自由しない愛が、その姿を見ただけで胸を苦しくさせるほど恋焦がれているのは、同じクラスの西村たとえ(作間龍斗)。だが彼には誰にも知られていない“秘密の恋人”=新藤美雪(芋生悠)がいた。2人の揺るがない絆を知った愛は、美雪に急接近。いびつでエキセントリックな三角関係は、思いもよらない方向へ走り始める。

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山田杏奈

女優

2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。2011年に開催された「ちゃおガール☆2011 オーディション」でグランプリを受賞しデビュー。『ミスミソウ』(18)で映画初主演を果たし、その後『小さな恋のうた』(19)で、第 41 回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。その他、ドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」(W主演/20 /MBS・TBS)「書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜」(21 /EX)、映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』(W主演/20)、『樹海村』(W主演/21)、『名も無き世界のエンドロール』(21)、『哀愁しんでれら』(21)今後の待機作に『彼女が好きなものは』(21年12月3日公開)など多数あり、話題作へ続々と出演する今注目の若手女優。

Photographer:Yuta Kono,Interviewer:Takahiro Iguchi