家から出たくなくなるほどのプレッシャーの中で挑んだ収録

――9年ぶりに14歳のキリトを演じてみていかがでした?

松岡 『SAO』第1シーズンの放送は2012年。僕はデビュー4年目でした。あれから現場での経験値も重ねたことで、当時と比べると質も技術も何もかも雲泥の差で。あの当時の僕はと言えば、とにかく芝居することに必死でした。ですが、今回のキリトは14歳のキリトなので、その時の自分を再現するべきなのかと、色々考えました。もし、9年前の僕を真似ることがベストなら、当時の音声を使うのと変わらなくなってしまいます。とは言っても、あの当時に演じた「14歳のキリトの声や演技」は忘れたくない、しかし真似するのはやはり違う……というジレンマがテスト直前までありました。いくら自分なりの「当時の14歳のキリトの声」を家で考えても、最終的に音響監督さんをはじめとした現場判断があるので、あまり悩みすぎても仕方がないのです。正直テスト初日は、「家の玄関から出たくない、行きたくない」レベルの緊張のまま現場に向かいました(苦笑)。

――松岡さんほどの実力を持ち、しかもキャリアを積んだ方でも、相当なプレッシャーだったんですね。

松岡 どの収録も前日になると眠れなくなるほどの緊張に襲われます。それは今も昔も変わりません。いざテストが始まり、「よし行くぞ」と、力を入れてバーン!と臨みます。「何か言われるのかな?」と不安に思っていたら、第1シリーズから音響監督を務めている岩波美和さんから「その声の出し方、きつくない?」と聞かれたんです。たぶん当時のキリトを演じている時の声色や、当時の自分をリスペクトするように一音ずつはっきりと発音していて。その発声法が岩浪さんからしたら、僕が無理しているように聞こえたのだと思います。そうしたら、「今の自分で、当時のキリトを演じればいいんだよ」と背中を押していただいて。それ以降はディレクションはなく、スムーズに進んでいきました。途中からはどんどんエンジンがかかってきて、気づいたら戸松さんに向かって「だんだん楽しくなってきました!」と言っていました。

――9年という長きに渡って演じてきたキリトという存在に、特別な想いはあるかと思います。

松岡 そうですね。僕の方が圧倒的に歳上とはいえ、キリトとは『SAO』の新作やコラボなど、収録のたびに一緒に歳を重ねてきて。なんというか、肉親みたいな感じです。収録の時も「じゃあ行くか?」と僕が言ったら、キリトも「じゃあ、行こう!」となるみたいな、ある意味で相棒のような関係。本当に日常的にそのまま演じています。逆にこっちが収録のたびにテンション上がってしまうと、これまで共に自然に歩んできてくれたキリトに申し訳ないのかなと思っています。

――新作が出るたびに歴史が進んできた『SAO』は、『プログレッシブ』で過去を掘り下げることでさらに世界を拡張しました。今や世界的な人気作になった作品に携わり続けられる喜びや感動を感じる瞬間はどのような時でしょうか?

松岡 『SAO』は一人ひとりが自分の能力を使い、チームで作っている作品で。すごくありきたりかもしれませんが、視聴者の方から「良かった」、「心にきた」、こういった喜びの反応をいただいた瞬間が一番の励みになります。例えばイベントや番組で新作発表の特報が流れたりしますよね。その瞬間、の盛り上がり方のすごさ。中でも2017年ごろにイベントで《アリシゼーション編》制作決定を発表した瞬間、会場は「待っていたよ!!」という悲鳴に近い歓声が湧いて。あの光景を見て、あまりのすごさにブルブルって武者震いしながら、思わず口元が緩くなりました。登壇者の我々は、その情報が出ると全員知っているわけです。それでも映像が流れ、ファンの方が驚き、歓声が湧いた瞬間、僕たちも「おぉ!!」と感動してしまうのです。『SAO』に新たな動きがあるたびに、僕たち演者、スタッフさん、全員も「待っていたよ」という気持ちになれる作品です。